55. 学園祭でバンドするってよ
マネさん、こと月夜野静香は推しのハレの舞台であるキャンファの学園祭ライブについて
今回は敢えて直接観ないという高等テクニックをラム様上級者として用いて楽しむ選択をした。
自らは全思想を持ってプロデュースしたクラスのメイド喫茶の差配を全身全霊を持って全うする所存である。
その代わり、多くの目を使って全方向から推しの勇姿を捉える策を三日三晩の長考から思い至ることが出来た。
それは来場者及び関係者に向けた
「皆んなキャンファをスマホで自由に撮影していいよ。
動画のコピーを公式へ提供してくれたら運がよければ公式のライブ動画に部分的に使われるかもね」
というメッセージと送付先を未発表の映像やオフショットを編集して作った告知動画に盛り込んで
数日前にアワチューブのチャンネルにアップしたのだ。
実際にアワチューブに上げるライブ動画はそれらを編集して作成する計画である。
ラム様上級者として素材を総取りして楽しめるのはこの世で自分唯ひとりだけというのが最高だ。天才か
衆生は編集後の上っ面だけで有り難がっていればよいことである。
分相応という言葉があるだろう。
ライブ独特の一体感は捨てがたかったがべつにラム様を他人と共有したいなんてこれっぽっちも思ってないので
それは重要度として高くはない。
好きなモノは遠くから見て愛でるのが昔からのシズカスタイル。
愛の奴隷は推しの視界に入るのも畏れ多い。つくづく厄介なやつ
ということで、キャンファがステージに立った時にそこら中からのスマホの光に囲まれていてラムは非常に驚かされた。
「皆んな久しぶり。キャント・ファインド・マイ・ウェイ・ホームの鬼さんです。
うわー、凄い光景だねー、皆んなから沢山の輝きを貰えて私は幸せだよ!
さあ?『始めるよー!!!』」
♪♪♪♪♪
「「さあ始めるよ!」でした。ふう、よく訓練されたオーディエンスだね!
レスポンスが返らなかったら恥ずか死ぬところだった。
ありがとう、後で金さんと銀さんに笑われなくて済むよ。
さて、今日はキャンファを結成した時の目標だった学園祭だ。
このように私たちは夢を叶えさせてもらった。
皆んなのおかげだよ。これは本当の話だ。
このステージに立つことが出来たのは皆んなが私たちの音楽を聴いてくれたお陰。
だから最高のオモテナシをするよ。今日はほら、メイドだからね!
では次の曲、「囚われ」」
♪♪♪♪♪
「自分が動いたら知らないところで誰かが幸せになるかもね。
そう、だから皆んな「駆け抜けろ」!」
♪♪♪♪♪
「さて、温まってきたところ悪いけど私たちも結成してまだ3カ月くらいで
レパートリーが全然足りないのが悔しいところだ。
夏休みにメンバー全員で作ったこの新曲を今日聴いてくれた皆んなに捧げるよ。
「狼男と羊の皮を被った女」」
♪♪♪♪♪
その後、予定調和的にアンコールのカバー2曲までやってライブを終えた。
カバー曲は練習でやったものをそのまま動画で公開しただけだったが予想外に評判が高かったものだ。
ライブでやるのはお初である。
セクシーな囁き声と華麗なギターテクで非常に盛り上がったまま念願の学園祭ライブは終わった。
「誰か脚本家付いてんじゃないんすか?」
「オカシイオカシイ、高校生のMCじゃないよー」
「えー、ダメなの?テキトーに喋っちゃうからよく分かんないんだよね」
「ダメじゃないっす。逆っす。カリスマ?そんな感じっす」
「なんかまた動画見て落ち込みそう」
「にしても、今日のアタシらの音、良かったすねー」
「うんうん、やっぱ百パー自分の機材って違うねー」
「そうなんだよねー
弘法筆を選ばずってゆって、上手い人は道具に関係ないみたいなこと言う人いるけど
機材込みで自分の音って作ってるわけでさ、
やっぱ知り尽くした自分の機材を使った時の結果が違うのは当たり前なんだよねー」
「それっす。で、その上で感じるのは自分まだまだなんだなと。
コイツをちゃんと使いこなしてんのかなって思ったっす」
「そうそう、好きにやらせてもらっちゃうと言い訳出来ない限界がさー」
「そういうとこ面白いよね。ほんとバンドって面白い」
「でもなんか大きく前進出来た感あるっすね!」
「そーだよそーだよー、ウチら戻り方が分からなくなるくらい突き進むんだからさー」




