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ラブコメ

聞いてないんだけど!? 王子様のドタバタで無理やりな婚約劇

作者: しぃ太郎

お読みいただきありがとうござい


このお話は、

「予定と段取りを一番把握していないのが王子様」

というコンセプトで生まれた、ドタバタ勘違いラブコになります。


王子様の知らないところで政治も恋も動いたり、

何より――

一番振り回されているのは王子様本人です。


ゆるっと楽しんでいただけたけたら嬉しいです。






「ディライト公爵令嬢! 私は、この女性を心から愛してしまった! もうこれ以上、君との婚約は続けられない! 私はこれから愛に生きると誓ったんだ!」


 国王の生誕祭のパーティー。その華やかな場で。なにを馬鹿な事を――とは誰も止められなかった。

 その発言をしたのは、第一王位継承権をもつ、アレクシス・バートランド殿下だったからだ。


「まぁ、嬉しいですわ。アレク様」


 隣には、あまりにも場違いなほどに、肌を晒した女性を連れている。誰もが、『ああ、アレクシス王子が娼婦に夢中だという噂は本当だったのだ……』と考えた。


 一方の、先ほどの礼儀の欠片も無い発言を浴びせられたディライト公爵令嬢は、扇で口元を隠し、静まり返った会場で誰の耳にも届くような凛とした声で聞いた。


「それは、神に誓って、でしょうか殿下?」


 アレクシスは、グッと押し黙った後に言った。

 その言葉に周囲は動揺する。王族が神に誓いを立てる。

 その意味を誰もが知っているからだ。


「……ああ。神に誓ってだ……!」


 ニヤリ、と二人の女性が口元に笑みを浮かべた。

 一人は、アレクシスが連れて来てエスコートする『娼婦』。

 そしてもう一人――。


 その直後。


 バサァッ!!


 茶色いウィッグが会場の空中を飛んでいった。


「おま……エリーゼ!? え、えぇ? クラリスは知って……!? 嘘だろ、全然ついていけないんだが……!」


 自分が起こした騒ぎにも関わらず、王子は慌てて隣の女性と、目の前の婚約者を何度も見返した。

 ざわり、と会場の空気が揺れた。


「言質、取りましたからね!」

 そして、高らかに宣言する女性の声が辺りに響いたのだった。


 ◇◇◇


 婚約破棄宣言をする二時間前――。


「アレクシス様! 殿下!おいこら寝た振りすんな、このバカ。親不孝者の、恩知らずが!」

「寝ていない。それに、ダレン。お前の暴言も全部聞こえてたからな」

「じゃあ、育ての恩を仇で返す高貴でお馬鹿な王子様、ご所望の女性を手配しましたよ」

 

 いつの間にか、馬車が一軒のタウンハウスの前に止まっていた。ダレンは幼い頃からの側近――、いわゆる乳兄弟という関係だった。


「口止めは? 絶対に口外しない者を選んだんだろうな? 後で両陛下に脅しにかかるような人間ではただではおかないぞ」

「そこは、大丈夫。俺の名にかけて保証します。彼女は秘密を漏らさないし、忠義を尽くして役を演じてくれるよ」

「それならいい」


 俺はアレクシス・バートランド。先代国王の第一子で、現国王の甥だ。

 はからずも、俺と国王の息子――レオナルドは同い年で今年一八歳。それが全ての問題だった。

 継承権第一位は俺。そして、従兄弟のレオナルドは第二位だった。

 

 現在、叔父上の治世のお陰でしっかりと国が機能している。俺はそれで十分だった。別に幼い頃に死別した父に、そこまでの愛情を持っていたわけでもない。

 これまで育ててきたくれた両陛下にこそ恩義を感じている。

 

「でもさ、陛下ともう一度話し合ったほうがいいんじゃないですか?」 

「いや、あの方々には俺の事を見限ってもらいたいんだ。俺のせいでレオナルドは随分と寂しい思いをしただろう。実子なのに、いつも俺の事を気にかけてくださった。陛下もレオも、もう解放されてもいい」


