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悪魔のような勇者の伝説  作者: 夜桜
第2章
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旅立ち

この話の途中でユラ視点が入ります。

この先、主人公以外の視点に移るときは、


side ○○


のように書くことにします。


では本編に入ります。


『ソルマニク平野』での戦いが終わってから、数日。


 僕はある決意をしていた。




「ヨシト、今回も頼み事、いいかな?」


 謁見の間で、いつものようにユラが声をかけてくる。だけど……


「すまない、ユラ。僕は明日、王都を出ようと思うんだ。だからもう君を手伝えない」


「えっ……」


 彼女は驚きの表情を浮かべている。このことはまだ誰にも言ってなかったからな。


「なんで、なのかな?」


「僕は『魔神』としての力を取り戻しにいかなくちゃいけないんだ。世界中に散らばった『魔神の宝珠』を探しに行く。これから先、今まで以上に厄介な敵が現れることになると思うんだ。それに対抗するには、今以上の力が必要になる。だから、僕は行かなきゃ」


 僕は、『魔神』として成すべきことを成さねばならない。


「そっか」


 彼女は悲しそうな顔をする。


「なら、私もヨシトについていこっかな」


 彼女がそうつぶやく。


「それは……」


 少し間をおいて彼女は口を開く。


「わかってるわ。私は『魔王』だもんね。ここを離れるわけには……いかないよね」


 彼女はまた悲しそうな顔をした。


 彼女は、僕と一緒にいたいと、そう思ってくれているのかな。こんな僕と一緒にいたいと思ってくれるなんて。


 だけど、僕たちにはやらなきゃいけないことがあるんだよね。


 自分の気持ちばかり優先していられないよね。




 僕はこれ以上ここにいても彼女を傷つけるだけだと思い、その場を後にした。







 コンコンッ


 部屋で準備をしていると、ノックの音が響く。


「どうぞ」


「失礼いたします。少しいいでしょうか?」


 部屋に入ってきたのは、シルフィアさんだ。


「うん。なにかあった?」


「いえ。ただ、ヨシト様の旅にユラ様を連れて行っていただけないかと思いまして」


 彼女は力強い目でそう言う。


 僕はその言葉に一瞬戸惑うが、答える。


「だけど、彼女は『魔王』で、そして魔人族にとって彼女は必要で」


「はあ、あなたは本当に……。言わないつもりでしたが言わせていただきます」


 彼女は続ける。


「あなたはユラ様のことをどうお思いですか?」


「どうって、彼女は『魔王』で、とてもいい子で……」


 そう、彼女は『魔王』なんだよ。


「では、あなたは彼女と離れて悲しくはないんですか?」


「そんなわけ!」


 僕はつい声を荒げてしまう。


 彼女のことは、すごく大切に思っている。僕にあんな笑顔を向けてくれたのは、彼女が初めてだから。だからこそ、僕は彼女の近くにいたいと思ってしまう。


 だけど、そんなことは許されない。


 僕には『魔神』としてしなくてはならないことがある。彼女にも『魔王』としてしなくてはならないことがある。


 仕方ないことなんだ。


「あなたとユラ様を見ていると、いらいらします」


「え?」


「あなたもユラ様も、もっと自分の気持ちに素直になったらどうなんですか?」


 シルフィアはそう言う。


「男なら、『俺について来い!』くらいのことを言ったらどうなんですか。まったく……」


 そういってシルフィアさんはため息をつく。


「まあいいです。ともかく、ユラ様を連れて行ってもらおうと思います」


「だけど……」


 僕は、そうは言われてもユラが僕と一緒に来ていいわけがないと思う。


 だって、彼女は魔人族の人たちを支えなくてはならない存在なのだから。


「まだそんな態度をとりますか。まったく、大丈夫ですよ。あなたの心配していることは大体わかっていますから」


 彼女は続ける。


「魔人族のことは私にお任せください。ユラ様がいなくても私が何とかします。ユラ様が生まれる前にここを治めていたのは私ですから」


「え、ええ!?」


 ふふふ、とシルフィアさんは笑っている。いや、それはさすがに予想外です。


「だから、ここのことは私にお任せください。この前の戦いのこともありますし、当分は人間族から仕掛けてくることもないでしょう。なにかあれば、思念で連絡を取れますし」


 色々なことを一気にカミングアウトされて頭が追いつかない。


 だけど、シルフィアさんの言うように僕はユラと一緒に行っていいってことなのかな。


「大体あんな調子でユラ様に残られても迷惑ですよ。あんなんじゃ絶対仕事になんないですよ」


 さらっとこんなことまで言ってる。ちょっとぶっちゃけ過ぎではないでしょうか。


「ユラはそれでいいと言っているんですか?」


「当たり前でしょう。むしろ、ユラ様の方から何とかならないかと聞いてきたんですから。あの方も、ヨシト様に直接言えばいいのに……」


 ユラは僕と一緒にいたいって思ってくれているんだ。よかった……。


 あれ、僕はなんでこんなに安心しているんだ?


