53. 学園祭1日目
ラムとしては学園祭の1日目をクラスのメイド喫茶を頑張って2日目をバンドに全振りさせてもらうということで了解を得ている。
学校生活をエンジョイするためには我を通すだけでは立ち行かない。
興味がないことでもやるとなれば全力で取り組むのが人気者の秘訣である。
人気を積極的に求めはしなくても嫌われたいわけではないから目立つ存在というのは結局のところ二択しかないのだ。
ラムとしてはやってみて楽しければいいやってくらいなんだけどね。
腰が絞られたミニスカ丈の裾のフワッと広がった黒地のワンピースに白いヒラヒラしたエプロンが縫い付けてある。
エプロンのくせに胸の下あたりで途切れていて幅広の肩掛けの白で切り取られた四角いデコルテ部分の黒い布も
半分程しかなく襟ぐりが空いていてラムが着ると谷間がしっかり出てしまう。
更に黒いチョーカーで上も仕切られて、そこに視線を集めるための工夫が涙ぐましいほどである。
ラムはショートパンツで脚を晒すことに抵抗はないのだが
ミニスカの心許なさに慣れる気がしないので用意されたニーソを全力で拒絶して白いタイツを履いた。
しかし、その仕上がりには大差なかったようだ。
黒エナメルのロリータパンプスに白いヘッドドレスでメイドコスの完成である。
「これって」
「ノーパン違うから」
「ほんとにこれ、皆んなと同じ衣装なの?」
「それ言っちゃダメなやつだから。
ラムちゃんが嫌なのは分かるけど、皆んな分かってるけど、それでもダメだからね」
「うん」
「素直かよ!可愛いんだよ!その姿でそれは反則なんだよ!」
どうやっても犯罪臭しかしないメイドコスのラムが看板を肩に担いで遊撃部隊員をひとり連れて
悄然と出ていく姿はなぜか見るものに罪悪感を抱かせるものだった。
※※※※※
「隊長、看板持ちましょうか?」
「うん、まだ大丈夫。ありがとう。
龍造寺さんだっけ?同じクラスなのに初めて話すね」
「私、鬼ヶ崎さんと前から話してみたかったんです。名前覚えてくれてたんですね。嬉しいです」
「そっか、私なんか色々あって普通じゃないみたいだからゴメンね。
気軽に話しかけてよ。っていってもS5の人たちがいると難しいのかな?
なんかそのへんの感じが未だに分からないだよね」
「そうですね。特に話しかけちゃダメってことではないですけど中学部ではかなり特別な人たちって認識があって、
未だに身構えてしまうところがあります。
鬼ヶ崎さんと話てるのを見ると普通の同級生なんだなっていうのが分かってきたんですけど」
「キッカケが必要だよね」
「そうだと思います。今は皆んな、近づきたいけど近づけないっていうところですね」
「まず私に声かけてくれたら繋いだり出来るよ。友だちが友だちを紹介するって当たり前にやるでしょ」
「当たり前でいいんですね。なんか新鮮です。S5の方たちが当たり前とか考えたこともありませんでしたから」
「さてと。そろそろこの人たち連れて戻らなきゃ」
「!」
龍造寺隊員が振り返ると既に行列が出来上がっていて絶句した。
教室を出て少し鬼ヶ崎ラムと話してただけでこんなことになってるとは。
これが当たり前の新しい友人は全然普通じゃなかった。
というか、行列に気づいていながら普通に世間話が出来るってもうスターでしょう。
ラムとしては統括するシズカからノルマとして与えられた朝イチ午後イチの出撃をこなして
あとはテキトーに習ったあざといメイドさんをたまにやればいいかと思っていたのだが、
龍造寺と話して、S5以外のクラスメイトと余りにも疎遠にしてたなと反省したので、
この日は毎回出撃にして相手の隊員をローテして少しでも会話していこうと決めた。
上司が部下を問答無用で飲み会に連れていくのはアルハラというらしいが、
部下が上司と行きたがっているなら行かない選択肢はないのだと遊撃部隊長として隊員を思い遣った感じでいる。
なんか色々混じってフワッとしているが結果としてこれが正解だった。
遊撃部隊を構成するカースト下位層を掌握したのでクラスの雰囲気がかなり良くなったのだ。男子はシラネ
期待したほどにはラムの頑張るあざといメイドさん姿を見ることが出来ず、
思惑が外れて人知れず血涙を流したのはシズカとクラスの男子全員であるがそれはなんの問題もない。
宝くじ並みの確率でラムの萌え萌えキュンに当たった客は真っ赤な顔で前屈みになりながら早々に帰宅したとか。
ミドリは駅前マンションで頼めばいつでもやってもらえることは分かっているので正妻の余裕である。