 この期に及んで、まだ俺を説得しようとしているらしい。この乳兄弟は、本当に情が深い。


「それよりも、俺が行動に出た後の後始末が心配だな。ディライト公爵令嬢には何の玉傷も残さない手配はしたが……」

「新聞には、あなたの一大ニュースが載ることでしょう。それに、国で彼女を貶められる人間なんています? 才女として有名な完璧な淑女です。次の日には求婚者の列が出来ているはずですよ」

 

 ――そう。それならば思い残すことはない。

 派手に、それも恥をさらして王籍を抜けられる。


「あの頃は良かったな……。お前と、リゼ、それにレオナルド。何も知らなかった頃は、身分も何も関係なかった。しがらみも無くて自由だったな」

「なにを甘いことを言っているんだか……。やっぱりあなたは王族に向いていない」

「そんな事は、俺が一番に知っている」


 レオナルドとは、派閥の関係であまり近付けなくなってしまった。ダレンは側近だが――。


「リゼ――、エリーゼはまだ行儀見習いのままか?」

「ああ、あなたの婚約者のディライト公爵令嬢の侍女をやっていますよ」

「そうか……。最後に会ったのは二年前だったかな。はぁ、結局俺は誰の『王子様』にもなれない半端者だな」


 幼い頃に、よくついて後をついてきたダレンの妹のエリーゼを思い出す。

 絵本の中の『王子様』と俺を比べて、いつも俺のほうがいいと言ってくれていた。ダレンの妹なんだから、聞けばよかったのに、何故か今まで勇気がでなかった。あの、美しいピンクゴールドの髪が忘れられない……。


「リゼは……、その、婚約は? いや、元気か?」

「ああ、俺も最近会ってないけれど。あいつは今、恋に夢中らしいです。正直、妹のそういう話は聞きたくないんですけどね」


 ズキン、と胸が軋む音がする。

 ゆっくりと目を閉じて、深呼吸をする。

 そう。感傷は必要ないんだ。これから破滅に向かうと決めたはずだろう。

 しかし、閉じた目の裏に浮かぶのは幼い頃からずっと慕ってきてくれたエリーゼの姿だった。


「――最後に会いたいな」

「ん?何か言った?もうちょっとでご所望の『娼婦役』のお相手のご登場です。演ると決めたなら、ちゃんと演じて下さいよ」

「ああ、わかっている。今更、俺が怖じ気付く心配か?」


 ため息をつきながら、ダレンが念を押す。


「何があっても、その場に合わせて。あなたの目的は、ちゃんと理解してますよね?」

「ああ。穏便にレオナルドに王位を譲る。それが目的だ」

「それならいいです。想定外の事態に醜態をさらして、更に混乱を招きたくないですから!こっちも色々と大変なんです、全く」


 ダレンには色々と手を回してもらった。新聞社の件も、『娼婦役』の女性の手配も――。


「お前には、今まで本当に苦労をかけたな」

「なにを今更。これから沢山、苦労をかけるつもりでしょうに」


 そうだ。これから、俺は盛大な茶番劇を演じて、その後始末を彼に任せる事になっている。


「お前には、ずっと頭が上がらないな」

「じゃあ、これからは敬語なしでお前に接する。そして、俺を兄だと認めるなら許すよ。アレクシス」

「ははは。昔はよくそれで喧嘩したな」


 同い年の乳兄弟。どちらが年上で兄だ弟だとよく喧嘩したものだ。


「さあ、今日のパートナーのレディを迎えに行くぞ。名前は――。何か希望あるか?あちらは全部お前の演技に合わせるだけだから」


 いきなりのダレンの質問だ。

 名前?

