別れ再び
雛子(瀬那)·····現世ではSaas系上場企業のトップセールスマンだった。誰かの声に導かれて雛子として大正末期の1920年に生まれ変わり、日本軍のとある部隊の隊長の娘としていきている。
吉田幹夫·····輪廻転生した主人公、雛子の父。帝国軍のある部隊の隊長を務めており、部下からも慕われている。
吉田幸·····輪廻転生した主人公、雛子の母。専業主婦で大きい屋敷を取り仕切っている。
満田要·····雛子の1歳下の男の子。
隣町に住んでいて道場の先生の近所に住んでいる
お父様が帰ってきてからはや5ヶ月、私たち家族はお母様の身体を案じながら平和に暮らしていた。
わたしは学校が終わると変わらず図書館か稽古に行っていたが、図書館にいる時間を短くして家の手伝いをしていた。
「お母様、今日の夕飯はなんです??」
「そうねぇ、今日はすいとんにしましょうか」
「じゃあわたしがすいとんは準備します!」
「ありがとう^^なら私は美味しいスープを作らなきゃね」
「そしたらものすごく美味しくてお父様のほっぺたが落ちちゃいますね^^」
「そうね、喜んでもらうために美味しく作りましょ」
「弟にも喜んでもらいたいですしね!」
お母様は大分お腹も大きくなり、8ヶ月になっていた。
性別も判明し、弟とのこと。
跡継ぎができると分かったときはそれは喜んだ。
これで自分は何かチャレンジしても自分だけのリスクで済む。
お母様と話をしながら夕飯のすいとんを準備しているとお父様が帰宅した。
「戻ったぞ~」
「お父様おかえりなさい!」
「おぉ、なんでそんなほっぺまで真っ白なんだ?笑」
「あ!こ、これは夕飯を作るのを手伝ってて、、」
「あら、あなたおかえりなさい。雛子、これで顔拭きなさい^^」
「ありがとうございます、、」
わたしは恥ずかしくてお母様の後ろに隠れて顔を拭いた。
「そのまま子供でいてくれよ、しばらくは大人にならないでくれ笑」
私の頭に手をのせながら言った、そんなお父様の言葉になぜか少し引っ掛かった。
「お父様、、?」
「2人とも、夕飯を食べたら話がある」
「わかりました、夕飯の準備しますね。雛子、運ぶの手伝ってくれる?」
「......はい、お母様」
またどこか行くのだろうか。
確か歴史上では満州事変は約2年ほど続いてた。
でも一度帰ってきてまた行くことはあり得るのか。
それとも別の戦争が起きるのだろうか。
あんなに頑張って、お母様とつくったすいとんも味がせず、ただ胃に流し込んでいた。
「このすいとんは雛子が作ったのか?」
「、、はい」
「うまいなぁ、なぁ母さん」
「雛子ががんばって捏ねましたもんね」
「、、はい」
わたしは全然話が入ってこず、お父様とお母様が困った顔をしていた。
気がつくと食事が終わり、わたしが箸を置いたタイミングでお父様が口をひらいた。
「来月から、笠間の筑波海軍航空隊司令塔に配属になった」
「笠間、、ですか?」
お母様が尋ねた。
「あぁ。ただお前も身重だし雛子もいる。だから俺だけ行こうと思う。軍が運営してる住まいがあるらしいから俺はそこに入ることになるだろう」
笠間って茨城県の?
筑波っていってるからそうだよね、、?
現代ではそんなに遠くなかった。
でもいまは、、、
「幸、出産を見れなくてごめんな」
「いえ、とんでもありません。お国の為ですから、、」
そんなこと言ってるお母様も若干戸惑ってる。
それもそうか。
出産をするときにそばにいないなんて不安でしかないだろう。
「雛子」
「、、、いつ戻ってくるんですか」
「、、わからん。遠征とか補填ではなく正式な異動だからな。昇進だから給金も上がるし、休暇が取れたら戻ってくるから安心しなさい」
わたしは戻ってこないときいた瞬間、ぶわっとなにかが押し寄せた。
そして我慢ができなかった。
「雛子!」
わたしは思わず外に走り出した。
「雛子!待ちなさい!」
そんなお父様の声も聞かず、しばらく泣きながら走り続けた。
せっかく平和に暮らしていたのに、お父様がいわゆる単身赴任とは。
恐らく、現実だったら耐えられただろう。
交通手段があるから自分でも会いに行ける。
でもいまは?常磐道もない、特急もない、そんな中どうやって会いに行けるだろうか。
きっとしばらく会えない。そして司令塔ということは攻めることはあまりないだろうがこれから起こる太平洋戦争では先陣をきるだろう。
そんな中生きていられるとも思えない。
どうやってお母様を守る?どうやって弟を守る?
