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悪魔のような勇者の伝説  作者: 夜桜
第2章
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死霊使い


「ヨシト、今森のどのあたりかな?」


 ユラはそう尋ねる。


「恐らくかなり奥まで来ている。このダンジョンの最深部ももう近いはずだ」


 僕たちは『フェンリル』を倒した後、順調にダンジョンを進んでいた。


『フェンリル』を倒してからは、出現する魔物の数もずいぶん減った。


 ここの通常の魔物程度であれば、数で攻めてこられない限り、僕たちにとって脅威とはなりえなかった。


 このようなダンジョンの中でなければ、数が多かったとしても何の問題もないのだが。


 それよりも先程の『フェンリル』との戦闘、僕自身の調子がかなり良くなかった気がする。『魔神』として目覚めてからこんなことはなかったんだが。


 やはり『魔神の宝珠』と関係があるのだろうか。


『空間把握』の能力が制限されていることも。


 正直、この先に待っている『魔神の宝珠』を取り込んだ魔物と戦わなくてはいけないのに、本調子でないのはかなり困る。


 とはいえ、ここまできてそんなことも言ってられない。


 僕達は、森のより奥へ奥へ進んでいった。







『死霊の森』最深部。


 僕たちの目の前には、異様な光景が広がっている。


 それは、空間の歪みといえるものである。


 ある場所を境界としてものすごい力が発生しているせいで、空間が歪んでしまっているようだ。


『ヨシト、ここから我の力の波動を感じる。この先に宝珠があるぞ』


 ルシフェルがそう言う。


 まあこんなでたらめなのは『魔神』の力で間違えないだろうな。


『分かってる。宝珠を取り込んでる魔物を倒せばいいんだよな?』


『ああ。そうすれば宝珠の力を取り戻せる』


 さて、どんな魔物がいることか。


「ユラ、ここから先は何が起こるか本当にわからない。いつでも退避できるようにしておいてくれ」


「分かったわ」


 そして僕たちは空間の歪みが発生している場所に入っていった。





 歪みの中は、ものすごい力で押しつぶされそうということ以外は先程までの森と変わらなかった。


 そして、僕たちの目の前には一体の人型の魔物がいた。


 そいつはすごく異様な空気を放っている。


 おそらくあれが宝珠の力だろう。


『ルシフェル、あいつが何者か知っているか?』


『恐らくは……「貴様たち、何者だ」』


 ルシフェルが言いかけたその時、人型の魔物が言葉を発した。


 あいつ喋るのか。


「僕はヨシト。『魔神』を継ぐものだ。宝珠を返してもらいに来た」


「ほう……貴様のような小童が『魔神』だと申すか。たしかに私の中の宝珠と同じ波動を感じはするが」


「分かるならさっさと宝珠を渡してほしいんだが」


 その魔物は自身の力の波動をより大きくしてくる。


「宝珠を返せだと?笑わせる。貴様には確かにこの宝珠と同じ波動を感じはしたが、その力はあまりに()。そんな貴様に私の宝珠(ちから)を渡せと申すか」


 奴の力はどんどん上がっていく。


『気を付けろ、ヨシト。奴は『死霊使い・ラスト』。宝珠を手にする以前からこの世界で5本の指に入る程の強力な魔物だったと記憶している』