 愛人役の名前ねぇ……。


「思いつかないな。ダレン、お前に任せる」

「ふーん。なら、じゃあ、ローズで。派手でいいだろ?」


 ――まぁ何でもいい。そんなイメージの女性なのか。ダレンが用意したのだから、普通の娼婦ではないだろうし、纏わりつかれる心配もない。


 ゆっくりと馬車を降りる。

 俺はこれから『恋人』を演じてくれる女性を迎えるべく、フットマンがドアをノックするのを待った。


「お待ちしておりました。どうぞ中でお待ち下さい」

 すぐに通され、玄関ホールで女性を待つ。

「ここ、誰の別邸だ? 身分を知ったらお互いに面倒だったから聞かなかったが、まさか貴族令嬢に頼んだんじゃないだろうな」

 隣のダレンを睨みつける。

 明らかに、貴族か裕福な商家の家だ。

 まあ、さすがに貧民や平民にこの役は務まらない。だが、こちらの都合で相手に不都合を与えるのも心苦しい。


「大丈夫! うちの別邸! ルーベンス子爵邸だから!」

「何……? まぁ、妥当か」


 そんな会話をしていると、あまり間を置かずに女性が階段を下りてきた。派手な赤色のドレスに大きく開いた胸元。

 こちらの要望通りだった。


 ダレンがエスコートのために階段を上がり、女性の手を取る。

 何か小声で囁き合っているが、ダレンの恋人か?

 ――いや、こちらが頼み込んだ手前、聞くわけにもいかない。


 念のために、俺は小声で告げた。

「ローズ嬢、今夜は宜しくお願い致します。話は通っていると聞いていますが、今宵貴方は会場中で様々な視線に晒される事になる」

「ええ、伺っております。大丈夫、全部私にお任せください。王子様」


 深いブルネットに、緑の瞳。派手な化粧で美しく着飾った彼女は、妖艶に笑って言った。


 この時の俺は、裏で『俺の為に』計画を立てている、有り難くも大切な――そんな人がいるとは気付いていなかった。


 ◇◇◇


 国王の生誕パーティーの一週間前。


「お嬢様ーー!!どうしましょう、あの馬鹿王子! 馬鹿な事を考えて! あの、馬鹿な! 王子様が!今、兄から連絡が来てーー!」

「どうしたのエリーゼ、いつものかわいい頬が、もっと可愛らしくなっているわ」


 私の美しい主人、クラリス・ディライト公爵令嬢。金髪碧眼で、正に美しさの化身。

 そして優しく、気品に溢れる、正に敬愛する私のお嬢様だ。

 紅茶を口に運ぶ姿も美しい。


「あんの、馬鹿はやっぱりバカな事を考えているみたいです!――そこまで思い詰めなくても、周りにちゃんと言えばいいのに……!」


 いつも自分が我慢すればいいと思っている。

 いつも自分だけが除け者だと思っていた馬鹿な人。周りが気にして構えば構うほどに、罪悪感を抱く、本当に馬鹿な王子様!


「今度の陛下の夜会で娼婦を連れて、王籍を抜けて結婚すると宣言するらしいです!あの、馬鹿王子が!」


 いくら、自分の醜態を晒したいとしてもクラリス様を巻き込むなんて!


「クラリス様。アレクシス様のご無礼をお許しください!私の、これからの行動は全て私自身が背負います。ちょっと、陛下と王妃陛下に、直談判して――!」

「ちょっと落ち着きなさい、エリーゼ。これは、私たち二人の絶好の好機よ。上手くやりましょう」


 ――ああ。なんて頼りになるお姉様。

 最初は、アレク様の将来の奥様になると聞いて、敵愾心を抱いてしまったが、私は二日で落ちた。

 逆にアレク様なんて、クラリス様には勿体ない。

 そうよ、娼婦と駆け落ち予定なら私程度でもお釣りが出るわ!


