三.白き玉座と共に
真っ暗な部屋が一気に明るくなると、そこにはロッキーが今まで見たこともない光景が広がっていた。
「なんだここは? いきなり白い部屋が現れたかと思ったら、今度はその奥に奇妙な“椅子”のようなものがあるぞ?」
床にぽつんと置かれたその白い物体を前に、ロッキーはしばらく立ち尽くした。
「背もたれにしては少々大き過ぎるような気がするが、何より椅子のようでいて、座面にはポッカリと穴が開いている……?」
慎重に近づいたロッキーは厚みのある背もたれやツルリとした白い椅子を注意深く観察した。
「光沢のある表面はやけに神々しく、まるで神聖な儀式に使う祭具のようだな」
恐る恐る指先で触れると、ひんやりと冷たく、妙に存在感がある。
「それに周りをよく見るとゴミ一つ落ちていなし、部屋の凛とした佇まいからは何やら気品めいたものを感じる……」
(ひょっとして、昔森の長老から聞いた人間の王の椅子、「玉座」というヤツか?)
などと、子供の頃の話を思い返すロッキーの目の端にまたしても白き不可解なものが入った。
それは人の腰の高さに据えられていた。
椅子と同じくツルリとした感じの白くて四角い器とその上に、銀色に輝く金属の角のようなものが生えている。
「この椅子が玉座とすれば、あれは供物を捧げる祭壇か……?」
「うむっ」と深くうなずいたロッキーは以下のように思考を巡らせた。
背もたれはないが、座面は妙に堂々としており、まるで「座れ」と主張している。
しかも、なぜか水が溜まっている。
椅子に水を溜める文化なのだろうか。
それとも単なる儀式なのか、あるいは玉座に座る者の覚悟を試すためなのか……。
こうしてロッキーをある結論に達した。
「なるほど……、ここは高度な文明の創造主たる“王を祭る部屋”なのだな」
結論が出て気が緩んだせいか、「ふうっ……」と一息吐いたロッキーは床に座り込むと、急に睡魔に襲われ、そのまま便器の横で寝入ってしまった。
翌朝、従業員のロジャーが出勤してきた。
「ふぁーっ。マイクのヤツがあそこでヘマしなきゃ、勝てたのにな……」
きのう、夜遅くまでネット対戦ゲームに熱中したあまり、朝から生あくびが絶えないロジャーは少し寝不足気味になっていた。
眠たい目をこすりながらロジャーがバックヤードにある通用口のカギを開けて中に入ると、売り場からをアルコールの臭いが漂ってきた。
「うっ、なんだこれは。いくら酒を売っているからといって、さすがにここまで臭ってきたら、マズいでしょ」
いったい何が起ったんだと、ロジャーは慌てて売り場へ向かった。
「えっ……」
思わずロジャーが声を失うほど店内はひどく荒らされていた。
床には多数の割れたボトルが散乱し、おびただしい量の酒がまき散らされていた。
そのせいで、店内には様々な種類の酒が混ざり合った強烈なアルコール臭いで充満した。
「明らかに誰かが夜中に侵入したようだ」
だが、不思議なことに荒らされていたのは一番下の棚の酒だけだった。
首を傾げたロジャーが店内を見渡すと、店の中をあっちこっち歩き回った奇妙な足跡に気付いた。
「変な足跡があるぞ。どうも、店が荒らされた件と関係がありそうだな」
取り敢えずロジャーはその奇妙な足跡を辿っていくことにした。
足跡を追って店の中をしばらく歩き回ったロジャーは、最後にトイレの前に行き着いた。
「まさか、ここに隠れているのか?」
ドアを開けた途端、犯人との鉢合わせを想定したロジャーは、念のために背負っていたリュックを降ろして盾代わりにした。
ゆっくりと深呼吸をしたロジャーはドアノブに手をかけて思い切り押し開けた。
※注2:店舗、公共施設のトイレのドアは内開きが基本です。
勢いよくトイレに入ったロジャーは、そこで驚くべき光景を目にしたのだ。
「えっ、なんじゃ、こりゃ!!」




