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天高く龍出づる国ありて  作者: 伊川有子
8話・咲の告白
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(5)


2人きりの部屋で長椅子に背を預けながら唇をちゅうちゅうと吸われている咲は、とりあえず今の自分の状況を正確に把握しようと必死に頭を働かせた。


とりあえず両想い的な、むしろ一足飛んで婚約?


冷静に考えてみれば想いが通じ合って立派なハッピーエンドだ。少し、いやかなり、いろいろすっ飛ばしてしまっただけであって・・・。


「んーっ」


「息継ぎしないと窒息するって」


「む、無理・・・っ」


慣れない口づけにどれほど時間が経ったのかも分からない。もちろん全てが初めてであるから、最初から琥轍にされるまま受け入れるだけで精一杯だ。

柔らかな唇の感触や近づいてくる端正な顔に、逃げ出したい気持ちを抑えるのも大変だったりする。もちろん、琥轍が覆い被さるような体勢になっているため逃げ出せないのだが。


「ん、ねえ、そろそろ仕事・・・」


「ああ、んー・・・いいんじゃん?」


ちょっとくらいサボっても、と琥轍。普段の咲ならば急所を蹴ってでも仕事に戻るところだが、この甘い空気の中、さすがにそれはできずに困り果てる。


油断した隙に首筋をペロリと舐められて、不意打ちを食らった咲は盛大に身体を震わせた。


「ちょっ、ばか!」


「なんだ、首が弱いのか」


「違うわよ!それより仕事に戻らないと・・・」


以前の祝相までとはいかないが、式典前の三足も準備で忙しい。恋人ができても仕事人間である咲はだんだん溜まっているであろう仕事に焦燥感を募らせ、琥轍は彼女を見て少し呆れたような表情をする。


「お前なあ、こんな時まで・・・」


「わ、悪かったわね。でも仕事と私事は分けないと」


「はあ。ま、仕方ないか」


彼女が仕事に熱心であることは承知の上。

琥轍は小さくため息を吐いて、最後にと唇を食んで舐め上げた。


それと同時に。


文字通り雪崩込むようにして一気に扉を突き破った一行。床に団子になって倒れ込んだ彼女らは、目を丸くして固まっている琥轍と咲に向かって申し訳なさそうな愛想笑いをする。


「あ・・・わ、忘れてた・・・」


部屋へ突入してきた彼女たち―――――、幸子や歩乃花やその他もろもろの男共を見て、咲は肝心なことを思い出した。琥轍にまだ四帝や事件が起こっていることを話していない、と。