「あの、優しい馬鹿な王子様は、悪い人じゃないんです……。兄の手紙でも『陛下の生誕祭の夜会で騒ぎを起こす予定』と書いてあって。きっと、全部自分で泥をかぶるつもりなんです……」


 不憫な身の上ではある。前王の唯一の直系。

 だが、既に彼の母も亡くなり、今の両陛下に育てられた。

 お二人を慕っているけれど、それも、本当の陛下の実子であるレオナルド殿下に負い目を感じるのだろう。

 誰とも家族にはなりきれない……。


「落ち着きなさい、エリーゼ。だから私たちの出番なんじゃないの?この歪んだ状態にヒビを入れて全員の目を覚ましましょう」

「はい、クラリス様! どっちにしても、次期王にも――クラリス様にも相応しいのはレオナルド様です! ふふふ。いつも、お会いするために、散歩コースを相談していますもんね」

「もう、エリー!そこは貴方の協力があってこそだけれど……!――でも、貴方は明るくて羨ましいわ」


 ここまで完璧で美しい、私のお嬢様が弱音なんてどうしたのかしら。


「どうされました? クラリス様が、望んでいるなら、私が全力を尽くしますよ?そんなに悲しい顔をしないでください」

「エリーゼ。アレクシス様の廃嫡が決まったとして……。私は誰に嫁ぐか考えるとね……」


 ――それは順当に、レオナルド殿下になるだろう。


「それが嫌なのですか?」

「いいえ、嬉しいわ。嬉しいと思ってしまう。きっと、この気持ちもアレクシス殿下にはお見通しだったのよね」

「まぁ、空気だけは読めますからね」


 クラリス様とレオナルド殿下が実は想い合っているなんて側近では知らない者はいない。お互いに身分と常識に縛られて、たまに顔を合わせるだけの仲だけれど。


「わかりました。レオ殿下とも、話し合ってきます。あの人もダメ王子です!――クラリス様は、公爵様の説得をお願いします。これから、やらかす馬鹿王子の話も公爵様にして大丈夫ですよ」

「エリーゼ……。私、きちんと、レオナルド殿下とお話してみるわ。大丈夫、お父様は私を国母にしたいだけだもの。――彼に、その覚悟があるのか聞いてみるわ」


 クラリス様の瞳は真っ直ぐ前を向いていて――。

 とても凛々しい。やはり、将来の王妃の貫禄がある。素敵なお嬢様。


「大丈夫です!これでも、二人の幼なじみなんで、最終的には弱みでも脅しでも、身を捨ててでも説得してみせます。――こんなにお嬢様に慕われているのに、逃げ出す馬鹿は懲らしめてあげますよ」


 そっとクラリス様の手を握った。お嬢様の手が私の手を握りかえしてくれる。お嬢様の美しい青色が私の姿を映している。

 

 そう。あの馬鹿達は、全部自分で背負おうとするから。

 私たちが助けてあげるのだ。


「ええ、私も貴女に。昔からの唯一の『王子様』をプレゼントする為に頑張るわ。そして、レオナルド殿下には――そろそろ『王族として』の自覚、というものを身に着つけていただかなければ……」


 抱き合って、私達は情けない彼らを出し抜くべく相談し合ったのだった。


 ◇◇◇


「お目通り出来て、光栄の極みでございます、陛下。そして王妃陛下。レオナルド殿下」


 私は早速、レオナルド殿下に連絡を入れて陛下と合う約束を取り付けた。

 レオナルド殿下も乳兄弟だ。有り難いことに、王族の方々は私に甘いのだ。


「こらこら、エリーゼ。親戚の子供みたいな間柄なんだから、公式の場以外は、以前の呼び方でいいぞ。ほら」


 ――さすがに不敬では?と思って辺りを見渡すが、誰もがそっと目を逸らす。


(うん。大丈夫らしいわ。ここは、甘えておねだりする方がいいかしら)


