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悪魔のような勇者の伝説  作者: 夜桜
第1章
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自分の弱さ

 一晩寝た後、僕たちは再び丸机の並んだ部屋に集められた。どうやらここは食堂として使われるらしい。そこで僕たちは、元の世界で食べていたものと特に変わらないような一般的な朝食をとる。ご飯、味噌汁、焼き魚、卵焼き、ほうれん草のお浸し。


 こちらの世界の食べ物は元の世界と変わらないのだろうか。


 僕は朝食の間、そんなことを考えていてほとんど会話もしなかった。他の皆も、あまり会話がない。おそらく一晩寝ても気持ちの整理がつかなかったのだろう。


 そんなことを考えながら朝食を済ませると、ユークリフトの話を聞くことになった。


「では、今日から早速訓練を始める。なあに最初はそんなにきつくないから安心しろ。特に君たちは元々この世界の一般人よりも高いステータスを持っているからな。まずは、この世界のことをしっかりと理解してもらうための座学からはじめる」


 そうして僕たちは座学を行うために講義室、元いた世界の教室と似た部屋に来ていた。見慣れた空間は僕たちの心を少し落ち着けてくれる。座学もユークリフトが行うようだ。この世界に来てからユークリフトとメイド達以外の人間を見かけないが、この施設にはあまり人間がいないのだろうか。


「それではこの世界に関する話をする。すべて一度しか言わないから、しっかりと頭に叩き込むように」


 そう言ってユークリフトは話し始めた。


 この世界は『アブサード』と呼ばれており、そこには3つの種族が存在する。人間族、亜人族、魔人族だ。人間族は南一帯、魔人族は北一帯を支配し、亜人族は東の大森林にいるらしいが詳しいことは不明。この3種族は基本的に争うこともせず平和だったのだが、ある日魔人族が人間族、亜人族に対して攻撃を始めた。これによって魔人族との戦争になったようだ。


 この流れなら、人間族と亜人族は協力関係にあるかと思うが、実際はそうではない。亜人族は人間族に対してあまりいい感情を持ってないのだ。一部の人間族が亜人族を奴隷として扱っていることが原因らしい。


 魔人族が攻撃を始めた理由は、魔王が現れたことが原因だ。これまでも魔人族の王はいたが、この魔王はそんなものではなく、恐ろしい力を秘めている。指一本であたりの地形を変化させるほどの攻撃を放ったのがその一例だ。そんな魔王がこの世界を統一するために戦争を引き起こしたというわけだ。

 その魔王を倒すのが僕たち。


 ……いや、これだけ聞くとさすがに無理だと思うが。


 次にステータスについてだ。ステータスプレートの一番上の段に表示されている『Lv』はそのままレベルを意味しており、上限は100だ。もっともレベル100に到達するものなど人間族にはいないらしい。

 称号は、その人物の特徴を表すようなもので、それによってスキルなどが手に入ることもある。各ステータス値もそのままの意味で、一般人の平均が10程度だ。


 ……ん?僕のステータス全部10なんですが。僕たちって一般人より優れているはずだよな。


 スキルは特殊能力のようなものだ。剣技が向上したり、言葉が通じるようになったり、まあ色々ある。


 ちなみに、この世界にも魔法は存在するがスキルとは関係なく、それぞれの能力や適性に応じて使えるようになる。


 次に魔物についてだ。魔物は、野生動物や植物が魔力を取り込んで異質な変化を遂げた姿だと言われている。その生態についてはほとんど解明されていない。魔物は基本的に見つかると襲ってくるので、見つからないようにするか、戦うかする。


