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【操り手の軍師】~eスポーツ廃人、異世界で最強の指揮官になる~  作者: レノスク


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第五話「四歳の進言、そして覚醒」

 物見の報告は、リナの言葉を裏付けていた。

 山の北側、鷹羽国との境に百二十から百五十ほどの武装集団。旗はなく、正規の軍装でもない。表向きは山賊か野盗の類だが、動きが統率されすぎていた。烏合の衆が取るような動き方ではない。

 父・左近は家臣たちを集め、軍議を開いた。

 洋二は当然、その場にいなかった。四歳の子供が軍議に同席できるわけがない。だが廊下の柱の陰から、すべての話を聞いていた。

 左近の作戦はこうだ。山の中腹に二十人の弓兵を配置し、敵が山道を下りてきたところを射かける。同時に麓で三十人の歩兵が待ち構え、混乱した敵を挟み撃ちにする。

 悪くない。正攻法だ。

 だが洋二には引っかかるものがあった。

 敵が統率された集団なら、山道に罠があることを想定してくるはずだ。斥候を先行させ、弓兵の位置を割り出してから本隊を動かす可能性がある。そうなれば挟み撃ちの前に弓兵が各個撃破される。

 しかし洋二には今の段階で進言する手段がなかった。軍議の場に入れない。父に直接話しかけても、四歳の子供の言葉として流されるだけだ。

 あの場で発言できる立場になるには、まず結果を出すしかない。

 洋二は柱の陰で静かに拳を握った。

 翌朝、敵は動いた。

 夜明け前から山を下り始めた敵集団は、予想通り斥候を先行させていた。左近の弓兵隊は斥候に位置を掴まれ、本隊が来る前に迂回された。山道の両脇から包囲される形になり、弓兵二十人は後退を余儀なくされた。

 麓で待つ歩兵隊にも、想定より早く敵の本隊が迫った。三十対百二十。数の差は歴然だ。

 洋二は屋敷の二階から戦況を見ていた。

 まずい。このままでは押し切られる。

 父は麓の歩兵隊の中にいた。自ら先頭に立って剣を振るい、兵たちを鼓舞している。その姿は頼もしかったが、戦況そのものは確実に悪化していた。

 洋二は階段を駆け下り、屋敷の外へ飛び出した。

「若様!」お春の悲鳴が背後に聞こえたが、構っていられない。

 前線まで走った。四歳の足で、全力で。

 父の姿を見つけた瞬間、敵の一人が洋二に気づいた。

「子供か? なんでこんな場所に――」

 男が短刀を抜いた。

 洋二は足を止め、地面の石を三つ同時に浮かせた。男の顔めがけて叩き込む。男は怯んで後退したが、仲間が二人、洋二に向かってきた。

 距離が詰まる。十メートル、八メートル、六メートル――

 石の操作が追いつかない。二人同時に相手をするには、今の自分の制御力では足りなかった。

 一人を石で牽制しながら、もう一人をどうするか。洋二が判断を迫られた瞬間――

 風が吹いた。

 鋭く、的確に。男の足元を薙ぐように走った風が、男の体勢を崩した。

「遅くなってごめん!」

 リナだった。いつの間にか洋二の隣に立ち、両手を前に伸ばして風魔法を構えている。白い髪が乱れ、耳がぴんと立っていた。

「なんでここに」

「洋二が飛び出すの見えたから」

 文句を言っている場合ではない。洋二は状況を瞬時に再整理した。

 リナの風魔法と自分の遠隔操作。二人のコンビネーションは訓練で確認済みだ。だがここは実戦だ。声で指示を出していたら間に合わない場面が出てくる。

 そのとき、洋二の意識の中で何かが弾けた。

 リナの風魔法の流れが、まるで地図のように頭の中に見えた。風の向き、強さ、到達点。それと自分の操作する石の軌道が、自然に重なり合っていく。

 言葉を使わずに、リナの動きが読める。

 いや、違う。読めるだけじゃない。

 洋二がイメージした軌道を、リナが風で補完している。まるでリナも同じイメージを共有しているかのように。

「リナ、今何が見えてる」

「洋二が動かしたい方向が、なんとなく……わかる」

 洋二は目を見開いた。

 遠隔操作魔法が、新たな段階に進んだのだ。物体を動かすだけでなく、意識を共有する――いや、正確には「戦場のイメージを仲間と同期させる」能力。

 洋二はとっさにその感覚に名前をつけた。

 『共鳴指揮リンクコンダクト』。

 言葉を介さず、戦場のビジョンを仲間と共有する。IGLとして積み上げてきた「全体を見る目」が、魔力と融合して新たな力になった。

 洋二はリナを見た。

「行けるか」

 リナは耳をぴんと立て、頷いた。

 二人の息が合った。

 洋二が七つの石を同時に浮かせ、扇状に展開する。リナが風を送り、石を加速させる。七発が連続して飛び、迫ってきた敵五人の足元と武器を正確に弾いた。誰も傷つけず、しかし全員の戦意を削ぐ、精密な制御。

