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【操り手の軍師】~eスポーツ廃人、異世界で最強の指揮官になる~  作者: レノスク


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第六話「十の春、鉄と意志で作る駒」

 あれから六年が経った。

 橋部洋二、十歳。

 体は同い年の子供より一回り大きく、日々の剣術稽古で鍛えられた体幹はしっかりしていた。顔立ちは母・橘に似て整っているが、目つきだけは父・左近譲りの鋭さがある。使用人たちは「若様は笑わない」と言うが、洋二本人はそれを気にしていなかった。クールでいることは、前世から変わらないポリシーだ。

 もっとも、リナの前では時々崩れるのだが。

「ねえ洋二、また鍛冶場にこもるの?」

 朝の稽古を終えた洋二に、リナが縁側から声をかけてきた。十歳の洋二に合わせるように、リナも少し背が伸びていた。白い髪は相変わらず朝の光を受けてふわりと輝き、紫の瞳がじっとこちらを見ている。

「ああ。今日こそ動かせるかもしれない」

「もう三回失敗してるじゃない」

「四回目は成功する」

「根拠は?」

「前三回の失敗から原因を全部潰したから」

 リナはため息をついた。耳がぺたんと伏せる。

「……わかった。私も手伝う」

「来なくていい」

「行く」

 洋二は少し間を置いてから、小さく頷いた。リナが来ると作業効率が下がる自覚はあったが、今回ばかりは風魔法が必要だった。

 橋部家の鍛冶場は、屋敷の北側にある。

 羽鳥国が誇る良質な鉄を加工する設備が揃っており、腕のいい鍛冶師が常時三人いた。洋二はその鍛冶場に六歳の頃から通い詰め、今では鍛冶師たちに一人前として扱われている。

 もっとも洋二の目的は武器を作ることではなく、別にあった。

 ゴーレムだ。

 遠隔操作魔法で動かせる、人型の自律兵器。前世でゲームの中で操っていたユニットを、この世界で現実に作り出す。それが洋二の長年の目標だった。

 問題は素材と構造だ。

 石や木では強度が足りない。鉄で作れば強いが重くなりすぎて、今の魔力では動かせない。軽くて丈夫な素材、かつ魔力を通しやすい性質が必要だった。

 そこに活路を見出したのが、羽鳥国の山で採れる特殊な鉄鉱石だ。

 普通の鉄より三割軽く、魔力との親和性が高い。鍛冶師の老人・源爺が「霊鉄れいてつ」と呼んでいたその素材を、洋二は半年かけて少しずつ集め、加工していた。

「今日試すのはこれだ」

 洋二が鍛冶場の隅から取り出したのは、人の腕ほどの大きさの鉄の人形だった。関節部分に霊鉄の薄板を使い、動きやすいよう細工してある。顔はない。ただの鉄の塊だが、洋二にはこれが将来の戦場を変える駒に見えた。

「ちっちゃい」リナが覗き込んで言った。

「最初から大きいものは動かせない。まず小型で感覚を掴む」

「なるほど」

 洋二は人形を床に置き、目を閉じた。

 意識を細く絞り、霊鉄に染み込ませる。普通の鉄と違い、霊鉄は魔力をすんなりと受け入れた。まるで乾いた土が水を吸うように。

 動け。

 人形の右腕が、ぴくりと動いた。

 続いて左腕。次に足。ぎこちなく、しかし確実に。人形はゆっくりと立ち上がり、よたよたと二歩、前に進んだ。

「動いた!」リナが声を上げた。耳がぴょんと跳ね上がる。

 洋二は集中を切らさなかった。

 問題はここからだ。人形を動かしながら、同時に別の操作ができるか。前世のIGLとしての経験で言えば、複数のユニットを同時に管理しながら自分も動くのが理想だ。人形を動かしながら石を操作する、その並列処理ができるかどうか。

