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悪魔のような勇者の伝説  作者: 夜桜
第1章
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とある『魔王』の決意

ユラ視点です。

 

 彼はなんて悲しい顔をするんだろう。


 私、『魔王』ことユラ・ベッケンクルスは目の前でかつての仲間であった者を殺した少年を見て、そう思う。





 私が彼と出会ったのは、今日の昼間のことである。


 私は街で傭兵の男たちに絡まれている少女を見つけ、それを助けようとした。しかし、私はつい先日力のほとんどを奪われるという事件が起こったため、少女を助ける力さえなかったことに気付く。気づいたときにはもう遅く、少女の前でかっこよく啖呵を切ってしまっていた。周りも野次馬に囲まれているため、今更逃げることもできない。


 傭兵たちの内の一人がが腕を振り上げ、私は殴られることを覚悟し、目をつぶってしまった。私も力がなければただの女か。


 だけど、いつまでたっても殴られた感触、痛みはやってこない。


 私は疑問に思って目を開くと、そこには一人の少年が立っていた。


 これが彼との出会い。


 彼は、殴り掛かる傭兵の拳をその手で掴んでいた。


 そして彼は、とてつもない殺気を放ち、傭兵たちを追い返してしまった。


 ふう、助かったー。


 その時の私は心から安堵していた。同時に、この街にも絡まれてる女を助けるようなお人よしがいたんだな、と内心嬉しくなっていた。


 私が助けた(実際には彼が助けてくれた)少女は、用事があったみたいですぐに行ってしまったので、私は少年の方に向き直った。


 彼もこちらを見ている。


 彼は私と同じ黒い髪で、黒い瞳、整った顔立ちをしていた。身長は175くらいだろうか。私は、一瞬彼に見惚れてしまう。幼いころから力が強かったため、同年代の男の子に助けられたことなんてなかったからかな。


 彼は自分のことをヨシトと名乗った。そして『魔王』に会いたいと言った。


 私はなにか運命のようなものを感じずにはいられなかった。


『魔王』である私を助けてくれたこの少年は、『魔王』に会うためにこの街を訪れたんだから。


 私は彼を『魔王城』に案内することにした。


 しかし、この時の私はどのタイミングで彼に自分が『魔王』だと打ち明ければいいかものすごく悩んでいた。いきなり私が『魔王』ですなんて言っても変な子だと思われちゃいそうだもん。


 そこで私は、謁見の間で王座に座った状態で彼ともう一度会うことで『魔王』だと分かってもらおうという作戦を考えた。


 これなら彼もわかってくれるはず!


 作戦を実行するために、彼を城の中に連れていき、謁見の間の扉の前で待たせた。


 城に入るときにノーチェックだったり、色んな人に頭を下げられている私を見て、彼もかなり不信に思っているように見えたけどまあ気にしない。



 彼を扉の前で待たせている間、私はどんな服を着て出ていけばいいのかと本気で悩んだ。


 街に出ていくときは目立たないように適当な恰好をしてっちゃったから、ここは真剣に選ばないと!


 そんな普段の私とはかけ離れた姿を見て、シルフィアが声をかけてきた。


「ユラ様、どうなさったんですか?そんなにドレスをばらまいて」


「シルフィア!ちょうどよかった!私を女にしてください!」


「……は?」


 シルフィアはまるで状況がわかっていなかったので噛み砕いて説明したら、うれしそうに私を綺麗にしてくれた。


 ドレスの見たてから化粧まで、普通なら一時間くらいはかかるものを彼女はさっさと終わらせてくれた。


 そして彼女は私に王座に座って待っているように言った。


 シルフィアって本当にできた女だよね。


 シルフィアのことを女として尊敬しているというのは秘密。





 王座で座って待っている間、私は緊張で心臓が飛び出しそうだった。


 一体自分はどうしてしまったんだろう。これでは『魔王』ではなくただの女の子だろう。


 せめてここからは『魔王』でいることにしよう。


 そんなことを考えていると、謁見の間の扉が開いた。


 謁見の間に入ってきた彼は最初こそ驚いた表情を浮かべていたが、すぐに私が『魔王』であると認識してくれた。作戦大成功だね!


 彼は、『魔王』である私に対しても普通に話をしてくれた。しかも、私が力を失っていることをすでに見抜いているようだった。そんな彼に、助けるかどうか本当に迷っていた。思わずシルフィアに目線を送ってしまったが、彼女はさすがにそれはダメだというように目線を送り返してきた。それはそうだよね。


 だけど、彼は私の予想をはるかに超えてきた。


 彼は、私を助けたいと言い、自分にはその力があると言った。そしてその証としてステータスプレートを渡してきた。他人にステータスを見せるなんて、相手のことを余程信頼していなきゃできないことなのに。もしかして、信頼してくれてる……のかな?


 私は少し浮かれてしまったが、次の瞬間にはそんな気持ちも吹っ飛んでしまった。


 なぜなら彼のステータスプレートの称号欄には、『魔神』の文字が浮かんでいたのだから。


 彼は自分のことを『ルシフェル』と同じ存在だと説明してくれた。


 私にそんな重要なことを話してくれた彼に、私も能力を失った経緯について離すことを決意した。


 話を聞いた彼は、ばつの悪そうな顔をしていた。


 流石の彼でも私の能力を奪った魔法のことは知らなかったようだ。


 だけど彼は、何とかしてみせると言って城を出ていった。


 私は不思議とその言葉が現実になるような、そんな予感がしていた。





 彼は思いのほか早く城に戻ってきた。


 そして彼は分かったことをすべて話してくれた。そればかりか、彼が以前人間族の勇者候補であったことも教えてくれた。私を狙っているのが、その勇者候補であるかもしれないことも。


 彼はそれでも私を助けると言った。


 そして、かつての仲間であった勇者候補たちを敵だと言った。


 とても冷静な表情で、冷ややかな口調で。


 なぜ、かつての仲間をそんな風に思えるんだろう。きっとそこには私が想像することもできないような出来事や思いがあったのだろう。私はそんな彼を見て、少し悲しい気持ちになった。私は彼のその気持ちを理解してあげることさえできないのだから。







 そして彼のかつての仲間、勇者候補のトミタとかいう男がやってきた。もちろん私の命を狙って。


 彼は醜く卑劣な笑みを浮かべながら、ヨシトと話をしていた。


 すると突然、シルフィアが私に襲い掛かってきた。


 私はなにがなんだかわからなかったが、襲ってくるシルフィアをヨシトが気絶させることで守ってくれた。シルフィアはトミタに操られていたらしい。彼はシルフィアを私に任せて、トミタの元に向かっていった。


 それまではとても冷静な様子で穏やかに話しており、なにかを聞き出そうというようにも見えたヨシトだったが、一転して凄まじい殺気を放っていた。彼は、トミタのやり方に相当腹を立てているようだった。


 彼は優しい。人を傷つけるだけのやり方を許せないのだろう。


 そして彼は、なんの躊躇もなく、そして一片の迷いもなく、トミタを殺した。


 その姿は他のだれが見ても、冷酷かつ残忍だと言うことだろう。


 だけど私には、彼がとても悲しい顔をしているように見えた。


 彼の頬を流れるかつての仲間の血は、彼の流した涙のようにも見えた。




 私は思う。


 彼にもう、あんな悲しい顔をさせたくないと。


 私を守ると言ってくれた優しい彼を、笑顔にしてあげたいと。







 これが私の運命の一日。



『魔王』は……乙女でした

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