68. 母(娘)の結婚式
寧々と結婚式の話をしてから2週間もしないうちにその日を迎えていた。
結構ギリギリだったようだ。
本人もボケボケだったからラムのせいではない。はず、たぶん。
ラムになってから初めてフォーマルな装いをしたことになる。
ドレスは薄い紫色のマーメイドタイプなのだが裾がそこまで長くないので
身体に沿うようなラインだけでかなりおとなしめである。
同色の透け感のあるレースのボレロを羽織り、大粒の真珠のネックレスを付ける。
靴はグレーのハイヒールで同色のブランドもののクラッチバッグを持つ。
髪はルーズに緩く編み上げたポニテである。
少女がちょっと背伸びした感があって逆に年相応に見えるから不思議だ。
普段のエロい系美少女が相殺されて両親の結婚式に相応しいもうすぐ16歳の少女に仕上がっている。
「ママ、おめでとう。
直樹さんはもうパパだけど今日はママの新郎の直樹さんです。
二人ともいつも私を気遣ってくれてありがとうございます。
私は毎日とても幸せです。
直樹さんはもうママとラブラブだけど改めて今日という佳き日に愛を誓ってくれて嬉しいです。
これから先も永遠にママを幸せにしてね。
ご結婚、おめでとうございます」
スピーチを当日になって急に振らないでほしかった。
鋼メンタルとイミフなカリスマがなければ流石に難しかった。
出席者は全員ボロ泣きだ。
紀香さんなんかは声をあげて号泣している。良い人だ。なんかゴメン。
身内ばかりで全員がラムの出自を知っているのだから、
無邪気に養母の結婚を祝う、記憶喪失のまま拾われた養女という涙を誘うシチュしか思いつけなかった。
ウッカリ、ブライダルの人からの指令を当日まで伝え忘れたママも泣いてんじゃないよ。
こっちまで泣けてきてもうカオス。まあなんだ娘なのか父なのか混乱しただけだよ。たぶん
結婚式は挙げたが新居は来年の夏に完成予定なのであいも変わらずいつものマンション住まいである。
もっと広いところにでも一時的に移ればいいと思うが、愛着があるから新居に移るまではこのままでいいらしい。
そういえばあのまま別荘に住んでいてもよかったはずだった。
新婚旅行は年が明けてから行くことになっている。
やはりヨーロッパを回るらしい。
ラムもどうかと言われたがさすがに新婚旅行についていくのは野暮というものだろう。
結婚式で撮ってもらっていたスピーチの動画をなんとなくS5のグループライムに送ったら、
全員から長文の感想文が送りつけられた。
そういえばS5にも出自の話をしていたのだったと思い出しちょっと悪いことしたなと思うラムだった。




