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悪魔のような勇者の伝説  作者: 夜桜
第1章
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神の遊戯

ルシフェル視点です


 私が世界が創造してから2000年。やはりこの世界を創ったのは正解だった。様々な遊び方を思いついて飽きさせないな。


 ミカエルはなかなか見所がある。あやつはあの盤上の駒をちゃんと駒として扱っておる。流石は私の子だ。あれこそが我ら神たる者の姿だ。我らは神、この壮大なる遊戯を楽しむ者。世界という盤上で人という駒を用いる遊戯。駒を動かしてどうなるのかを見るのが面白いのだ。


 それに比べてルシフェル、あやつはダメだ。あやつはあの盤上の駒に心を動かされておる。ただの駒ごときに。あんなものは神の姿ではない。故に我が子でもなんでもない。そろそろあやつにはこの立場から退場してもらうとしよう。






 ♢ ♢ ♢


 我はルシフェル。絶対神である父のもとで一人前の神となるために日々精進していた。


 父は世界を創造し、まず海を創り出した。海は途方もなく青く、美しかった。


 次いで父は大地を創り出した。その大地が成長していく姿は、とても素晴らしかった。大地はまた新たな命である植物を生み出していったのだ。大地は我らの手を離れてもなお、新たな命を生み出す。なんと美しい姿だろう。我は心が震えた。


 さらに父は、世界の形を少しずつ整形していった。山を造り、谷を造り、湖を造り、時には砂漠を造ったりもした。そうして整形していくたびに、世界は美しさを増していった。


 そして父はその世界に新たな命として、動物たちを造った。彼らが無邪気に生きている姿は我の心をより穏やかにしてくれた。




 だが我は、父が狂い始めたことに気付いてしまった。



 ある時、父は創造したその世界に『アブザード』という名を名付けた。その世界に人間族、魔人族の二つの種族に分類できる人という存在を造った。そして魔力と呼ばれるものを造り、世界に放った。また、その魔力を無理やり動物たちに食わせ、魔物とした上で人を襲わせた。


 父は最初は恐れる人の姿を楽しんでいた。しかし、人が魔物に対抗するための術を考える知性を持ち始めたことに興味を持った。


 そこで、一部の人間族を使って新たな遊びを始めた。具体的にいえば、人間族の神官と呼ばれる者たちに神の教えとやらを説き始めたのだ。それは、神の教えとは名ばかりの父が楽しむためだけの命令だったが。人間族の神官たちはなまじ知性が付いていたために、絶対神である父の言うことをしっかりと実行するのだった。父に言わせればそれは『神の遊戯』。彼らは生き物ではなく駒だと。父は一人でさながらチェスの盤上を再現し、駒を思いのままに動かすことで、一人で楽しんでいるようだった。


 その世界の姿はその名である『アブザード』が示す通り、不条理としか思えない世界となってしまった。


 父はそれを至高だと言った。


 だが、私はそれが神たる姿だとは思えなくなっていた。


 神とは世界を創造し、世界を正しい方向に導くもの。いや、その助言をするもの。


 あれはもう神ではなく、狂った悪魔だ。


 そんなことを我が思っていることなど父はお見通しといった様子で、我に『神の遊戯』なるものに関わらせないようになった。


 一方で我の双子の弟であるミカエルには新たな世界さえ与えていた。その世界の名は『地球』。ミカエルは『神の遊戯』なるものを父のように楽しんでいた。あいつは『地球』を『アブザード』で使える駒を育成するための世界として使うことにしたと言っていた。狂っている。


 彼らはさらには、魔人族の神として我、ルシフェルを祭り上げ、人間族の神としてミカエルを立てた。そして人間族の神官にルシフェルが絶対神に逆らう逆賊だと伝え、魔人族との戦争をけしかけたのだった。彼らは人間族がどのように魔人族を滅ぼすのかを見て楽しみたいのだった。魔人族を滅ぼすためにより強き存在を『地球』から呼び寄せる術をも神官に助言したらしい。


 我は父とミカエルの狂った所業をなんとか止めたいと考えた。


 そこで、彼らに気付かれぬよう、我自身の魂を『地球』に放った。そして我の思惑通り、我の魂をもった人である桐生義人は『アブザード』に召喚された。


 だが我にとって予想外のことが起きた。


 父は我を完全に見限って、我が力を『アブザード』の各地にばらまき、我自身をも『アブザード』のどこかの洞窟に落とした。いや、落としただけでは飽き足らず、封印を施したのだ。