 周囲の敵がざわめいた。

 子供二人が、魔法で五人を止めた。

 その光景を、左近は見ていた。

 剣を交えながらも、息子とあの白髪の妖精の子が放った魔法の正確さに、目を奪われていた。

 戦況が膠着したその瞬間、洋二が父のもとへ駆け寄ってきた。

「父上、作戦を変えてください」

 左近は答えなかった。

「弓兵隊を山の東側へ迂回させ、敵の退路を断ちます。同時に歩兵隊を三つに分けて、中央を囮にしながら両翼から絞り込む。敵は統率されているように見えますが、指揮官は後方にいます。指揮官を孤立させれば、集団は瓦解します」

「……根拠は」

「敵の動きを見ていました。前線の動きが均一すぎる。細かい判断を現場に任せていない証拠です。指揮官の命令がなければ動けない。だから指揮官を潰せば終わります」

 左近はしばらく息子を見つめた。

 四歳だ。この子は四歳だ。

 半信半疑のまま、左近は口を開いた。

「……やってみろ」

 洋二は頷き、振り返った。

「リナ、東側の山道を覚えているか」

「うん、案内できる」

「弓兵隊を頼む。俺は父上と中央を持つ」

 リナは一瞬だけ洋二を見た。心配そうな紫の瞳。

「絶対に無茶しないでよ」

「する予定はない」

 リナは納得していない顔のまま、風のように駆け出した。

 作戦は、洋二の読み通りに進んだ。

 弓兵隊が東側へ回り込み、退路を断った。歩兵隊が三手に分かれ、中央の囮に釣られた敵本隊が両翼から圧迫される。そして洋二が『リンクコンダクト』で把握した敵指揮官の位置へ、父・左近が一直線に斬り込んだ。

 指揮官が倒れた瞬間、敵集団の動きが止まった。

 命令を待つように立ち尽くす兵たち。その隙を突いて橋部家の兵が一気に包囲を締める。抵抗する者はほとんどいなかった。

 戦闘終了。橋部家の損害は軽傷者が数人。対して敵は半数以上が捕縛された。

 戦後処理の中、捕縛した敵の一人を父が尋問した。洋二はその場に同席を許された。

「お前たちは何者だ。山賊にしては統率が取れすぎている」

 男は最初黙っていたが、左近の眼光に耐えられなくなったのか、やがて口を割った。

「……俺たちはただ雇われただけだ。金をもらって動いた」

「誰に雇われた」

 男は唇を噛んだ。

「言えない。言ったら……殺される」

「誰に」

「あんたらには想像もできないような……でかい存在だ」左近の目を避けるように視線を逸らしながら、男は震える声で続けた。「この国どころか、この世界全体を動かそうとしている。俺たちみたいな駒が逆らえる相手じゃない」

 沈黙が落ちた。

 洋二は無表情のまま、しかし頭の中では猛烈に情報を処理していた。

 山賊に見せかけた組織的な部隊。背後にいる「世界全体を動かそうとしている」存在。これは単なる国同士の争いではない。もっと大きな、見えない手が動いている。

 戦国の世の裏側に、何かがいる。

 父は男を連行させ、洋二を見た。

「聞いたか」

「はい」

「どう思う」

 洋二は少し考えてから答えた。

「今は保留です。情報が足りない。ただ――」

 洋二は山の北側、鷹羽国との境がある方向を見た。

「この戦いは、始まりに過ぎないと思います」

 左近は黙って息子を見下ろした。

 その目には、もう半信半疑の色はなかった。

 その夜、屋敷の縁側でリナが隣に座っていた。

「疲れた?」

「少しな」洋二は正直に答えた。

「今日、洋二の中で何か変わった気がした」リナは静かに言った。「なんか……繋がった感じがした」

「共鳴指揮だ」

「なにそれ」

「お前と俺の意識が、戦場のイメージを共有した。言葉なしで動きが合った」

 リナは少し考えてから、ゆっくり頷いた。

「……確かに、洋二が何をしようとしてるかわかった。不思議な感じだったけど、怖くなかった」

「迷惑だったか」

「ぜんぜん」リナは耳をぴょこんと動かした。「なんか、嬉しかった」

 洋二は前を向いたまま、小さく息を吐いた。

 そういうことを自然に言うから、女性は苦手なんだ。

 クールでいろ、橋部洋二。

 しかし今夜だけは、頬が少し熱いのを自覚しながら、洋二は夜空を見上げていた。

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