失った力
まさかユラが『魔王』だったとは驚いた。となるとユラは能力を隠しているのだろうか。彼女からはそこまで強い力は感じなかったからな。まあ『魔王』であることがすぐにばれるようでは困るのかもな。
……ん?
でも僕にはこんなに簡単にばらしちゃってるけど……いいのか?
「『魔王』様。先ほどまでのご無礼な態度、大変申し訳ございませんでした」
「いやいや。ヨシト、できれば今までのように喋ってくれると助かるんだけど。私堅苦しいの苦手なんだよね」
「あ、そうなん?なんだ、心配して損した」
「ふふふ。私が『魔王』だと知ってそんなふうにしゃべってくれたのはあなたが初めてよ」
ユラは嬉しそうにそう言う。
「ところで、ユラは能力を隠したりしているのか?どうも『魔王』だという割にあまり力を感じないのだが」
ユラは少し困ったような顔をして、シルフィアさんの方に目をやる。どうやら事情があるらしいな。あまり詮索しすぎるのは良くないか。
「いや、言いたくないならいいんだ。悪かった」
「ううん!そんなことないのよ。だけど、この問題はこの世界を救えるような、それこそ私たちの神様である『魔神ルシフェル』様くらいでないと解決できそうにないのよ」
んー、『魔神ルシフェル』様ねー。そろそろ僕の中で目覚めてもいいころなんじゃないかと思うんだけどね。どうしたものか。僕の正体を教えても問題ないのかな。
『魔神』がこんなところにいるとなっては大騒ぎになってしまうのではとも思う。
しかし『魔王』は、僕が救いたいと思っている魔人族の王様だ。しかもユラは確実にいい子だと思う。まあ勘だけど。
彼女の瞳は僕のことを真っ直ぐとらえて、それでいて僕のことを真剣に考えてくれているように感じる。さらには自分の正体も明かしてくれているし。
ただ、万が一のことを考えた方がいいよな。もう少し違った質問もしてみよう。
「それじゃあ違うことを聞くけど、どうして僕に正体を明かしてくれたのかな?僕みたいな部外者で『魔王』に会いたいなんて人、明らかに怪しいと思って警戒されるような気がするんだけど」
「んー、なんでかと言われると難しいけど……。一言で言えば勘ね。私は『魔王』という立場からか昔からよく命を狙われたわ。だから、危険な人かどうかを見分けることは簡単にできるわ。それにあなたからは危険な雰囲気どころか、私を救ってくれるような気配すら感じたの。ここまで強くそんな気配を感じたことは今までなかったから、あなたが私と会いたいと話してくれて正直嬉しかったわ。だからこそ、私も自分の正体を打ち明けようと思ったのよ」
なるほど。まあ僕もここにきて自分の勘を頼りに行動しているし、本心だろう。僕も嘘を言っているかどうかくらいなら見分けれるつもりだ。
その時、頭に音声が響いた。
スキル『真実の眼』を獲得しました。
『真実の眼』
相手が真実を言っているか嘘を言っているかを判断することができる。
……なんだ今のは。とりあえずスキルを獲得したみたいだし、内容まで頭に響いてきたから使ってみよう。
僕は『真実の眼』を使用してユラの言っていることが真実かどうかを確かめた。
まあ結果は言うまでもなく真実だったわけだが。
しかも彼女も僕のことを味方だと認知してくれている。
彼女を助ける条件としてはもう問題ないだろう。
『魔王』を助けた、という事実も今の僕には有利に働くだろうしな。
まあもしこれで不利になったとしてもこの子のことは助けたいと思っただろうが。なんとなく直感的にそう思ってしまっていたから。
「そっか。その言葉を聞けてうれしかったよ。だから僕も君のことを助けたいと思う」
「え、でもさっき言った通り普通の人に私を助けることは……」
そこで僕は彼女の近くに歩み寄り、ステータスプレートを彼女に渡した。
「ッ!?これは一体……」
「僕は『魔神』なんだよ。僕と『ルシフェル』はもともと一つの存在なんだ。とは言っても目覚めたのはつい最近なんだけどね。だから、君のことを助けられると思うんだ」
彼女は信じられないものを見たといった感じで、驚きすぎて倒れそうになっている。
まあいきなり『魔神』とか現れたら驚くのも当然だよな。
「ええっと、うん、そう、『魔神』ね。うん。もう大丈夫。なにかあるとは思っていたけどまさかこんなこととは思わなかったわ」
まあそうだろうな。
「だけどこれであなたが『魔王』に会いたがっていた理由はなんとなくわかったわ。つまりは私達魔人族、いえ違うわね。この世界自体を助ける価値があるか、それを確かめるために私と接触したかったのね」
「そういうことになるかな」
「それで私を助けてくれるってことは少しは認めてくれてるってことか……。うん、ありがとう!」
「いえいえ。それで僕は君を助けたいんだけど、どうしたらいいのかな?」
そうね……、と彼女は話し始めた。
彼女は昔から命を狙われることが多かったと言っていたが、本当の意味で『魔王』として名が広がった最近でもそれは起きているらしい。
ここまで『魔王』の力が世の中に知られていても命を狙われることがあるんだなー。
そしてつい3日程前、その事件が起こったそうだ。
その日は『魔王城』でパーティーが催されており、もちろん『魔王』であるユラも参加していた。パーティーも数時間が過ぎ、そろそろお開きの時間が来るという頃、それは起こった。突如ユラの足元に魔法陣が浮かび上がったのだ。ユラは、その魔法陣に力のほとんどを奪われてしまったのだという。
その魔法を使った者を見つけることもできていないらしい。
また、この能力を奪うなどという魔法は今までに発見されておらず、解除方法もわからない。
だからこそ、この世界で神と呼ばれる存在であれば、もしかしたら対処法を知っているかもしれないと思って望みをかけていたらしいんだ。
だけど、さすがに僕はこの世界に来たばかりでそんな魔法のことも知らない。弱ったな。ルシフェルなら何か知っているかもしれないけど、まだ僕の中で眠っているし。そろそろ目を覚ますと僕の直感は言っているんだけどな。
「ごめんね、気にしなくていいの!私自身で何とかすべき問題だったわ」
僕が困った顔をしているように見えたのか、ユラはすぐにそう言った。
「いや、助けられないわけじゃないんだ。ただ、少し時間をもらってもいいかな?僕の中に今も眠っているルシファーが目を覚ませば、行動を起こしたいんだ」
僕は彼女の不安をできるかぎり取り除けるよう、言葉を選びながら答えた。
「うん。私は力が戻るなら本当にありがたいことだから、時間なんてどれだけかかってもいいわ。私のためにありがとう、ヨシト」
そうは言うが、あまり時間をかけてもいられないだろう。
この魔法をかけた犯人が、そんなに長い時間放っておくはずがない。
できるだけ急がなくては。
「何かわかったら報告するから、その時にまた城に来てもいいかな?」
「ええ。その時はあなたのことを最優先させてもらうわ」
それはちょっと困るかもしれないのですが……と本当に困ったような顔をしながらシルフィアさんは言っているけど、事が事なので他の用事よりも優先させた方がいいだろう。
僕は城を後にして、図書館へ向かった。
ルシフェルが目覚める前に、できる限りのことはしないとな。