 洋二は右手を持ち上げ、傍らにあった小石を三つ浮かせた。

 人形の動きが乱れた。

 足がもつれ、人形が倒れる。石も落ちた。

「惜しい」リナが呟いた。

「並列処理の限界だ。今の俺には人形の操作で魔力の七割を使っている。残り三割では石の制御まで手が回らない」

「じゃあどうするの」

「人形の操作を自動化する」

 リナが首を傾げた。耳も一緒に傾く。

「自動化?」

「人形に動作パターンを覚えさせる。歩く、走る、攻撃する。基本動作を魔力で刻み込んで、細かい制御なしでも動けるようにする。そうすれば俺は大まかな指示だけ出して、残りの魔力を別のことに使える」

「基本動作を自律させる。名前をつけるなら『行動刻印アクトブランド』とでも呼ぶか」

「かっこいい名前」リナが笑った。

 その日の午後から、洋二は行動刻印の研究を始めた。

 霊鉄の人形に魔力を流しながら、動作パターンを一つずつ焼き付けていく。歩行の動作を刻むのに二時間かかった。走行パターンはさらにその倍。それでも洋二は休まなかった。

 日が傾き始めた頃、リナが握り飯を持ってきた。

「食べて。倒れても知らないよ」

「あと少しで歩行パターンが完成する」

「食べながらでもできるでしょ」洋二の隣に座り、握り飯を押し付けてくる。「ほら」

 洋二は渋々受け取り、かじりながら作業を続けた。

 リナは黙って隣に座り、時々人形を眺めながら風魔法で涼しい風を送ってきた。それが妙に心地よくて、洋二は少しだけ集中が乱れた。

 ――クールでいろ。

 自分に言い聞かせながら、人形に意識を戻す。

 夕暮れ時、ついに歩行パターンの刻印が完成した。

 洋二は魔力を最小限に絞り、人形に指示を出した。歩け。

 人形が動いた。今度はよたよたとではなく、安定した歩幅で、まっすぐに。洋二が細かく制御しなくても、刻まれた動作パターンが人形を動かしている。

 そして洋二は同時に、石を五つ浮かせた。

 人形は歩き続けた。石も安定して浮いている。

 並列処理、成功だ。

「……やった」

 洋二は静かに呟いた。リナが隣で小さく歓声を上げた。

「すごい、すごい洋二!ちゃんと動いてる!」

「まだ歩くだけだ。戦闘動作を刻むのはこれからだ」

「それでもすごいよ」リナは洋二の腕をぽんと叩いた。「洋二は本当にすごいね、いつも」

 洋二は前を向いたまま答えなかった。

 頬が少し熱い気がしたのは、鍛冶場の余熱のせいだと思うことにした。

 その夜、父・左近が鍛冶場に顔を出した。

 動く人形を無言で見つめ、しばらくしてから言った。

「これを戦場に出す気か」

「はい。まず三体。それぞれに別の動作パターンを刻んで、囮と攻撃と盾の役割を持たせます。俺が指揮しながら動かせば、実質的に兵の数を増やせる」

「魔力が持つか」

「霊鉄を使えば消費を三割減らせます。今の俺の魔力量なら三体の並列操作に加えて、石の遠隔操作も同時にできます」

 左近はしばらく黙って人形を見ていた。

「……大きくする気はあるか」

「もちろんです。今は素材と魔力の両方が足りない。ですが五年あれば、人の大きさのゴーレムを複数体、戦場で動かせるようになります」

「五年か」

「それまでに父上には橋部家の地盤を固めておいてほしい。俺が動ける準備が整ったとき、必ず役に立てます」

 左近は息子を見下ろした。

 十歳の子供が、五年後の戦略を語っている。

「……お前は本当に何者だ」

「橋部家の跡取りです」

 洋二は迷いなく答えた。いつも同じ答えだ。

 左近は小さく笑い、踵を返した。

「期待している」

 その背中を見送りながら、洋二は人形を手の中で握った。

 小さな鉄の塊。でもこれが、いつか戦場を変える。

 五年後、橋部洋二は動き出す。

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