望まぬ再会
僕は『魔王城』の謁見の間に来ている。
もちろんそこには『魔王』ことユラもいる。シルフィアさんも一緒だ。
「それで、来てくれたってことはなにか分かったのかな?随分早かったけど」
「ああ、ユラがかけられた魔法の正体も分かったし、敵の正体も大体想像がついてるよ」
「『魔神』の名は伊達じゃないわね。聞かせてもらっていいかな?」
僕は、魔法の正体が神級魔法であること、数日たてば能力が戻るであろうこと、敵は人間族の神官、もしくは勇者候補であることを話した。
勇者候補が僕のかつての仲間だということも。いや、仲間だなんて思ったことはお互いに一度もなかったかもな。
「わかったことはこのくらいだ。そろそろ敵がやってくるころだと思うから、僕はユラの近くで待機していたいんだけどいいかな?」
「え、でも相手はヨシトの仲間だった人なんでしょ?あなた、戦う気なの?」
彼女はまるで自分のことかのように苦しそうな表情を浮かべる。
だけど、僕にはもう過去のこと。
それよりも今はユラの身に危険が及ぶことの方が問題だ。
「戦うよ。君を助けると約束したからね。それに奴らは敵だ。戦う理由はそれだけで十分だよ」
僕は淡々と答えた。
彼女は複雑な顔をしていたが、僕が近くで待機することを了承してくれた。
「それじゃ、部屋を用意し……」
コンコンッ
ユラの声を遮るように、謁見の間の扉を叩くノックの音が響いた。
コンコンッ
こっちから返事がなかったせいか、扉の向こうのやつはまたしてもノックしてくる。
これはおそらく……。
「ユラ、下がっていてくれ」
「え?」
ユラのその声と同時に、扉の方からもの凄い音がした。
扉は思い切り破られたようで、そこには握り拳をつくった男が立っていた。
その、人よりも優れた身体能力を持つことが容易にわかる大きな体を持ったその姿は、僕自身もよく見知ったものだ。
野蛮で、ただ力任せに物事を解決しようとする男。
彼は、かつてのクラスメイトであり、勇者候補である富田慶介その人だ。
「さーて、『魔王』さんはここかねーっと」
彼は遊び気分かと思われるような感じで、こちらに入ってくる。
「お、いたいた。あの『魔王』結構可愛いよな。割と俺好みだ」
何を言っているんだ、こいつは。お前は戦いに来ている自覚はあるのか。
もはやあきれるレベルだ。
「で、てめえはなんだ?騎士様かなんかですかね?生憎と男には興味ないんだが」
彼は僕のことがわかっていないようだ。
まあ僕はあの時死んだと思われてるだろうし、当然と言えば当然だろう。
「いや、僕はただの一般人だよ」
富田は眉間にしわを寄せながら、明らかに不機嫌そうになる。
「ああ?一般人がこんなところにいるわけねえだろうが。お前の声どっかで聞いたことあるな」
「あー、ただの一般人ではないか。元勇者候補だし」
ここまで言って奴は気づいたらしく、最初は少し驚いた顔を見せたが、次の瞬間には気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「お前ッ……!ははぁん、役立たずの桐生君じゃねえの。なんだよ生きてたんなら戻ってくりゃいいのに」
「いや、それは遠慮させてもらいたいな」
「そりゃそうだよな!お前は俺たちの仲間になる資格もない屑だからなぁ!」
富田は高笑いを上げた。
なにがそんなにおかしいのか。
まあ僕は空気を読む天才だから彼に冷淡な目線を送ってやった。
「なんだ?お前。いつものようにヘラヘラしてろよ。屑の分際で俺にそんな目をむけてんじゃねぇよ」
「いやー、ああいうの疲れるからやめたんだよねー」
僕は適当に受け答える。
もうユラは話に全くついてこれてないな。
正直、話すのとか面倒だからすぐに殺してしまおうかとも思ったけど、こいつには少し情報を吐いてもらってから死んでもらおうと思ったのでそうはしなかった。
「それで、お強い勇者候補様がこちらに何の御用で?」
僕がふざけた感じでそう聞くと、彼は不機嫌そうに答える。
「ああ?なめてんのかてめぇ……まあいい。そこの『魔王』さんを殺しに来たんだよ。分かりきったことだろ?」
富田は卑劣な笑みを浮かべている。
仮にも勇者候補だろ、こいつ。気持ち悪い笑顔だ。
とか脳内でツッコミをいれつつ、後ろのユラを見ると彼女も若干引いていた。だけど、今は力を失っているためか少し恐怖も感じている様子。シルフィアさんは……あれ、どこいった?
