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39. ミドリが来たよ

「こんにちは、柿沼碧と申します。お世話になります」


ミドリについて、寧々と直樹はまだ面識はなかったがラムから話はよく聞いていた。

特に寧々にとっては登校初日にラムに話しかけてくれて

初めて友だちになってくれた子ということで会う前から好印象であった。


「こんにちは、ラムの母です。ラムからいちばんの親友と聞いてるわ。友だちになってくれてありがとう」


「いえ、私の方が友だちにしてもらったんです。ラムちゃん、人気者ですし」


「こんにちは、ラムの父です。こんな山奥まで来てくれてありがとう。歓迎するよ」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


「さ、上がって上がってー、まずミドリちゃんが泊まるお部屋に案内するよー」


初めて見るよそ行きのミドリは、ちゃんとお嬢さましてた。

自分はどうかと思ったが、あんまり使う機会がないなと考えるのを放棄した。結構雑なところあるよね


「やっぱり若いご両親だったけど、ちゃんとラムちゃんを可愛がってくれてるのが分かって安心したー」


「あ、普通はそう思うかー、なんか気にしたことなかったから新鮮」


「すごくラムちゃんらしいよ」


ミドリは人を惹きつけてやまない親友が引き取られた家庭でも幸せそうでホッとした。

初対面で不用意に養子であることを話させてしまったのがずっと喉に引っかかった魚の小骨のようにミドリの心に引っかかっていた。


「明日から温泉行くのに変だけどここの温泉もなかなかだよ。一応、源泉かけ流しだからね。あとで入ってみて」


「ありがとう」


「明日は私と一緒に入ろうね」


「…」


一段階声を落として言われた言葉にミドリは言葉を返せなかった。

鼓動が速くなっていた。

その心算(こころづもり)はあったがラムからここで言うのはズルい。

でもそれがいい。どこまでも自由でいて欲しい。

これが恋なのかファン心理なのか未だに判断できないのだった。

どちらであるのか、それに決着をつけるための旅。高校1年夏休みの想い出となるべき旅。

気づいたら驚くほど乙女な自分がいた。

まさか、どこかに置き忘れたかと思っていた乙女心を同性の友人が掘り起こすとは。


「ラムちゃんはズルいよ」


「自覚してる」


素早い返しにドキッとする。ヤバい、これ以上無理。

部屋に案内されてから荷物を整理するふりをしてひとりにしてもらう。


「はあーっ、もーどうしたいんだよッ!」


イヤホンして動画を再生する。濃厚なファーストキスを脳内で再生する。

乙女心が爆発しそうだ。


「もーどうしたいんだよッ!」


さあ、温泉に入ろうか。


※※※※※


「おじ様おば様、お世話になりました」


「また遊びにきてね。新しいお家が完成したら招待するわね」


「じゃあ行ってくるね、パパママ!」


「ああ行っておいで。楽しんできなさい」


ということで、翌朝、別荘を出てラムとミドリは登山鉄道の駅にむかった。

ここから目的地へ行くルートが楽しい。

登山鉄道の終点まで登ったらそのままケーブルカーへ乗り換えさらに登る。

ケーブルカーの終点からロープウェイへ。

ロープウェイの終点が山の上の湖で、その湖岸から海賊船の形をした遊覧船が出ておりそれで対岸へ。

対岸から路線バスで山道を降ると目的地の半島の温泉街と約3時間の行程である。

実は最初から別系統の路線バスを乗り継いでいけばその半分の時間、タクシーを利用すれば40分程度で行けるのだが

いかにも楽しげなこの行程でいこうと昨夜2人で相談したのだ。


2人はキャッキャと屈託(くったく)なくハシャギながら道中を楽しんだ。

この子どもと大人の間の輝く時間を人は当たり前に行き過ぎる。

ラムは2周目だからこそ濃密に感じられ、それを全力で味わいたいと思った。

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