 しかし、王妃陛下もいる。

 あぁ、でも王妃様も母とは仲が良かったはずだけれど――。


「まぁ、エリーゼ!本当に、ミリアとそっくりね!そのピンクゴールドの髪なんて昔を思い出すわ!」

「王妃様……!ありがとうございます。母のことは、あまり記憶になくて。覚えていてくださるなんて嬉しいです……」


 ――よし、いける。私は確信した。


「あの、アレクシス殿下の事でご相談がありまして……。まずは、こちらをご覧ください」

 

 兄からもらった、アレクシス殿下が娼婦に依頼する手紙だ。

 直筆である。言い逃れ出来ない証拠から、両陛下は、それを読みながら震え出す。


「これは……確かに、アレクシスの筆跡だな……」


 それは怒りか悲しみか――。

 それでも、彼の苦悩を理解したのだろう。

 陛下の眉間には、皺が寄り、手紙を持つその手元も震えている。


「アレクシスが、そこまで追い詰められていたなんて……。我が子のように育てたつもりだったが」


 そう。陛下方に罪はない。これはただの認識の違いだ――。

 ただの家族ならば。でも、彼ら『王族』にはまた違った視点と責任が伴う。


「陛下、私から発言してもよろしいでしょうか」

「ああ、エリーゼ。ぜひ聞かせてくれ……」

「アレクシス様は、自分を客観視出来る方です。そして自分の政治的な立ち位置も理解しております。ある意味、アレクシス様は正しい行動を取ろうとしていると思います」


 ここまで言っていいのかわからない。昔からの馴染みとはいえ、ただの子爵令嬢だ。でも、それでもいい。アレク様の愛情を、陛下方を想う気持ちを伝えたかった。


「私は、陛下の治世の元、平和に暮らしております。そう思う者は多いと申し上げます。そして、アレクシス様もまた、自分がこの平穏を脅かすのを見過ごせないのです……」


 じっと、頭を下げて陛下の返事を待つ。

 そんなに横暴な方では無いと知っているが、やはり緊張してしまう。


「そう。そうだな。兄上との――先代の王との約束を優先するならば、アレクシスを、幸せにしなければ。あの子には、ここが窮屈だったんだろうな」

「――ええ。本当の家族になりきれなかった、私たちの責任だわ……」


 陛下と王妃様が少し俯き、その声が揺れる。

 彼らの嘆く声を聞き、これ以上は不敬では――なんて事は考えないことにした。

 きっとアレクシス様も誤解されたくないだろうから。


「両陛下。アレクシス様は、お二人の愛情を受けて育ったからこそ、自分で道を選ぶ意志を持てているのです。『自分は王には向かない』――それは彼の小さな我儘にすぎません」


 伝わっただろうか。伝わってくれただろうか。


「わかった。アレクシスの意志を尊重しよう。あの子の決断だ。それで、エリーゼ。それを踏まえて話があるから来たのだろう?」

 

 見透かされているが、それでいい。

 私の気持ちと覚悟が疑われなければいいのだ。


「はい、陛下。私は――。アレクシス様を、救い出す『王子様』になりたいのです」


 ◇◇◇


 謁見の間を出て、王宮の客間で待っていたクラリス様に報告をする。後ろから慌てて追いかけてくる気配がするけれど……それは後回しだ。


「クラリス様!陛下の説得に成功しましたーー!本当に緊張したんですから!やっぱり子供の頃とは違うんだものっ!」

 

 扉を開けると、すぐにクラリス様が抱きついてきて、歓迎された。私はこっそりと後ろの人物に目配せした。


 ――彼にはその意図が伝わったようで、私たちに声をかける事はしなかった。


「お疲れ様、エリーゼ。今度は私がレオナルド様を説得する番ね。二番手で甘んじて満足している彼に……」

「クラリス様?」

 