 おいおい、マジかよ。


 僕はユラに視線を送り、少し後退させる。


 ここは僕が前衛、ユラが後衛が得策だろう。


「なら、死霊使いさん。僕は力づくで宝珠をもらうぜ!」


 僕は漆黒の剣を生成して、『ラスト』に向かって突っ込んでいく。同時に『血の刃(ブラッディエッジ)』を発動し、幾多の血の刃を奴に放った。



 だが……



「ぬるいな」


『ラスト』はそう言って僕の放った血の刃を消し去る。何をしたのかは全く分からない。ただ奴は、それを消し去った。


 しかし、そんなことで躊躇しているわけにはいかない。


 迷った瞬間に死ぬ。


 そういう闘いだと僕は本能的に理解した。


 僕は漆黒の剣で『ラスト』に切りかかった。


 しかし、その刃は奴に届くことはなく、奴の寸前で停止した。


 まるでそこに何か壁があるかのように。いや、壁というよりも何かの意志が働いて刃を止めたように感じた。


 僕は、すぐに危険を感じ、後方に跳ぶ。


 その感覚は正しく、先ほどまで僕がいた場所は一瞬で朽ちていった。その地点だけ数百年の時が一瞬で過ぎ去ったかのように腐敗したのだ。


「今のは、よく躱したな。屑の割にはましな動きをする」


 冗談じゃない。どうなってるんだこいつの能力は。


 その時、後方で詠唱していたユラの魔法が奴に向かって放たれる。


「大いなる風よ すべてを飲み込む嵐となって彼の者を滅せよ 『大嵐ハリケーン』」


 彼女は、『ラスト』を完全に飲み込むほどの大嵐を発生させ、奴は飲み込まれたかのように見えた。


 だが、その魔法もやはり消え去った。


 どうなっている。


 このままでは打つ手がないぞ。



「そこの娘は、なかなかいい魔力を持っているようだな。……私の手駒とするか」


 こいつ何を言ってやがる。


 そう思っていた僕だったが、すぐにその言葉の意味を理解することになった。


「『精神喰滅』」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 奴の能力の発動と同時に、僕の後ろにいるユラの悲鳴が聞こえた。


「お前、ユラに何を!」


「あの娘の精神を食っているんだよ。私の手駒にするために」


「なっ……」


 僕の後ろでユラは頭を抱えて呻き声を上げながらうずくまっている。


「ハハハハハ!!この瞬間はいつも愉快だな!」


 奴のその言葉で、僕の中の何かがプツンと切れた。












































 side 『死霊使い・ラスト』 START



 私の目の前に現れた自らを『魔神』と名乗る小僧は、とても弱かった。


 もうこいつのことはどうでもいい。


 だが、あの娘。なかなかいい魔力を持っておる。


 あの娘は私の手駒にしたいな。


「『精神喰滅』」


 私は、自分の中でも凶悪さは随一の能力である『精神喰滅』を使用した。この能力は、私の配下にある死霊に指定したものの魂を喰わせる能力だ。5分もすれば完全に精神を失い、抜け殻となる。すなってしまえば、私の操れる死霊を抜け殻の中に入れてしまえばいい。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 この能力を発動すればどんな者も悲鳴をあげるな。その悲痛な叫びが私には心地よい。


