蒲生氏郷に転生した。
どうやら俺は、戦乱の世に転生したらしい。
「名前は鶴千代。竹千代なら家康だけど、鶴千代は誰だ?」
聞いたことがない名前に一瞬首を捻ったが、家名を知れば瞬時に自分が何者か理解した。
「貴様が蒲生の息子か。戦に負け、城を堕とされ、あげくに人質として差し出された気持ちはどうだ?」
両手を後ろで縛り付けられ、言われるがままに辿り着いた部屋には凄まじい覇気を放つ男がいた。蒲生、その名前には聞き覚えがある。
蒲生氏郷。あの"織田信長"に従っていた武将の一人で、彼が信長に従うことになった戦が"観音寺城の戦い"だ。
信長が天下統一を目指して行われた"最初の戦"であり、この戦の後の時代を安土桃山時代と呼ぶことから、"戦国時代最後の戦い"とも言われている。
「随分と冷静なのだな。......我と初めて顔を突き合わせる時、誰しもその目に恐怖を浮かべる」
そして今俺の目の前にいる男こそが、織田信長。俺の憧れの偉人だ。
うっひょー!! 本物だー!!
「......面白いな。貴様の目からは恐怖を一切感じないどころか、愉悦さえ感じられる」
信長は筋肉質な手で俺の顎を掴み、漆黒の目で覗き込んでくる。
「蒲生の息子よ、名は何と言う?」
お、推しに名前を聞かれた......!!
「つ、鶴千代でございます!!」
「鶴千代、貴様はいい目をしておる。気に入った」
氏郷は戦の後、信長の人質になった。
「貴様の妻として我が娘をくれてやる」
しかし、何故か信長に気に入られた氏郷は婿養子として信長に寵愛を受けることになる。
「......俺、戦なんてできないんだけど大丈夫かな」
信長の下で一ヶ月ほど平穏に過ごしていた矢先、ふと不安になった。信長の婿養子となったという事は遅かれ早かれ戦に出る時が来るのではないか、と。
毎日木刀を振ったりはしているものの、所詮子供のお遊び程度だ。まずい、これでは信長に見限られるのも時間の問題だ。
「よし、修行をしよう」
修行といえば、やはり寺だ。岐阜にある瑞龍寺にお世話になることになった。
剣の稽古だけのつもりだったのだが、まあ寺なので仏教とかも叩き込まれた。仏教は別に好きでも嫌いでもなかったのに、たった数日でキリスト教に寝返りたくなりそうだ。
なんやかんやで一年ほど修行した。そして、成人になった。
成人とは言っても、あくまでこの時代での話なので俺はまだ十四歳だ。あと、成人ということで名前も変わった。
「......やっぱ氏郷だったか」
予想が当たっていて良かった。
今さら別人でしたと言われても困る。
「蒲生氏郷。貴様にも次の戦に出陣してもらう」
信長様から直々に初陣の命が出た。
覚悟はしていたことだ、腹を括れ。
「はっ!! 謹んでお受けいたします」
「この戦が終われば、正式に貴様の婚姻の儀を行う。その覚悟もしておけ」
「......え?」
この戦が終われば俺、結婚するんだ。そんな王道な死亡フラグ立てます?
だがまあ、死亡フラグくらいへし折らなければ戦乱の世は生きられまい。