お父様は給与もあがるとは言っていたがそんなことはどうでもいい。
お父様がいて、お母様がいて、わたしがいて、将来的には弟がいて。
そんな平和が続くと思っていた。
気が付くとわたしは少し前にお母様と来た桜の木が広がる広場にいた。
、、、今度お父様もつれてこようって言ってたのに。
わたしはしゃがみこんで気が付けば号泣していた。
「雛子ちゃん?」
突然後ろから誰かが声をかけてきた。
振り替えるとそこには満田要がいた。
「目真っ赤だよ?どうしたの?何かあった?」
「、、、なんでもない」
わたしは涙を袖でぬぐいながら答えた。
「、、、そっか。じゃあ僕もここにいていい?」
「、、、嫌。帰ってよ」
「んー、、、」
「なにしてんのよ」
帰れといったにも関わらず満田要は座り込んでるわたしの背中に背中を合わせて座ってきた。
「ひとりじゃ寂しいかなって」
「、、、、、」
「僕はいないと思っていいから」
それからどれだけ時間がたったかわからないが、満田要はずっとそばにいた。
「そろそろ話せそう?」
「、、、お父様が遠くに行っちゃうんだって」
「雛子ちゃんのお父様って軍隊長だったよね?遠征?」
「遠征じゃない。異動だって」
「え、じゃあ雛子ちゃんもそっちに行っちゃうの?」
「わたしは行けないわよ。お母様のお腹に赤ちゃんいるし」
「そっか!雛子ちゃんお姉ちゃんになるんだね!いいなぁ生まれてくる弟くん」
「なんで?」
「だって、雛子ちゃんみたいな勉強できて剣道強くて頼もしいお姉ちゃんがいるんでしょ?僕は一人っ子だから羨ましいよ」
「、、、そうなのかな」
「きっとそうだよ!もしお父様がいなくても、休暇とかあれば帰ってくるんでしょ?」
「そう言ってた」
「だったらそれまでに沢山勉強して、帰ったときにいっぱい話せることを貯金しておくって考えはどうかな?」
「会話の貯金、、?」
「そう!こんなことあったとか、弟くんがこれできるようになったとか、お話しの貯金をしておくの。そしたら会うのが楽しみになって寂しいだけじゃなくなるでしょ?」
「、、そうね」
「でも寂しい時は寂しいと思うから、そんなときはキヨちゃんとかと会えばいいし、それに、、、」
「、、なによ」
「ここに来てくれればぼ、ぼ、僕もいるよ!この広場の目の前なんだ、僕の家!」
きっと勇気を出して言ってくれたんだろう。
「あ、そういえば!僕が5年生になったら剣道やっていいってお父さんからお許しもらったんだ!」
「あんた何歳なの?」
「ぼく?10歳!」
「じゃあわたしのほうが1歳上なのね」
「あと2ヶ月で学年あがるでしょ?そしたら稽古のときも会えるね!」
すごくキラキラした顔をしていた。
「稽古始まったら僕にも剣道教えてくれる?」
「いいけど、わたしが教えると厳しいよ?口調きついし」
「大丈夫!強くなる為に頑張るから!」
「、、なんで剣道やろうと思ったの?」
「それは雛子ちゃんの剣道を見たからだよ!他の人とは違う、静かだけど一瞬の好きも逃さないあの剣道!」
すごくまっすぐな目をしていた。
自分の剣道をそんな言ってくれる人今までいなかった。
「、、、ありがと」
「僕もいつか雛子ちゃんみたいな剣道できるかな!」
「あんたには無理よ、何年もやらないと動きを我慢することなんてできないんだから」
わたしは笑いながらそう言った。
「へへっやっと笑った^^」
満田要はそういいながら顔を覗き込んできた。
「悲しいときも寂しいときも、これからは僕とキヨちゃんで話し聞くしそばにいるから!」
「うん、ありがとう」
「...こ、ひなこ!」
満田要としばらく話しているとお父様が息切れをしながら近寄ってきた。
「雛子!ここにいたのか!よかった、、!」
「お父様、、、」
「君は、、?」
「こんばんは、満田要といいます」
