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第三章:「想定通り」のはずが、想定外だらけ

■ 妻の「想定外の育休」


妻は結婚後も働き続けていた。

当初の家計シミュレーションは“共働き前提”だった。


だが、第二子を妊娠。体調が不安定で、想定より早く育休入り。

育児休業給付金があるとはいえ、給与の満額ではない。

そして、その給付も1年を過ぎれば徐々に減っていく。


その頃、長男が保育園で熱を出せば、どちらかが会社を休む必要がある。

だいたい妻が対応することになったが、体調の悪い中での育児は想像以上の負担だった。


人の体は、常に一定ではいられない。

特に妊娠・出産という人生の大きな転機において、

「予定どおり働くこと」がいかに不確実であるかを思い知らされた。


最初は軽いめまいだった。

次に、朝起きられなくなった。

健診で「安静に」と言われたその瞬間、

収入と生活のバランスは崩れはじめていた。



◆働けなくなるリスクは、誰にでもある◆


これは特別な話ではない。

どんなに気を付けていても、事故、病気、親の介護、メンタル不調――

人生には、“働けなくなる”きっかけが、いつだって潜んでいる。


だが、住宅ローンは容赦なく毎月請求される。

しかも、家賃とは違って「引っ越して出直す」という選択肢が簡単にはない。




■ 教育資金という“長期戦”


「子どもには良い教育を」と思って始めた学資保険。

月2万円、10年で240万円を目安に積み立てていたが――

家計は火の車。ついに途中解約することに。


だが、途中解約は大幅な元本割れを伴った。

解約返戻金は、支払済額の約80%に満たなかった。



◆学資保険という名の“貯金”◆


「貯金代わりに」「子どものために」――

そんな言葉で勧められたのが、学資保険だった。


たしかに、仕組みはわかりやすい。

毎月一定額を保険会社に預け、満期時に“少しだけ上乗せ”されて戻ってくる。

途中で万が一があっても、保険として支給される。

満期まで払えば元本は保証。聞こえは悪くない。


だが、裏を返せばこれはただの“低利回りの運用商品”に過ぎない。


保険会社は、顧客から集めた資金をまとめて運用し、

差益の一部を「満期返戻金」という形で払い出しているだけ。

リターンは控えめで、途中解約時の元本割れはほぼ確実だ。



◆マネーリテラシーの“盲点”◆


いまでも日本では、家計を「妻が管理する」家庭が多い。

子どもを育てる、守るという視点での選択肢として、

学資保険は「安心」という名のもと、広く受け入れられてきた。


そこに巧みに入り込むのが――セールスレディである。


「ランチ会」「無料マネーセミナー」「ママ友の輪」

気軽な誘い文句の裏で、彼女たちは確かなノルマと戦っている。

保険という“正義”の衣をまといながら、

家庭の不安に寄り添い、心をつかみ、契約書へと誘導する。


これは、彼女たちが悪いのではない。

そうしたセールスの手法を教育してきた“保険業界の構造”がそうさせているのだ。



◆投資アレルギーの国◆


「投資=怖い」「元本保証でないと不安」

そんな声がまだまだ根強いこの国では、

保険というラベルを貼ることで、金融商品への抵抗を和らげるテクニックが多用される。


だが、“安全そうに見える選択”ほど、実は最も柔軟性が低く、緊急時に脆い。


そして今――

彼らが積み立ててきた学資保険は、生活資金を補うために“途中解約”され、

元本割れという現実を突きつけてきた。



「貯めていたお金を減らして取り戻す」――

それは、努力の否定であり、未来への敗北感でもあった。

「子どもの未来のために」と始めたその積立が、

気付けば、“今日を生きるための切り札”になっていた――。



■ 保育園の現実


さらに、育休明けを見越して保育園探しを始めたが、

都心の人気エリアは“待機児童天国”だった。

希望する保育園には入れず、遠方の認可外保育園しか空きがなかった。


当然、月額保育料は5万円を超える。

預けることで時間は得られても、得るはずだった収入の大半が吹き飛ぶ皮肉な構図がそこにあった。



◆想定外こそが現実◆


家を買うとき、多くの人は“今の自分”だけを見てローンを組む。

でも実際に襲ってくるのは、“未来の自分”にとっての想定外だ。


・子どもの病気

・自身や配偶者の体調不良

・会社の業績悪化や配置転換

・家族の介護、突然の出費


「こんなはずじゃなかった」の積み重ねが、

主人公達の生活の“余白”を少しずつ奪っていく。


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