 これでは、我の分身である桐生義人の力もかなり弱まってしまっているだろう。


 なんとか生き延びてくれ。


 そして我のもとに……。


 我は義人が訪れるその時を信じて、封印を解くための魔法をかけ、眠りについた。








 ♢ ♢ ♢


『そしてヨシトが運よく我のもとに来てくれたというわけだ。最初に出会った時はここまで話をする時間もなくてな。すまなかった』


『いや、いいんだ。なるほどな。じゃあ僕はもとから人ですらなかったわけだ。いや、納得がいったよ。それに僕はルシフェルこそ悪魔みたいに見えたけど、絶対神とやらは本物の悪魔だな』


 我と同じ存在であるヨシトはそう言う。いや、もう我と同じ存在と呼ぶのは、間違っているか。彼はもう立派な桐生義人という存在だ。


『我は悪魔のように見えるか?』


『いや、今はただの可愛いお嬢さんにしかみえないぜ』


 彼はそんな風に笑った。我をお嬢さん扱いとは、なかなか言うな。


 彼はこの少しの期間で大きく成長しているのが見て取れた。特に精神が。まだ危うさもあるが、これからももっと成長していくだろう。我はそんな彼のこれからの成長がより楽しみになっていた。彼なら、我が想像もできない未来を切り拓いていくような、そんな予感さえする。


『だけどそしたら、僕たちって絶対神やミカエルに消されたりしないの?』


『それはできない。やつらはあくまで創造主。我らを消したりなんていうのは掟に反するからな。特に最近奴らは力を使いすぎていたから、今は人間族の神官たちに助言することくらいしかできないだろう』


『そうか。ならよかった。ところで、ユラの話だったと思ったんだがなぜそんな話をしてくれたんだ?』


 ヨシトは疑問そうな表情をしている。


『それなのだが、魔王の能力を奪った魔法とやらでは魔法陣が浮かび上がったのだよな?』


『ああ。やはり魔法陣がカギなのか?』


『その通りだ。この世界で魔法陣が浮かび上がる魔法というのは基本的に神の力が宿った魔法なのだ。我を封印していた魔法が解除されるときも魔法陣が浮かび上がっただろ?あれは我とヨシトが出会った時に封印が解除されるよう、あの扉にこっそり我の力を宿した魔法をかけておいたからなのだ』


『なるほどな。だけどさっき絶対神たちはこの世界に力を加えることはできないって言ってなかったか?』


 全くその通りなのだが、恐らくは……


『神官、もしくはお前と共にこの世界に来た勇者もどき共を使ったんだろう。やつらの誰かに神級魔法でも教えたんだ』


 神級魔法は、神が使うレベルの魔法で、この世界の常識を超えたような力を発揮する。


『勇者もどきって……』


 ヨシトは苦笑いを浮かべている。


『そうだろう?我にとっての勇者はヨシトただ一人なのだから』


『僕は勇者ってがらじゃないんだけど、まあ頑張らせてもらうよ。それで、ユラを助けるためにはどうしたらいいと思う?』


『いくら神級魔法と言っても人間が使ったものだ、魔王はまだ力を取り戻せていないみたいだが、あと数日もすれば力は戻ると思うぞ。だが、普通に考えればそれまでに命を狙ってくるだろうな』


『なるほど、じゃあ話は簡単か。狙ってくる奴らからユラを守ればいいと』


『そういうことだ。ちなみに神級魔法というのは、一つの魔法につき一度しか使われることがないようにできている。だから同じように能力を奪われるような魔法はもうこないから安心していい』


 それに、もし神級魔法が放たれたとしても、我が必ずヨシトを守って見せる。我が希望をこんなところで失うわけにはいかぬ。


『よし、そうと決まればすぐに城に向かうか。宿には来たばっかりだけど、まあ仕方ない』


『うむ、いつ襲われてもおかしくはないからな。そうした方がいいだろう』




 そうしてヨシトは『魔王城』に向かった。



ルシフェルは神なので性別はないんですが、なんか主人公の中にいるのがガチムチな男とかなのはなんか嫌なので、女の子的な見た目を想像していただけるとありがたいです。

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