 すると、クラリス様は私に抱きついた。ふわりと、彼女の金髪からいい香りが漂う。


「彼を説教して焚き付けて、可愛げが無い女だと思われないかしら……。私の気持ちを疑われないかしら。ただの権力欲の強い女だと思われないかしら……!」

「あの、あの……。クラリス様、実は私の後ろにですね」

「私は、確かにそう育てられたけれど、人の心は別でしょう!?――諦めなくてはいけない気持ちを、ずっと抑えてきたのだもの、ここで失敗なんて……!」


 健気に弱音を吐いているクラリス様は可憐で愛らしい。


 しかしそのクラリス様の、死角、私の後ろにレオナルド殿下本人がいる。

 彼は口元を抑え、真っ赤な顔

で必死に立ち去れと合図を送ってくる。


(知ってるよ!お前が、ずっとクラリス様に恋心を抱いていたのはさ!)

 ――はいはい。王子様。ちゃんと私のお姫様をお任せしますよ。任せたよ、レオ殿下。


 本当に手の焼ける王子ばっかりだ。


 ◇◇◇


  そして、現在――。


「言質は取りましたよ!アレクシス殿下!」


 今まで隣で俺の演技に付き合ってくれた『恋人役』の女性が、バサッと茶髪のウィッグを投げた。

 

 俺の目の前でキラキラと光に反射して舞う、ピンクゴールドの髪。

 その、珍しくて、懐かしい髪を靡かせて、パーティー会場の壇上にいる国王へ高らかに宣言した。


「――陛下!今の誓いをお聞きでしたよね?この方は、神の名のもとに私、エリーゼ・ルーベンスに愛を誓いました!私も神の名にかけて、アレクシス・バートランド殿下を生涯愛する事を誓います!」

「リゼ!? は!? え、なんで!?」

 

 あまりにも驚いて、声が上擦る。

 周りの目を気にせずに、乳兄弟で幼なじみのエリーゼの顔を確かめる。ずっと隣にいた真っ赤なドレス。肌の露出が多く、派手な化粧で気づかなかったが、その顔はエリーゼのものだった。


「その場の流れに合わせろって、お兄様に伝言させましたけど? アレク様」

「エリーゼ!……っ」


 高いヒールで思い切り足を踏まれる。

 痛い!

 ――だが、隣にエリーゼが居るとは思わないじゃないか!

 普通に驚くに決まっている!


「二人の結婚を認めよう。以前から二人は愛し合っていた。それを認めなかったのは、私が狭量だったせいだ。すまなかった」


 陛下は一呼吸おいて、俺に命じた。


「アレクシス・バートランド。国王として命じる。継承権をレオナルドに譲り、そのままエリーゼ・ルーベンス子爵令嬢と添い遂げよ。よって、我が息子レオナルドに譲る予定だった公爵領をそなたに任せる」

「……はい。――王命、承りました」


「この場で決定した。王太子には、我が息子、レオナルドに任命する事をここに宣言する!」


 臣籍降下の命を受け、頭を下げる。

 周りの貴族も、その王命を聞き――ザッと速やかに並んで陛下に膝をつく。


『エリーゼ、こら、どうなってるんだ!?スムーズに上手くいきすぎじゃないか??』

『黙らっしゃい、馬鹿王子。貴方はエキストラ、脇役です。ここからが主役の登場なんですよ!』


 あまりにも事が上手く運びすぎて不安になった俺は、隣のリゼに小声で話しかけたが取り合ってもくれない。


『脇役の王子様。これからが、本物の王子様の見せ場なんです。もうあなたの役目は終わりました』

 意味ありげにウィンクして、俺を黙らせるエリーゼ。


 この後に、『本物の王子様』の見せ場?それは誰の話だ――?


