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潜在と顕在

潜在意識が核であり人間の弱点?

そんな話は聞いたことがない。黙り込んでいると彼女は続けた。

「そんな「潜在意識」、つまり「核」を破壊し、地球の生命を破壊しようと目論むやつがいる。そんな相手に立ち向かえるのは、潜在意識を真の意味で理解し、それに触れることが出来る人間。つまりお前だ。「久遠 響」……だったか?お前は先程なぜ俺を呼んだのかと聞いたな。これが答えだ。」


一泊の呼吸を置き、彼女は続けた。


「地球の生命を、お前が救え。」と。


正直意味がわからない。だが設定としては面白い。起きたらこの話を小説にでもしてみようかと考えながら、俺は言った。


「良いだろう、俺の力が必要ならば、我が力が罪もなく穏やかに暮らす人々の脅威を取り払えるのなら、この生命と魂の全てを賭けて挑んでやる。」

まるで少年漫画の主人公みたいだ。と自分に酔っていると、彼女は答えた。


「そう言ってくれると思っていた。フテリュクス。」

フテリュクス?お別れの挨拶かな?


「自己紹介が遅れてすまない。私はリオン。これなら貴様とは長い付き合いになるだろう。よろしくな。」


「ああ、よろしく。」


そう俺が言うと、急激な眠気に襲われた。寝ている時に眠気が来たことなど今までなかった。そんな不思議な感覚を体感しているうちに、俺の意識は深い闇へと下っていった。


―――――――――――――――――――――


目覚ましが鳴る。

ええと、俺は誰だっけ?何してたっけ?


いつものルーティンを行い思い出す。俺は久遠 響。しがない会社員。そして今日は念願の休みだ!


飛び起きてカーテンを開ける、降り注ぐ朝日が気持ちいい…………ん?


想像と違い、空は深い橙に染まっていた。西から東へカラスが飛びさり、世界は来るべき夜に備えて準備を始めていた。

おかしい、俺はスマートフォンを見る。


16時41分


そう表示されていた。


俺は昨日23時には床に着いた。寝付きが良くないとはいえ、1時間もしないうちに寝たはずだ。

16時間も寝ていたのか?

今日という貴重な休日を、無駄にしてしまった。その癖身体はだるい。あれだけ寝たのだから身も心もリフレッシュしていてもおかしくないのに。


そういえば、変な夢を見たな。俺が世界を救うと宣言したあの夢。ヘンテコな美女と話したあの夢。

確かに楽しい夢だったが、代償がこれか……。


俺は深く落ち込んだ。


―――――――――――――――――――――


だが、翌日から、俺の生活は少しだけ変わった。

というより、周りの人間の俺に対する態度が変わったのだ。


違和感を覚えたのは朝の電車。

俺の乗る電車の沿線には学校がいくつかあり、高校生、特に女子高生が乗ってくることが多い。俺は痴漢冤罪を恐れ、なるべく彼女らから離れることを意識している。

しかしその日、いきなり女子高生に話しかけられた。


「おはようございます!」


いきなりの事で俺は驚く。近頃は痴漢冤罪を吹っかけて金をせびる女性がいると言うが、まさかそれか?そう怯えていると、彼女たちは再び口を開く。


「お仕事がんばってくださいね!」


そう言って彼女らは電車を降りていった。

なんだかよく分からないが悪い気分では無い。


その後会社に到着してからもおかしなことがよくあった。

エレベーターに乗ると、3人ほど社員がいた。いつもは挨拶程度しかしない関係性だが、社員のひとりが尋ねてきた。


「久遠くん、だよね?おはよう、今日も頑張ろうね。」

と。


そうするとほかの2人も続けて

「大変だけど頑張ろうね。」

「期待しているよ。」

と言ってくれた。


まあこれも悪い気はしなかったので、ありがとうございますと笑顔で返した。


その後、いつもなら俺に不躾に雑用を押し付けてくる奴らが「久遠くん、もし忙しくなかったらこれ頼める?もしきつそうなら無理せず言ってね!」とやけに優しかったり、太客である取引先との最重要の営業に突然駆り出され、なぜか取引先に気に入られ商談が成功したり、あまりにも俺に都合の良いことが続いた。


