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悪魔のような勇者の伝説  作者: 夜桜
第1章
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覚醒

 掌に出したライター程度の火の明かりだけを頼りに、僕は横穴の中を進んでいく。


 横穴とは言ったが、もう普通の洞窟だ。ごつごつした岩がそこら中から突き出している。横穴の構造は想像していたよりも広く、横は人間が20人程度は入りそうなくらいの幅で、縦は5メートルくらいだ。たまに突風が吹き抜けること以外はただの洞窟にしか思えない。


 だが、ここは『風の洞窟』の下層。強力な魔物がごろごろ出てくる危険な場所だ。せっかく拾った命をそう簡単に手放すわけにはいかないので慎重に進んだ。




 ――横穴を進み始めてから数時間


 僕が想像していたようなことは全く起こらなかった。魔物がでてこないのだ。


「流石におかしくないか……」


 もうすでにかなりの距離を歩いているが魔物の姿が全く見当たらないのである。最初は入った横穴がたまたま魔物の少ない横穴で、つまりは自分の運が良かったんだと思っていたが、この距離を歩いて魔物と出会わないなんてあり得るのか?ここがどのくらい下の階層かわからないが、騎士団長の話によると穴に落ちたら強力な魔物にやられるという話だったから、『風狼』レベルの奴がごろごろしているのを想像していた。


 そういえばなぜ『風狼』があんな上の階層にいたんだろう。普通はもっと下の階層にいるはずなのに。わざわざ自分のテリトリーを離れることに意味なんてあるのだろうか。いや、デメリットしか思いつかない。できるだけ自分のテリトリー内で行動し、他の魔物にテリトリーを奪われないようにするのが普通だろう。


 この世界の魔物は元々は動物であったと言われているのだが、その特徴も引き継いでいるようで、群れを作ったり、テリトリーを守ろうとする習性がある。そのテリトリーを離れて行動するなんて、余程のことがない限りない。そんな余程のことがあったのだろうか。子供がどこかにいってしまったとか?だが『風狼』は知能も高くて、子供とはいってもそんな行動はとらないはずである。じゃあ餌が足りなかったとか?とはいってもあそこまで上の階層に行く必要はないような。仲間の危機を助けにいった?いや『風狼』は基本的に群れは作らずに単独行動をする。一匹でいた方が危機への対処ができるとのことらしい。危機への対処?何か危機が起こったことへの対処として上の階層に行くことになった?


 そこまで考えた時、ある仮説が一つ思いつき、僕は血の気が引いた。


『風狼』レベルでも危険を感じるほど強力な魔物が下層に現れたのではないだろうか……。


 この仮説が正しいとすると、僕は非常に危うい。魔物の数はおそらく多くないのだろうが、遭遇したらまず瞬殺されるだろう。とにかく今まで以上に慎重に……






 カタッ……






 洞窟に響く小石が転がるような音。






 そして後ろを振り向くと……





 大蛇の魔物がその大きな口を開いて僕をとらえていた。


「うわああああああああああああああああああ」


 僕は叫びながら一目散に逃げ出した。しかし、大蛇も久々の餌だったのだろうかあまり速度は速くないが追いかけてくる。あの大きな体だ、おそらくあまり速くは動けないのだろう。それだけが救いと言えば救いなのだが、そんな悠長なことを言ってる場合ではない。とにかく今は走るしかない。