「お前、ユラに何を!」


 あの『魔神』を名乗る小僧が何か言っているな。あやつにはもう全く興味はないが、絶望の中で殺すのも悪くはないか。


「あの娘の精神を食っているんだよ。私の手駒にするために」


「なっ……」


 小僧は驚きと絶望の表情を浮かべている。私はこの表情がたまらなく好きだ。人の絶望こそが最高の愉悦。私と戦う者はいつも最後には絶望の表情を浮かべるのだ。


「ハハハハハ!!この瞬間はいつも愉快だな!」


 つい私は腹の底からやってくる笑いを抑えられずに言う。ああ、本当に愉快だ。





 だがその時、私は異変を感じ取った。


 なんだ?この小僧、さっきまでと様子が……


 私の目の前にいる小僧は、先ほどまでとは比べ物にならないほどの負の波動、負の力を放っている。


 なんだこれは……。こんなことは今までに起きたことがないぞ。


 その力は、異常と言ってもいいレベルで増幅されていく。それはもうこの世の理の外にあると言ってもいいほどの事で、私の理解を超えた現象であった。


 これは早めにかたずけた方がいいか。


「『灼獄インフェルノ』」


 私は周りにいる火の精霊を死霊の力で屈服させ、禁術級魔法を発動した。


 これで奴は死ぬ。


 その地獄の炎は私の目の前に立っている小僧を焼き尽くすかに思われた。


 だが……。


「消えろ」


 小僧がそうつぶやくと、私の放った禁術級魔法『灼獄インフェルノ』は跡形もなく消え去った。


「こんなこと……ありえない!!貴様!!!一体何をした!?」


 何が起こっている。


 こやつは今ありえないことをした。


 私が奴らの放った魔法を消すときには、その魔法に含まれる魔力を死霊の力を上書きすることで消していた。言ってみれば、酸性の液体にアルカリ性の液体を混ぜることで中和するのと同じことだ。


 だがこいつがやっているのは、魔法の根源たる魔力そのものを消すということ。それは、10の質量を持ったものを、無理やりに0にするのと同じ。そんなことができるわけがない。


 それはこの世の理を完全に逸脱している。


 だが事実、私の目の前ではそれが起きた。


 どうなっている。


 この小僧にはこの世の理さえも無視できる力があるというのか。


 そんな力、たとえ『魔神』といえども持ち合わせているはずがない。


 奴は一体何なんだ。


 だが、私の思考が続いたのはそこまでだった。


「死ね」


 目の前の小僧のあまりにも冷酷なその一言を認識したのと同時に、私は意識を失っていき、これが自分の死だと実感した。



 side 『死霊使い・ラスト』 END









































 僕は、意識を取り戻すと森の中に倒れていた。


 たしか僕は『死霊の森』に来ていて……そう、死霊使いと戦っていたんだ。あいつの姿は見当たらないな。……そうだ!ユラ!ユラは!?


 僕はユラが死霊使いによって壊されそうになっていたことを思い出し、周りを見渡した。



 すると、僕の後方で倒れているユラの姿が目に入った。


「ユラ!!!!」


 僕はユラに駆け寄り、その身体を抱きかかえる。


「ユラ!しっかりしろ!!ユラ!!!」


 僕が何度もそう呼びかけると、ユラの身体はかすかに動く。そして……


「んんっ…………あれ、ヨシト。私一体……」


 ユラは目を覚ました。


「ユラ、どこもおかしなところはないか?」


「うん。特に身体にも異常はないわ。それより、あの死霊使いは?」


 よかった。僕のこともちゃんと分かってるし、身体への影響もないみたいだ。


 だが確かに奴はどこに行ったんだろう。


 その疑問にはルシフェルが答えてくれた。


『奴はどうやら死んでおる。恐らくはヨシト、お前が殺したようだ』


 え……?


 僕が奴を殺した?


 そんなわけ……。


 あの戦闘の途中からの記憶がないけど、その間に何かしたのか。


『宝珠も取り込んでおるしな。ヨシトの記憶がない間の状況は我にもわからなかったのだが、お前の身体から異常なまでの力があふれていたのだけは分かった。あれは一体なんなのだろう』


 僕の中には、ルシフェルも知りえない何かがあるということなのだろうか。


「ユラ、どうやら奴は死んだらしい。というか僕が殺したらしい。宝珠もちゃんと取り込んでるみたいだ」


「え?ヨシトが倒したの?殺したらしいって覚えてないってこと?」


 ユラの中には様々な疑問があるらしい。僕としても疑問だらけなのだが……。


「いや、ユラが危険だと思ったらなんか僕キレちゃったみたいで、あんまり覚えてないんだよね。ルシフェルは僕の中で見てたから、今教えてもらったんだ」


「そう、なんだ。ヨシトが私のために……」


 最後の方はよく聞こえなかったがなんていったんだろう。なぜか顔も赤らめてるし。


 ともかく、ユラが無事で本当によかった……。


 今の僕にはそれだけで十分だ。


「とりあえず、この森を出よう。こんなところ長居は無用だ」


「そうね!行きましょ!」



 そうして僕たちは『死霊の森』を後にした。



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