特におかしいかったのは、ランチタイムでのある出来事。

この日は仕事を押し付けられることも少なく、久しぶりに外食しようかと立ち上がった時、高岸と石橋が近づいてきた。

「久遠さん、良かったら私たちとランチ行きませんか?」

「大きな商談を成功させたんですから、そのお祝いで!」

とやけに人懐っこく俺に話しかける。

結局、高橋も含めた4人でランチに行った。


その一回の食事で彼女らは俺を認めたらしく、タメ口で馴れ馴れしく話しかけてくるようになった。

まあ、悪くはないが。


帰りの電車で、俺は一日を振り返った。

今日はとても楽しかった。明日からも上手く行きそうな気がする。

なぜこうも俺の待遇が良くなったのか、昨日老婆に親切にしたからか?社長が何か言ってくれたのか?

分からないが、とにかく俺は楽しい気分で一日を終え、床に着いた。


―――――――――――――――――――――


眠りに就いた瞬間、俺の意識は目覚めた。

そして、この日はいつもと異なり、俺は目覚めた瞬間俺が誰なのか認識することができた。


あの場所だ。

昨日夢で訪れた不思議な空間。

後ろを振り返ると、椅子にあの女性、リオン……だったか?


「さあ、座れ。話をしよう。」

リオンが言う。


言われるがまま着席すると、彼女の方が口を開く。


「不思議だっただろう?今日一日は。」


俺は驚く、確かに俺の今日一日は不思議な日だった。彼女はその答えを知っているのか?

それを聞いてみることにした。


「ああ、摩訶不思議な一日だった。だが貴様の口ぶりを聞く限りやはり何か理由があるのだな?教えてもらおうか。」

なんだこの口調は、俺はただ一言、「知っているんですか?」と聞くつもりだった。だがやけに思わせぶりな口調になってしまった。俺はこの夢のことを明晰夢(夢を夢であると認識し、自分の思いどうりになる夢)であると思っていたが、実は違うのか?


そんな俺の口調を気にも止めず、リオンは答えた。

「ああ、昨日話しただろう?全ての人間は潜在意識下で繋がっている。ここはその潜在意識の中心なのだ。」

彼女は続ける。

「つまり、ここで話した内容は全ての人々の潜在意識に刻まれる。お前が地球を救う可能性のある英雄であると、全ての人間が潜在意識下で理解した。そのためお前への態度が良くなったのだろう。」

と。


なるほど、確かに筋は通っている。


「なら、この夢は俺にとって吉夢、この夢を見続ければさらに人々から好かれる、ということか?」

俺は問いかける。


「ああ、この夢をお前が「見続ける」ことが出来ればな。それは簡単なことでは無いと思うが。」

リオンが含みを持たせた回答をする。


「ちょうどいい、今日は早速1つ目の試練だ。着いてこい。」

リオンがそう言い立ち上がる。

試練?なんの事だろうか?

言われるがまま彼女に着いていく。あの不思議な部屋から外に出ると、一瞬視界がぼやけ、目を擦りもう一度周りを見るとそこは深い霧のかかった森の中だった。


「ここは…………?」


俺の質問を無視し、リオンは答える。

「ここは……そうだな。異世界とでも思ってくれ。この森には地球には生息していない魔獣が住んでいる。お前に課せられた試練はここで半年間生き抜くことだ。」


俺は驚きの声を上げた。

「は、半年間!?半年間もの間ここを一人で!?」


リオンは少し微笑みながら言った。

「そうだ、ここで半年間生き抜く力が無ければ、世界を救うことなど出来ない。お前は世界を救うことがそんな簡単だと思っていたのか?」


「そ、そんな……こんなところで半年間だと……

ご飯は?お風呂は?ベッドは?」


「そんなものが用意されてると思うか?おぼっちゃまめ…………」


どこかで聞いたような問答の末、リオンは呟いた。


「半年後、また来る。それまでせいぜい頑張れ。」

と。


こうして、俺の地獄の半年間が始まった。








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