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エピローグ:等身大の幸せ

破産が正式に認められてから、3ヶ月後。

俺は、再び会社の社宅に住んでいた。

狭く、古く、風呂と洗面所は一体型の3LDK。

でも――月2万円の家賃と、静かな夜風が、妙に心地よかった。



■ 家族との再会


妻は実家に身を寄せている状態が続いていた。


形式としては「別居」。でも、それは“距離を取った”というより、“心を休ませるための時間”だったのかもしれない。


久しぶりの再会は、公園だった。

子どもたちは少し大きくなっていて、長男はランドセルを背負っていた。

「パパ~」と駆け寄るその声に、俺は――言葉が出なかった。



■ 本当の“豊かさ”を知る


再び家族と暮らすことになった。タワーマンションに戻ることはなかったが、今の社宅で充分だった。

公園まで歩いて5分、近所のスーパーは品揃えが良く、

なにより、夕食を家族で囲めることが“特別”に感じられた。


子どもたちは、ゲームではなく折り紙をして遊んでいる。

妻は、節約レシピにハマっていた。

「これ、もやしだけど、麻婆豆腐みたいでしょ?」と笑う彼女に、

俺は「うん、美味いよ」と素直に言えた。


高層階の夜景も、オーダー家具も、もう要らなかった。

見栄を張らず、借金もせず、肩肘張らずに笑える今こそが、

俺にとっての“理想の暮らし”だったのだ。



■ 俺の仕事、俺の生き方


そんな幸せを取り戻して暫く、A、Bと飲みに行った。

最近はこの2人とは家族ぐるみの付き合いをさせて貰っている。


もうBの事も見下していない、むしろ尊敬する様になった。


「大事なのは、ローンが組めるかじゃない。その生活を、10年後も維持できるかだ」


Aの父から言われた言葉の受け売りだが、

自分が失敗したからこそ、言える言葉だった。



■ そして今日も――


今日も帰り道、商店街のスーパーで、子供達にお菓子を買い。

家に帰り、風呂上がりの子どもたちと一緒に食べる。


俺は靴を脱ぎながら、小さくつぶやく。


「……幸せって、こういうことだったんだな」



おわりに


かつて、年収1000万円を稼ぎ、夢のタワマンに住んだ男は――

自己破産し、すべてを失った。


だがそれは、本当に大切なものを“再び手に入れる”ための

小さな脱線だったのかもしれない。


見栄ではなく、身の丈。

所有ではなく、共有。

豪華さではなく、素朴さ。


「幸せ」は、きっと、そんなところにこそあるのだろう。

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