そのとき、ユラの近くからわずかだが魔力を感じた。俺は反射的にそれがヤバい状況だと判断し、一瞬でユラの近くに移動する。そして彼女を狙う影の腹部を、ある程度の威力で殴る。
「え……あ……!?」
ユラは状況がわからず、驚いたようにしている。
そして、その影を見ると、なんとシルフィアさんだった。
僕の一撃で気絶しているようだが。
「シルフィア!?」
僕は気絶したシルフィアさんをユラに任せる。ユラは悲痛な表情でシルフィアさんを抱きかかえていた。
「少しはやるようになったみたいだなぁ」
相変わらず卑劣な笑みを浮かべている富田が言い放つ。
「お前の仕業か」
おそらく何らかの方法で彼女を操ったのだろう。
「ご名答。以前そこの『魔王』さんの力を奪った時に、ついでに魔法をかけといたんだよ」
こいつもせこいことするようになったもんだ。と内心思いながら、俺は少しずつ殺気を開放していった。今はもう、こいつをどう殺すかしか考えられない。情報を聞き出すとかそんなことはもうどうでもよくなっていた。
こいつはユラを狙ったばかりか、シルフィアさんにユラを殺させようとまでしたんだ。
シルフィアさんがどれだけユラのことを思っていたかは、少ししか関わってない僕にでもすぐにわかった。
そんな彼女に、よりにもよってこんなことをさせるとは。
「なあ、富田」
「ああ?富田様だろ?」
「そんなことはどうでもいい。なぜシルフィアさんにこんなことさせた」
富田はなにをわかりきったことを、といった感じで答える。
「そんなの決まってんじゃねえか。親しい者に殺されるなんて、『魔王』の最後としてはもってこいだろ?世界に絶望して死んでいく様はさぞ滑稽だろうな。想像しただけで興奮してくるぜ」
狂っている。こんなやつらが世界を救うだなんて、吐き気がする。
「あー、もういい。分かったよ。お前は死ね」
僕は殺気を最大限まで高めながら、冷たい声でそう言う。
「なッ!?てめえ何を言って…………」
彼は、僕の殺気にあてられて焦ったような様子だ。そして……
ブシャァァァァァッ
彼の右肩から、大量の血しぶきが噴き出る。
「えっ……」
彼の口から出たのは、間の抜けた声だった。
それも当然だろう。
僕の放った『血の刃』によって彼の右腕は切り裂かれ、その腕は床にポトンと落ちていたのだから。
「う……うわああああああああああああああ!俺の腕がぁぁ」
彼は悲痛な叫び声を上げる。
「あー、ちょっと外しちゃったな。うん、じゃあこれで最後ってことで。じゃあね富田」
「ま、待て、待ってくれ!なんでも、なんでもするから……」
だが時すでに遅し。
次の瞬間には、僕の『血の刃』は彼の首を容赦なく切り落としていた。
「ヨシト、大丈夫?」
しばしの静寂の後、彼女の心配そうな声が響く。
「あー、ごめんねユア。部屋汚しちゃったよ」
謁見の間は、当然のごとく富田の血で赤く染まっており、僕自身も彼の返り血を浴びて真っ赤に染まっていた。
「そんなこと聞いてないわよ!ケガとかしてない!?」
「いや、見ての通り俺が一方的に殺しただけだからなぁ」
彼女は、躊躇なく人を殺した僕を見ても、こんな心配したような言葉をかけてくれる。
僕は彼女のことを守れてよかったと、そう心から思った。
主人公……完全にチートですね。




