6. やっぱり強くてニューゲームだよね
鬼ヶ崎剣蔵が亡くなって半年、相続税の納付期限も近いため鬼ヶ崎寧々は
弁護士の背橋に株式会社オニヤンマの取引き銀行の担当者を紹介してもらい株式の売却を相談した。
株式市場にそのまま流したら日本経済が大混乱に陥るのは確実だし
山内が謀ったように海外投資ファンドに売っ払うのは直接雇用だけで数万人の従業員とその家族の生活及び
傘下の信販・ネット銀行等の金融系、情報システム・クラウド等の情報サービス系企業の行方まで含めたら
日本の社会に多大な影響が出ることは避けられないので拙速な現金化は当の相続税を納めるべき行政からも止められている。
株式売却の見積もり額は剣蔵の目算に近い値になったので納付方法も含めて
全体スケジュールを弁護士、銀行、税務署の三者で相談しながら作業を進めてもらっている。
さすがに数千億円を一括現金でとはいかないものだ。
鬼ヶ崎寧々自身は中心にいるもののズブの素人なので全てプロフェッショナル達にお任せであるが、
手続きには全て絡むため関係者からの訪問が絶えない。
こうなっては今まで通りに普通のOLなどやっている暇はないので相続を機に退職済みであった。
そんな中でも頻繁に訪れる銀行の担当課長である丹沢(35歳バツイチ独身)とはウマが合うようだった。
養女のラムには遠目で見かける程度の存在であるが寧々から聞かされる彼の話は、
これでなんで付き合ってないのか不思議なほどである。
「ママ、高校受かったら私にマンション買ってね」
「なんでよ。都内ならココからでも十分通えるでしょ?」
「いや、ママが丹沢さんとお付き合いするようになった時のためだよ」
「お、お付き合いなんてそんな…ま、まだそんな関係じゃないのよ」
「焦りすぎ。
デートの後、送ってもらってイイ感じになったのに娘がいるからゴメンネはダメでしょ。
いいじゃない。どうせ使いきれないくらいのお金が入るんだし」
「それもそうか。いや、丹沢さんが理由じゃなくね。
ラムちゃんが満員電車に乗るとか考えたら不安しかないものね。
いいわ、行く学校が決まったら近くに買いましょう。
それで受験勉強は進んでる?」
「うん。色々思い出してきた。
元々理系だったし学生時代苦手だった英語は仕事で鍛えたから大丈夫。
国語はたぶんものすごい量のドキュメントを読んできた経験があるんで自信ある。
契約関係は少しでも解釈間違うと利益飛ぶんでヒリヒリだったよ。
歴史や地理の社会には濃淡があるかな。
国内外にたくさん出張したし大河ドラマ観たり時代小説読んだりしたんで
行ったことあるところや武将関係なら間違わないけどそれ以外は勉強し直してる。
あと古文漢文くらいかな。意外に面白いもんだけど高校入試ではオマケ程度みたいだね。
勉強自体が楽しいから進むというよりももう周回してる感じだよ。
あとは学校決めて模試を受けるくらいかな」
「うわー、なにその強くてニューゲーム。学校はどういうポイントで決めるの?」
「やっぱり大富豪鬼ヶ崎家の娘としてはそれなりの格のところじゃないとマズいよね。
治安的な問題は最優先なんで歴史のある私学一択ですね。
そこで女子校か共学かっていうところと偏差値、校風が考慮すべきポイント。
ママは女子校ってどう思う?」
「女子校はないわー
女は集団になると上下関係を作りたがるものよ。
全員がそうではないけど確実にそういう奴がいてそれに巻き込まれる感じになっちゃう。
ラムちゃんは黙ってても上に置かれそうだけどその分利用もされるでしょう。
女でいた経験がまだ浅いから難しいと思うのよね」
「じゃあ共学ね。
次に偏差値だけどこれは高めでも進学に全振りしてるようなところはパスって感じで
基本、頭の良い子が集まってるところがいい。
それから校風、自由なところ?生徒の自主性を重んじますみたいな。
ぶっちゃけ楽しく勉強出来てJKの青春を満喫したいわけよ。
ということで…
ジャーン!ハーイ、決定しましたー!私が入るのはー鵬皇学園高等部でーす!」
「おー、結構な名門だねー、なるほどイメージ湧くわあ。
でも全然悩むところなかったよね。2周目だとこうもハッキリしちゃうもんなんだ。
あれ?なんかちょっと羨ましいぞ?」
「じゃあ、ママももう一回私の娘やりなよ」
「誰かママにも毒入り葉巻を送ってくれー」