7. たまにイイ話をブッ込むのは仕様です
株式売却はまだ半ばであるが剣蔵のその他の資産も普通の常識的な金持ちくらいはあった。
夏期の模擬試験で危なげなく志望校にA判定をもらった娘のラムと今のところ遺産整理手続き以外にやることのない母の寧々の
ニュー鬼ヶ崎ファミリーはセレブ生活というかぶっちゃけ暇だった。
「ママ、ジム通おうよ」
「なに急に?スポーツ苦手だったよね?
お付き合いでやってたゴルフも好きじゃないって言ってたでしょ」
「剣蔵の時はホントに鈍臭かったからね。
でも今ならいけそうな気がするんだ。たぶん身体能力はそれなりに高いはず」
「そうか女の子にしては高身長だもんね。
プロポーションが外人さんのスーパーモデル並みだからワークアウトも日常ですが何か?って感じか」
「それよ、体形維持!この奇跡の身体を持つ者としては義務だと思うの」
「迷いのない瞳でまあ。
言ってる内容は間違ってないと思えるんだけど素直に頷けないこの感じがクセになってきたよ。
ジムでやるのは筋トレだけ?
ママは筋肉を育てる趣味は楽しめそうにないんだけど」
「スイミングとかヨガとか定番もいいけど私はスカッシュをやってみたいかな」
「あの壁打ちテニスみたいなやつ?なんでそれ?」
「セレブがやるイメージだからだよ。
ママはエマニュエル夫人っていう昭和のフランス映画観たことないかな。
一応は芸術作品的な扱いだけど18禁だからないか。
その映画でセレブの奥様同士がスカッシュやっててさ。
そのあと組んず解れつしてたんだけど」
「組んず解れつはノーサンキューです。ラムちゃんはセレブっぽいスポーツがやりたいと。
いいよ。やってみよう」
※※※※※
「ママ、ギター買って」
「いいけど急にどうしたの?」
「学生時代にバンドやってたの思い出した」
「へー、初耳。じゃあギター弾けるんだ」
「たぶんね。高校でもバンド出来たらいいな。
あ、ついでにマンションに防音室作ってね」
「ついでの方が重いじゃない。いいわよ。
で、どんなのやってたの?」
「洋楽のロックだよ」
「洋楽のロックってイメージがないなあ。
オアシスとかレッチリとか?」
「んー、それってママにはちょっと昔で私にはかなり新しいやつだよね。
ラムになってから聴いたけど割と好き。
でも私がバンドやってた頃は影も形もなかったやつだよ。
その頃、弾いたのはディープ・パープルとかレッド・ツェッペリンとかクイーンとかかな」
「あ!クイーンは知ってるよ!映画で観たことある。
へー、ああいうのか。いいじゃん。
なんか剣蔵が亡くなってからの方が身近に感じる。
ラムちゃんは私の娘で、娘がお父さんに詳しくて色々教えてくれる今の感じが好きかも」
「私は戸籍上はママの養女だけど血は繋がってるからね。
ママからは生まれてないけど血の繋がった娘なんだよ。
私にとってもママは私を産んだのではないけど血の繋がった母親だからね」
「すごいことに気づいちゃったね。本当だ、血が繋がってるんだね。
ラムちゃんはママの実の娘だったんだ」