「もしかしておじさんは軍人か?」
「あ、はい!そうです!叔父から吉田隊長のお話しは伺ってます!」
「そうだったか、きみが満田の甥っ子だったか。雛子とは知り合いか?」
「以前道場を見学に行ってから何度か、、、」
「そうだったのか」
「、、あの!雛子ちゃんから話を聞きました。お体気を付けてお戻りください」
「あいつが甥っ子自慢するだけあるな。しっかりした子だ。わたしがそばにいれない間、雛子のこと頼んだぞ」
「はい!」
お父様と満田要が会話してる間、わたしは泣き顔を見られたくなくてうつむいていた。
するとお父様がしゃがみこんでわたしの顔を覗き込んでこう言った。
「雛子、わたしは死にに行くわけでもないし、大きな戦争が国内でない限り3ヶ月に1回、1週間の休暇が貰える。だから少しだけ我慢してくれないか。お母様と弟をお願いできるのはお前だけだ」
わたしは静かに頷いた。
「雛子のことは満田の甥っ子にお願いできたしな!これで俺も安心して向こうに行ける」
わたしはまた涙が出てきてお父様を見上げた。
「満田くん、君はもう遅いから帰りなさい、雛子のこと見ててくれてありがとね」
「とんでもないです。では失礼します」
満田要はお辞儀をして家があるであろう方向に歩いていった。
ホントに10歳か?現代の10歳は失礼しますとか言えるんだろうか、、、
「満田くんいいこだね。じゃあ雛子、ゆっくり散歩しながら帰ろうか」
「はい、お父様」
わたしはお父様と手を繋いでゆっくり家に向かった。
「雛子、おぶってやろう。走ってきたから疲れただろう」
「いえ、大丈夫です」
「そんなこと言うな、久々におぶらせてくれ、ほら」
そう言うとお父様はしゃがみこんだ。
わたしは静かにお父様の背中に乗った。
「雛子も大きくなったなぁ、もうすぐ6年生か」
「そうですね」
「きっと生まれてくる弟もすぐ大きくなるだろう。お父様がいない時にどんなことがあったのか、日記にして俺が帰ったら見せてくれるか?俺も日記を書いて帰る度に雛子にだけ見せることにするよ」
「交換日記ですか?」
「そうだ。その日どんなことがあったか、どんなことを思ったのか書いてくれ。俺はそれを見るために3ヶ月頑張るから」
「わかりました。毎日欠かさず書きます」
「ごめんな雛子。わかってくれてありがとう」
わたしはお父様の背中をぎゅっとつかみ、それから家に着くまでは無言でお父様の背中に乗っていた。
「あなた!雛子!よかった、、、」
家に着くと目を赤くしたお母様が出迎えてくれた。
「雛子はやっぱり母さんの言う通り、あの広場にいたよ。さすが母さんだな」
「そんなとこまで、、、」
「雛子は足が早いなぁ」
「あなたに似たんですね^^」
「雛子、母さんに言うことは?」
「、、心配かけてごめんなさい」
「いいのよ、無事帰ってきてくれたから。お父様が向こうに行く前に3人でまたあの広場でピクニックしましょうね」
お母様、約束覚えててくれたんだ。
わたしは涙目になりながら頷いた。
「今日は久々に3人で寝ましょうか」
「お、いいな」
「あ、、わたしは自分の部屋で、、、」
「そんなこと言うな、弟ができたら独り占めできないから今のうちだぞ??」
「そうよ、寝る準備して寝室へおいで雛子」
「、、わかりました」
わたしは着替えて枕を持ち、お父様とお母様の寝室へ向かった。
「雛子きたか、ほら、こっちこい」
「久しぶりですね、3人で寝るのは」
「そうだな、これからたまに3人で寝よう」
「そうですね」
2人の間に横になっているわたしは恥ずかしくて布団に潜っていたが、お父様もお母様も布団の上からわたしのことを抱き締めてくれてわたしはそのまま眠りについた。
この物語は一部歴史の実話を含むフィクションです。
歴史上の出来事以外の登場人物や場所は一切関係はございません。