 走る。



 とにかく走る。



 生き残るために。



 しかし、僕のその頑張りも空しく、行き止まりにぶつかった。正確にいえば、何かの扉の前に出たのだが、押しても引いても横にスライドさせようとしても開かないのだ。


 背後からは大蛇が距離を詰めてきている。


 周りを見渡すが、自分が走ってきた道以外にどこにも道はない。


 焦る僕をよそに大蛇は僕を睨みながらゆっくりと近づいてくる。


 その場から動くことができない。


 死の恐怖が僕を襲う。


 僕は扉に向き直り、なんとか開けようと引いたり押したりを繰り返す。


「くそっ……開けよ!なんで開かないんだよ!くそおおおおおお!」


 僕は両手を扉につけてうなだれながら叫んだ。





 その時、扉に魔法陣のようなものが浮かび上がり、僕はその扉に飲み込まれ意識を手放した。










 目を開くとそこには闇が広がっていた。


 一面に広がる闇。


 ああ、ここは死後の世界なのかな。


 そんなことを思っていた僕の前に、人とも魔物とも言えない何かが現れた。そう、それを言い表すことができるとすれば、『悪魔』だ。その『悪魔』は口を開いた。


「お前は死にたくないか?」


「え、僕まだ死んでないんですか?」


「ああ、お前はまだ生きている。お前は死にたくないか?」


 その問いに僕は当然のように答えた。


「死にたくないです!僕は生きたい!たとえ誰からも信頼されなくても、誰からも認められなくても、裏切られても、見捨てられても、僕は生きていたい」


 その言葉を聞いた『悪魔』は口端を吊り上げ、不気味な笑みを浮かべる。だが、僕は不思議と嫌な気分ではなかった。


「そうか。ならば我が力、受け継いでもらおう。そしてお前には我に代わって世界を救ってもらう。魔人族、亜人族の世界を」


「え、それはどういう……」


『悪魔』はこの世界のことを語り出した。

 その話は僕がユークリフトから聞いていたものとかなりずれていた。


 まず、今巻き起こっている戦争は魔人族が引き起こしたものではないらしい。人間族が攻撃を仕掛けたことで、戦争が起こったということだ。最初は人間族が押していたのだが、魔王が力を取り戻したことで、魔人族側がなんとか優勢となっている。だが、今回の勇者召喚でそれもどうなるかわからない。魔王も万能ではないらしい。


 さらに、魔人族と亜人族は元々同じ種族として生きていたというのだ。一部の部族が森で暮らすことを懇願し、二つの種族として別れた。だが、その関係は良好で互いに助け合って暮らしている。


 この状態の二つの種族を僕に救ってほしいというのだ。


 いきなりのことだが、なぜかこいつの言うことは正しいと理解できる。


「なぜ僕なんですか?」


「お前には特別な力がある」


「いや、僕ものすごく弱くて、なんの力もないですよ?」


 これは謙遜でもなんでもなく、事実だ。僕は無能だから。


「それはこの世界で我とお前が離れているからだろう。元々、我とお前は一つなのだ」


「え、いや、言ってる意味が」


「お前は我の生まれ変わりなのだよ。お前の元いた世界では、我の加護で他の者よりも強い力を持っていたはずだが?」


 確かに元の世界では無駄に力が強かったけど。そもそもこの『悪魔』は何者なんだ。


「あなたは一体何者なんですか?」


 僕は意を決して尋ねる。そして『悪魔』は答えた。


「そういえば名乗っていなかったな。我は『魔神ルシフェル』と呼ばれる存在。人間族が崇める『ミカエル』と敵対するものだ」


 僕の認識だと『ルシフェル』って堕天使とか悪魔とかのイメージだよな。『ミカエル』は大天使ってイメージ。だけど胡散臭い天使なんかより悪魔のがよっぽどいいや。


「じゃあ僕は『ルシフェル』の生まれ変わりなんですね?」


「ああ、その通りだ。我はもう自身の力の限界でな。『ミカエル』達に対抗することはできないんだ。だがお前は違う。我を吸収し、世界に散らばる魔神の力の根源を集めればきっと奴らに勝てる」


 僕はこれまでの人生、とにかく人に怖がられないように、人から認めてもらえるようにすることだけを考えていい人間を演じてきた。それは間違いだったとさっき分かった。そしてここに、僕の存在そのものを認めてくれる人、いや、僕()がいる。何もないと思っていた僕にもこいつがいたんだ。その頼みとあっては聞かないわけにはいかないな。というか生かしてくれるのだから、むしろこっちからお願いしたいくらいか。


「僕に吸収されたら『ルシフェル』はどうなっちゃうの?」


「しばらくは目覚めないだろうが、お前の中で生きている。我とお前は同じなんだから」


 それなら安心だ。なにが安心か知らないが。


「そっか。じゃあ僕は君と共に世界を救うよ。『ルシフェル』、よろしく頼みます」


「感謝するよ、。盟約に基づいて我、汝のもとに帰らん!」


『ルシフェル』のその言葉を最後に僕たちは光に包み込まれた。


























 ――そして目の前に大蛇が戻ってきた。


 ああ、こんなやつもいたな。


 そして、僕は右手を大蛇に向けてこう口にした。


「『血の刃(ブラッディエッジ)』」


 次の瞬間、僕の目の前の大蛇は血の刃によって跡形もなく切り裂かれていた。


 これはいきなりとんでもなく強くなっちゃったな……。



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