「それでは座学はこのくらいにするが、まずパーティメンバーに自分のステータスを見せてくれ。仲間のステータスを知っていないと危険だからな」


 まずは佐藤香織。


 佐藤香織 17歳 女 Lv:1

 称号:『勇者候補』『魔術師・序』

 筋力:30

 体力:100

 耐性:20

 敏捷:30

 魔力:200

 スキル:言語翻訳・詠唱短縮・水属性魔法適性


 これは……ちょっと強すぎないか。魔力とか200ってとんでもないな。しかもスキル3つあるし。


 次は大杉健二。


 大杉健二 17歳 男 Lv:1

 称号:『勇者候補』『短剣使い・序』

 筋力:80

 体力:150

 耐性:50

 敏捷:150

 魔力:30

 スキル:言語翻訳・短剣適性


 ……これは嫌な予感がしてきた。


 他のメンバーの能力はこれだ。


 相原翔子 17歳 女 Lv:1

 称号:『勇者候補』『長剣使い・序』

 筋力:80

 体力:80

 耐性:50

 敏捷:180

 魔力:20

 スキル:言語翻訳・長剣適性


 富田慶介 17歳 男 Lv:1

 称号:『勇者候補』『戦士・序』

 筋力:200

 体力:170

 耐性:100

 敏捷:50

 魔力:10

 スキル:言語翻訳・闘拳適性


 牧原弥生 17歳 女 Lv:1

 称号:『勇者候補』『治癒士・序』

 筋力:30

 体力:80

 耐性:30

 敏捷:30

 魔力:150

 スキル:言語翻訳・治癒魔法適性


 そしてこれが僕のステータス……。


 桐生義人 17歳 男 Lv:1

 称号:『勇者候補』

 筋力:10

 体力:10

 耐性:10

 敏捷:10

 魔力:10

 スキル:言語翻訳


 皆が持っている二つ目の称号は、それぞれの職種といってもいい称号で、それぞれの戦い方を示している。また、スキルも皆は色々と持っている。


 言語翻訳は異世界でも問題なく話すことができるスキル。


 それぞれの適性のスキルは、扱うことが得意な装備や、扱うことのできる魔法の属性などを示している。


 香織の持つ詠唱短縮は、魔法の詠唱を短くすることができるスキルだ、。


 みんな称号やスキルをちゃんと持っているし、ステータスも高い。それに比べて僕は……。元の世界では無駄に力があったのに、なぜこういうときに限ってこんなことに。これはさすがに不公平ではないかと思う。


「まあ義人、あんまり気にすんな。お前ならすぐに伸びるさ!」


 大杉、なんかうざい。もう放っておいてくれ。


 とは言えるわけもなく、いつも通りのいい人間でいく。


「ありがとう。努力するよ」


 笑顔を振りまきながら答えるとパーティメンバーは安心したようだ。


「私達もできるだけ協力するね」

「ありがとう」


 いかにも優等生なことを言う佐藤香織に、僕はまた笑顔で返した。


 さて、本格的にどうしたものか。これじゃ、本当にすぐに死んでしまいそうだ。


 実はステータスプレートが壊れてるとかないですかね。


 ……ないか。


 座学の後は実践的な訓練という名の体力トレーニングが行われたのだが、ステータスの低い僕には正直キツかった。皆が軽くこなせるトレーニングも僕にとっては地獄のトレーニングと化す。これほどまでにステータスによって差ができるとなると、いよいよ僕は無能というわけだ。


 ちなみにこの訓練からは騎士団の人が面倒を見てくれるようになった。特に騎士団長のバルドさんは熱心に指導を指導をしていた。もちろん有望な人に対してだけど。




 数日が過ぎた。


 訓練を積み、僕もさすがにLvは上がったがステータスが大きく変わることも、称号を得ることも、スキルを獲得することもなかった。そして、そんな僕のことを徐々に皆は見捨てはじめた。パーティメンバーの中で、香織や大杉はまだ気にかけてくれてはいるが、他のメンバーからは役立たずという扱いを受けている。パーティメンバーでない人も同様だ。


 やっぱり僕がどんなにいい人間を装っても所詮こんなものか。使えなくなったら捨てられる。


 僕は自分の運命を呪ったが、ここで諦めては命すら危うい。だからこそ、できるだけのことをとにかくやるしかない。


 僕は、訓練以外の時間には図書館に通い本を読み、独学で魔法や体術、武器の使い方を学んだ。すると、魔法も威力は全然ないが使えるようになったし、体術や武器の扱いも以前よりはかなりましになった。


 魔法は、ライターくらいの火を出したり、じょうろくらいの勢いの水をだしたり、扇風機くらいの風が起こせるようになったくらいだ。実践ではほとんど役に立たないだろう。


 武器は力のない僕でも何とか扱える短剣を持ち、一応それなりには扱えるようにしているつもりだ。これからも訓練を続ければ、もう少し何とかなるだろう。


 こんなことをしても皆には遠く及ばないけど、なんとか生きていくすべを見つけるしかないのだ。そうして我慢しているうちに僕の能力もきっと目覚めてくれると信じるしかない。







 そうしてすぐに2週間程過ぎた。


 今日は僕たち勇者候補の初めてのダンジョン探索の日だ。騎士団の人も同伴してくれて、しかも現れる魔物が低レベルである階層のみを探索するので、勇者候補達のステータスならそれほどの危険はないらしい。もちろん僕の場合は別だ。とにかく集中していかないと本気で死ぬかもしれない。僕は気を引き締めてダンジョン探索に臨む。


 ダンジョンの中に入ると、パーティ毎に別れて探索を行うことになった。1つのパーティにつき1人の騎士団員がつく。期待されているメンバーが多い僕のパーティには、騎士団長のバルドさんがついた。


 皆は余裕の表情で、笑って喋りながら探索をしている。


 まるでピクニックにでも来ているかのようだ。


 僕にはそんな余裕微塵もない。


 せめて何かあった時に一番最初に逃げれるようにパーティの一番後ろをついていくことにした。


 なんとか生きて帰ってみせる。



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