 いや当然か、ユラのことは大事な仲間だと思えた初めての存在だし。


「分かりました。ユラと一緒に行きます」


「ありがとうございます。ユラ様のこと、頼みましたよ?」


 シルフィアさんはそう言って微笑む。


 その裏には、ちゃんとユラを連れていかないと潰す、的な怖いオーラを感じ、若干ビビってしまう。


「私はユラ様の準備をお手伝いしてきますね」


 そう言って彼女は出ていった。


 あの人、やっぱりすごいな。







 side ユラ START



 シルフィア、うまくやってくれたかな……。




 ヨシトが王都を出ていくことを知った私は、どうしてもヨシトと離れたくなくて、シルフィアに相談したのだ。


 そしたら彼女はあっさり「ついていったらいいと思いますが?」と言ってきた。


 私がいなくても大丈夫なのか聞いたら、それもあっさり「むしろ私は楽になりますよ」とか言ってる。多分そんなことはなくて、大変だけど私がそのせいで王都を出ることをやめたりしないように気を使ってくれたんだろう。


 ……というかそう信じたい。


 だってそれじゃ私が邪魔みたいじゃない!



 彼女は、そのことをヨシトに言いに行くよう私に言ったが、私は躊躇してしまった。だって、もしかしたらヨシトは私と一緒に行きたくないって思ってるかもしれないもの。私はそれを彼の口から聞くのが怖かった。


 なぜこんなにも彼のことを思ってしまうのだろう。


 そんな理由なんてもうわからないけど、私はヨシトに嫌われることだけは嫌だった。


 そんな風に私がうじうじしていると、彼女はため息をつきながら、「私が聞いてきます」と言って出ていってしまった。


 私は、やはり怖かったのでシルフィアを止めようとしたんだけど、彼女の目はもっと怖くて止められなかったんだよね……。シルフィアたまに怖い……。




 そんなわけで、私はシルフィアがヨシトのところに行って帰ってくるのを待っているところだ。


 もうドキドキしっぱなしです。


 もし断られたら、もし私のことをヨシトが拒絶したら、なんていうマイナスな事ばかり考えてしまう。


 しばらくしてシルフィアが戻ってきた。私はシルフィアのもとに詰め寄った。


「そんなに深刻な顔しなくても大丈夫ですよ。すぐに準備をしましょうね」


 それって……


「私、ヨシトと一緒に行けるの……?」


「はい」


「私、ヨシトと一緒に行けるの……?」


「……はい」


「わたし「もういいですから!ちゃんと一緒に行けますからさっさと準備しますよ!」」


 ああ、ヨシトと一緒にいられるんだ。


 そのことに私は今までに感じたことのないくらいの喜びを感じた。


 そして私は、彼のことを自分がどう思っているのかも、ちゃんと理解した。


 でも今は胸の内にしまっておこう。


 そうして私はシルフィアに手伝ってもらいながら、旅の準備を始めた。



 side ユラ END





 翌朝、僕とユラ、そしてシルフィアさんは王都の南門の前に来ていた。


 まだ朝早く、周りには門番のおじさん以外誰もいない。


 ユラの荷物はあまり多く見えないが、おそらくカバンに魔法をかけて多くの荷物が入るようにしてあるんだろうと思う。


「それでは、お二人ともお気をつけて」


 シルフィアさんは優しく声をかけてくれる。


「うん、行ってくるね!」


 ユラは元気よく答える。


「はい、何かあったらいつでも思念を送ってください」


 僕もそう答える。


「そうそう、若さゆえの過ちとか、そういうのがあってもいいと思いますよ」


「ちょっとシルフィア!!!」


 ユラは真っ赤な顔をしてシルフィアさんを叩いてる。


 シルフィアさん、それはいくらなんでも駄目でしょう……。


「それじゃ、行きますね」


「またね、シルフィア。行ってきます」


 僕とユラはシルフィアさんにそう言う。そして彼女も、


「いってらっしゃいませ」


 と言い、頭を下げた。



 僕たちはシルフィアさんに見送られながら、王都『ユラシティ』を旅立った。



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