6歌
小さな村の業
橘花『分かりました、ではまず玲央君が聞いたその親子についてのお話しをさせてもらいます』
橘花のばぁちゃんは、ゆっくり瞼を伏せ告げる。
橘花『昔この村には、ネズミや野犬などの害獣のせいで疫病や食物を食い荒らされるなどと言った多大な被害で苦しんでいました。そんな時に、村の外からその被害を解決出来ると申し出た若い夫婦、もとい、玲央君が聞いた親子の母親である『白菊麻弥』と言う女性がやって来ました。その女性は、不思議な歌声を持っていると言うらしく村での暮らしを許すことを報酬と約束をし、その摩訶不思議な歌声で村を苦しめていた害獣達を村にある湖に誘い込み溺死させました。最初の頃は、村の人々もその働きに感謝し約束の村での生活を許可しました。ですが、何せ彼女の容姿は絹の様に美しく綺麗な所作をしていたものですから例え既婚者と言えど村の男達は虜になってしまったのです。やはり、例え村の恩人だとしてもそれを良く思わない女性達も多く玲央君が聞いた村八分とは実際には村ではなく女性達からの嫉妬で行われたものです。そこからは、おおよそ幸江さんから聞いた話と大差ありませんので省かせてもらいますね』
(害獣達を歌声で誘い出す…?確かに、現実離れした様な話…)
それよりもこの、気持ち悪さはなんだ?
あまりにも淡々と話す橘花のばぁちゃんが気持ち悪くて仕方がない…
目を伏せ何を考えているのか分からない表情で抑揚のない声で作業の様に告げる橘花のばぁちゃんが、さっきまでの人と別人の様で、気味悪くて仕方がない…
隣に座る父は、拳を握りしめたまま顔を伏せ表情が見えない。
橘花『玲央君、大丈夫…?気分が悪くなったのなら少し休んでからにしようか』
本当に、この人は分からない…さっきまでただ淡々と、話をするだけの機械の様な女性が次の瞬間には本当に心配そうにこちらを見つめる優しい女性になる。
(やっぱり苦手だ…)
『いえ…大丈夫です、続けてください』
橘花『そう?分かったわ、次は村の子供達が消えてしまった話ね…子を失い精神を病んだ『白菊麻弥』は害獣達を溺死させた湖に自ら身を投げ命を断ちました。その日からなんですよ、何故か死んだはずの彼女の歌声が湖から聞こえる様になったのは…』
先程のように淡々とした言い方ではなく、悲しいような恐るような感情が入り混じった声で橘花のばぁちゃんは目を伏せ眉間に皺を寄せながら告げる。
橘花『最初の方はただのデマかせだと気にも止めていなかった人々も村中の子供達がいなくなった訳でそれはそれは、恐れたそうです『呪いだ』、『祟りだ』と口々に言い縋るように村の外の陰陽師と名乗る男性に助けを求めたそうです』
橘花『陰陽師は、村の人々を哀れに思い彼女の怒りを鎮めるためにその湖に1人で向かったそうです。夜明けに怪我一つ無く帰って来た陰陽師は村人に『彼女の怒りを鎮めるために彼女に歌を送ったこの歌は彼女の魂を鎮めるためのものであり決して忘れることも歌うこともしてはならない、これは業を犯したこの村への縛りだ』と告げたそうです』
言い終わると同時に今まで固く閉ざしていた瞼をあげ僕の目を見つめる。
(縛り…その縛りを破った渚は…)
『あっあの…じゃあそれが村の人達への縛りなら、破った人はいったい…』
不安に押しつぶされそうになる気持ちを抑えながら必死に言葉を紡ぐ。
橘花『これは…私の憶測でしかないのだけど、怒りを鎮めるための歌を歌ったものはその封じ込めていた彼女の怒りを一心に受ける事になると考えているわ……』
その言葉を聞いて頭が真っ白になった、ただの憶測であると言う言葉さえ頭から抜け落ちる程に僕の思考は渚の安否への不安で埋め尽くされてしまった。
(渚…渚…どうか…どうか無事でいて、置いていかないで…)




