仲間と恋と
謁見の間に集まった僕たちは、正直険悪ムードである。
「それで、ヨシト。なんでその子も一緒なのかな?」
ユラはそう僕に尋ねる。
「これからの旅に連れていくためだ」
「……なんでそうなったのかな。その子はあなたを裏切ったんだよね。それなのに一緒に行動するって、おかしいよ。ヨシトはその子のこと許せるの?」
ユラはまるで自分のことかのように辛そうな顔をし、そして同時に怒りの感情も浮かべる。その怒り矛先は言うまでもなく僕と香織だ。
香織は、ただ黙ってこの場にいる。
「そうだね。確かに僕は香織のことをまだ許したわけじゃないよ」
「じゃあ、どうして……」
「彼女のことを信じたいって思ったから。おかしいって思うかもしれないけど、それは僕の本心だ」
僕は真っ直ぐユラの目を見てそう言う。
「…………ヨシトは、優しすぎる」
「違うよ、ユラ。僕は自分の好きなようにしているだけだ。僕が香織といたいと思っただけ。僕が君と一緒にいたいと思ったのと同じことだよ。僕は、強欲なのかもな」
「また裏切られたらとか、思わないの?」
「そりゃ、思わないと言えばうそになるけど……疑った分だけ信じられるって、今ならそう思えるんだ」
「そう……」
ユラは少し落ち着いた様子になっているが、まだ納得したという感じではない。そして今度は香織に声をかける。
「カオリさん、さっきから失礼な事ばっかり言ってごめんなさい。でも、やっぱり私はまだあなたのことを信じられない」
「いえ。私はそれだけのことをしてしまいましたから」
香織は、冷静な口調で答える。
「あなたは、なんでヨシトのところに戻ってきたの?ヨシトに会いたくなったって言ったけど、あなたのその気持ちはどれほどのものなの?」
一度冷静に戻ったように見えたユラだったが、またしてもすごい殺気を放っている。
下手な事を言えば、彼女の瞳の先に移る少女をすぐにも殺してしまいそうなくらいに感じる。
「どんな言葉を繕っても、私のこの気持ちはあなたに伝わらないかもしれない。だけど、それでも言葉にしないと伝わらない事はあるわよね。だからはっきり言うわ。私は義人君のことが好きなの。その気持ちだけでここに立っている。彼に償いをしたいとか、そんな感情でいるわけじゃない。そんな嘘で塗り固められたような感情でここに立っているわけじゃない。私は、ただ彼のそばにいたいだけ」
「それを……それをあなたが言うのか!」
ユラの殺気はすでに人が受けて普通でいられる領域をすでに軽く超えている。
「我ながら呆れているわ。私がこんな気持ちでいたなんて気付いたのはついこの前のことなんだから。だけど、自分の気持ちに嘘はついていないわ。私は誰が何と言おうと、たとえ義人君が拒否したとしても彼のそばにいるつもりよ。だって私は彼のそばにいたいんだもの。私のこの気持ちだけは、だれにも否定させない」
彼女は、ユラの殺気を充てられてもその瞳に一片の恐怖を浮かべる事もなければ、一片の迷いを浮かべることもなく、そう言い放った。
「……そう」
彼女は放っていた殺気を徐々に沈めていく。
「じゃあ、これからあなたは私達と一緒に旅をするのね」
「「えっ」」
僕とユラの声が重なる。
「なに、二人ともそんな声あげちゃって」
「いや、ユラは絶対反対だと思っていたし、こんなあっさり認めてくれるとは思ってなかったからな」
「反対だったけど、私の殺気を受けてもあれだけ真っ直ぐな瞳で宣言されちゃったら、どうしようもないでしょ?それにあれは本心だってわかったわ」
ユラは、少し疲れたような顔でそう言う。
香織の方を見ると彼女も少し安心したような顔をしている。
「それはそうと、私の目の前で堂々と告白したことは見逃せないわね」
ユラはそう言って香織を睨む。
「あら、でもユラさんと義人君は付き合ってるわけじゃないんでしょ?あ、もしかして告白もまだだったとかですか?」
そういって香織もユラを睨み返した。
彼女たちは、僕の目の前で火花を散らせている。
だがしかし、なんだろうこれは。まるで僕を取り合ってるみたいではないか……。
「ヨシト……なぜそんな疑問そうな顔をしているんだ」
「義人君はあいかわらずの鈍感さですね……」
二人ともあきれたような顔をしているのはなんでだ?
「ヨシト様、あなたという人は……」
シルフィアさんまで呆れた顔を……なぜだ!?
「ヨシト様、一応聞いておきますけど、あなたはお二方のことをどうお思いで?」
「特別な存在だな。ああ、それはシルフィアさんもだぞ?」
迷わず言った僕の言葉に、ユラを香織はなぜか顔を赤くし、シルフィアさんはやはり呆れている。
「ちなみに、あのお二方もヨシト様のことを特別だと思ってくれていますよ」
「うん。それは僕も分かるよ。仲間として嬉しい限りだよな」
「「「はぁ……」」」
三人のため息が謁見の間に響いた。
「今後のために教えといてあげますが、あのお二方の好きはライクじゃなくてラブですから」
「「ちょっと!!」」
シルフィアさんの爆弾発言に二人が反応する。
「では、私は仕事がありますので失礼します」
シルフィアさんは爆弾を投下して奥の通路に出ていった。
「「「…………」」」
ら、ラブだと……。
これまでの僕に存在しなかった概念に困惑している。
というか本当に彼女たち亜h僕のことが好きだというのか。恋愛的な意味で。
……ありえん!
僕のどこにそんな要素があるというのだ。
……ない!
うん、正しい結論だ。
「その……義人君。私は、義人君のこと好きだから。恋愛的な意味で」
「なっ……私だってヨシトのこと好きだ!もちろん恋愛的な意味で!」
二人そろって顔を真っ赤にしてそう言う。
なんだ、これは。どこかの小説の主人公ですか。
「言い忘れてましたけど、この世界一夫多妻制ですよ」
シルフィアさんが奥の通路に続く扉から顔をひょっこり出してそう言うと、また扉を閉めて出ていく。
なんだ、あの人。楽しんでないか!?
二人の美少女に見つめられる僕。
こういう時は保留にするのがいいのではないだろうか。
うん、気持ちの整理もできてないし。
うんうん、それがいい。
「二人とも、そのなんだ。少し「そうそう、保留とか男の風上にも置けないことは言わないで下さいよ」……」
またしてもシルフィアさんだ。
あの人絶対楽しんでる。
くそ、こんな窮地に立たされたのは初めてだ(違う意味で)。
「えっと、だな。えっと……」
僕が頭の中で、その答えを探している時、それは起こった。
ドクン
僕の身体に走った何らかの鼓動。
僕はその衝撃に耐えきれず、その場に膝をつく。
なんだ……これは…………。
「「ヨシト(君)!」」
二人は僕に駆け寄ってくる。
そのことに気が付いたシルフィアさんも駆け寄ってきているみたいだ。
「だ、大丈夫。少し疲れただ……」
ドクン
なんなんだこれは。おそらく僕の名前を呼んでいるであろう三人の顔を見えるが、すでにその声は聞こえない。
そして僕の視界から光が消えていった。