しかしそれ以前になぜ彼女たちがいるのかと、咲は首をひねって尋ねる。


「・・・・なにやってんの?」


「いや、なんか、いい雰囲気だったから・・・」


「邪魔しちゃいけないかなーと思って、はははははっ」


歩乃花と幸子の言い訳に絶句した。一同が雪崩込んできたところをみると、彼女たちは扉に聞き耳を立てて盗み聞きをしていたに違いない。

咲は拳を握り、顔を真っ赤にして怒る。


「あ、あんたたちねえ・・!!」


「わー!ごめん、ごめんなさいー!元はと言えば炎岳さんが!!」


「てめえ、俺の所為じゃねえだろうが!お前が最初に騒ぎ出したんだろ!?」


ぎゃあぎゃあと互いに責任を擦り付け合う炎岳と幸子。まるで兄弟喧嘩のようなそれを見て、那刹はやれやれと首を横に振った。


仕事の再開を諦めた咲は呆然としている琥轍に向かって謝る。


「ごめん、まだ言ってないことがあったのよ」


「ん?・・・うん?」


「とにかくとても大事な話だから、部屋を移動しましょう」


ほら行くわよと出歯亀集団を元の部屋へと促しながら咲は歩き出し、琥轍も疑問符を抱えながら彼女の後を追った。

















「はあ゛あ゛あああああああ!!?」


迎賓館の一室にまるでチンピラの怒号のような叫び声が響く。琥轍の表情はまさに驚愕の極みといった感じであり、しかしそれも当然の話であった。

まさか誰が、今自分の目の前に四帝がいると思うであろうか。


「なっ・・・・なっ・・・・・」


「落ち着いてね、琥轍」


「落ち着けるかっ!」


気持ちの良い反応をしてくれた彼に、静かに観察していた幸子と歩乃花はうーむと唸る。


「私らこの世界の人間じゃないからピンと来ないけど、やっぱり四帝ってすごいんだねえ」


「うん。そんな人たちが味方してくれるんだから、私たち心強いよね」


のほほんとそんな会話をしている2人を無視して、琥轍は咲に矢継ぎに次々と質問をぶつけた。頭突きができそうなほどに詰め寄られて若干背を反らす咲。


「どういうことだよ!陛下はご存知なのか!?」


「さ、さあ。知ってるんじゃないかな。たぶん冥晶さん経由で。

もちろん、炎岳さんも那刹さんも協力してくれてるからここに居るんだよ。それから、地上に居る李賛さんも」


「李賛じいまで絡んでんのかよ」


彼は意気消沈したかのようにつぶやくと、がくりと肩を落とす。いくら内密に進められていたとはいえ、御史台の人間であるのに何も知らなかった自分が少し情けなかった。


「直接陛下とお話できるように目下交渉中なの。

これ以上異世界の武器を持ち込まれたら大変だし、化学兵器なんて持ち込まれようものなら勝ち目無いもの」


「交渉中って、直談判でもしたのか?」


「冥晶さんに頼んでる」


「またあの女かよ・・・」


玉闇に関して苦い思い出がある琥轍は眉間に皺を寄せる。


「とにかく、当面の目標は陛下に会うことと情報収集。情報に関しては那刹さんたちが動いてくれてるから、私たちにできることは今のところないわ」


「・・・そうか。しかし・・・四帝・・・・」


琥轍は疑い深い目で那刹と炎岳を見遣った。いくら彼らがあの四帝であると言われても信じがたい事実。

国の深層部で起こっている一大事に自分が関わっていることが誇らしくもあり、同時に恐ろしくなってくる。


「確かにその武器ってのはヤバイよなあ。距離が離れてても当たっただけで死ぬんだろ?」


「場所が悪ければね」


蔓延すれば最悪国が滅びますねえ、などどのんきな口調でのたまう那刹。琥轍はガシガシと頭を掻きむしって唸った。


「ったく、籍入れるのはしばらく後になりそうだな」


「え゛!!?結婚するの!?」


「うそ!?咲!?どういうこと!?」


「え・・・えっと・・・」


ぽろっと溢れた言葉を耳に挟んで仰天する幸子と歩乃花に、咲は若干赤くなりながらしどろもどろで答える。


「うん・・・その、一応、そういうことに・・・」


きゃあきゃあと黄色い声を上げながら祝福する2人。なんとなく流れでそうなった上にまだ決まったばかりで心の整理がついていない咲は、嬉しいやら恥ずかしいやらで複雑な表情をした。

一方で琥轍はニヤニヤした炎岳に肘で突つかれ、こちらも複雑な気分を味わうことに。


しばらくするとしんみりとした声で言ったのは歩乃花だった。


「・・・じゃあ、咲はこの世界で生きていくんだね」


結婚するということは、この世界に骨を埋める覚悟をしたということ。つまり咲は、日本には帰らない。幸子や歩乃花とも、もう二度と会えなくなるだろう。


友人のおめでたい話を喜ぶと同時に切なさがこみ上げてきて、歩乃花は目に涙を浮かべながらじっと咲の顔を見つめた。


「うん、私は帰らないよ」


「咲・・・・」


「寂しいけど、喜ばしいことなんじゃない?咲は自分で自分の生きる道を選んだんだからさ。しかも、好きな人と結ばれて、羨ましいったら」


よしよし、と歩乃花を慰めながら明るく言う幸子。歩乃花も頷いてそうだねと同意する。


「好きな人かあ。すごいなあ、咲は。大人だあ」


「なーに言ってんの、私たちもう結婚できる歳なんだから。

結婚相手が異世界人だってのは意外だったけど、お子様なのは歩乃花の方でしょ」


「えええ」


不満げに言う歩乃花に一同からクスクスと笑いが起こった。ますますむくれてしまった彼女をまあまあと慰めるのは当然那刹である。


「誰しも自分の時期というものがあります。焦らなくても、貴女にもちゃんと素敵な相手が現れますよ」


「だといいけど・・・」


「ええ、もちろん。ねえ?みなさんもそう思いますよね?」


目から光線が出そうなほどの絶対零度の微笑みに、無理やり同意を求められたみんなは機械的にぶんぶんと首を縦に振った。

彼女もしぶしぶ納得して、琥轍の方を向きぺこりと頭を下げる。


「あの、咲をよろしくお願いします」


「ああ、任せときな」


「恥ずかしいなあ、もう・・・」


「慣れとけよ。職場じゃもっと大変なことになるぞ」


咲は真っ赤になった顔を覆いながら零すと、すかさず琥轍が言う。同僚にここぞとばかりにからかわれまくる場面が思い浮かび、赤くなった顔を今度は青くする咲だった。





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