「クラリス・ディライト公爵令嬢。先日、求婚状を送ったと思うが、ここで改めて返事を聞きたい。レオナルド・バートランドは貴方を妃に迎えたい」

「はい。お受けいたします。レオナルド殿下」


 俺達のすぐ横で繰り広げられる、従兄弟レオナルドと元婚約者のディライト公爵令嬢のプロポーズが成立した。


『いや、本当に。最初から?どこまで仕込んでいるのこれ??』

『あはは、素直なアレク様。私を出し抜けたことなんてありました?貴方には、私程度で丁度いいんです』


 その美しいピンクゴールドの髪に、萌木のような鮮やかな緑の瞳。昔からキラキラと眩しかった彼女のままだ。


「俺には勿体ないけどな……。『王子様』が憧れだったんじゃないのか?」

「ええ、昔から『私の王子様』は一人だけですよ。アレク様」


 会場中が祝福の拍手を送る最大のクライマックス。

 新たに任命された王太子と、公爵令嬢のプロポーズの場面で。


 もう見せ場のない俺達も、誓いあった。


「じゃあ、エリーゼ。俺も一つ教えておくよ。昔から頑張って『王子様』を演っていたのは、我儘な俺のたった一人の『お姫様』の為だったんだ」


 その俺の告白に少し目を瞬いて、ピンクの髪をかきあげながら胸を張る。迫力はあるが――その衣装では止めてほしい。


「今回は、私が救ってあげたんですよ?王子様」

「我が姫は、随分と勇敢で――本当に愛らしい……。けど、そのドレスは、今後絶対に許さないからな……!」


 俺は上着を脱いで、エリーゼの肩にかける。

 後は主役に任せて脇役は、影で愛しい人を口説くとしようか。それに、今回の彼女の活躍も聞かなくては。きっと兄のダレンも絡んでいるのだろう。


 ――十年分の想いを、星空の下で存分に。


「リゼ。二人きりになろうか」

「はい!私の『王子様』!」


 会場中の熱気が冷めやらない中、俺達はバルコニーに向かって歩き出した。


 ◇◇◇


「ほらほら、アレク様! 新聞社に手を回したの私なんですから!ちゃんと熱愛報道を見てくださいよーー!」

「嫌だーー! 完全に俺の公開プロポーズになっているじゃないか!」


 朝から、アレク様の絶叫が屋敷に響く。

 もう。夜は散々、俺様だったのに、この残念王子め!


「ほらアレク様、駄目です!ちゃんと見てください! 王都日報の朝刊に載ってますよ!」

「見たくない! なんで俺の“誓いの言葉”が全文掲載されてるんだ!!」


 翌日の新聞には、レオナルドの王太子就任と、もう一つ。


――『殿下、麗しの幼なじみの令嬢へ星空の誓い! “君を生涯守る”と跪いたらしい』

 “殿下はこの時、私の手をそっと握ってくださったのですわ。ええ、とても優しい表情で!”(証言者:エリーゼ・ルーベンス子爵令嬢)


 翌日、王都の社交界はこんな噂で持ちきりだった。


「なあエリーゼ。跪いてないよな?」

「はい、跪いていませんね!」

「じゃあなんで噂になってるんだ!?」

「“そのくらいしてほしかった”という私の希望を話しただけで……」

「希望を事実みたいに話すなーー!!」


 顔を真っ赤にして、震えているアレク様がかわいい。


「まぁでも、ロマンスは大事ですよ?」


 アレクシスは空を仰ぎ、私は誇らしげに微笑む。


「私の王子様。どこまでもついていきますからね!」




ここまで読んでくださってありがとうございます!


追記。コピペミスで文章が重複していたのを直しました。申し訳ありませんでした。


エリーゼが強すぎるのか、アレクシス殿下が弱すぎるのかはさておき……。


今回も「姫に全部持っていかれる王子様」構図が書けて満足しています。


レオナルドとクラリスの裏での頑張りも、エリーゼと兄のダレンの暗躍も、アレクシスは何一つ知りませんでした。

(王子様とはいったい……)


もし楽しんでいただけたら、

感想やブクマなどいただけると励みになります!

次回作もぜひよろしくお願いします!

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