36. パパと娘と友だちと
親子3人水入らずの別荘生活が賑やかに過ぎて1週間、そこにラムの仲間2人が訪れた。
金さん銀さんである。当初マウントロックフェスに現地集合の予定であったが、
ラムが源泉かけ流し温泉付き別荘住みと聞いておねだりしてきたのだ。
ラムも複数同時に開催されるさまざまなアーティストのステージをタイムスケジュールと睨めっこで
どう周るかの相談を事前に行いたかったので、かなりの遠路になってしまうがそれでもよければと招待したのだ。
大金持ちの友だちの別荘に1泊して翌日出発し前日入りで高級ホテルのスイートで3泊、
毎日ロック漬けの夢のようなイベントですよ。
もうどうしてくれようかという心境の2人である。
「鬼さん、パパさん、ママさん、ちーっす。お世話になりまーす!」
「皆さん皆さーん、お久しぶりでーす。お世話になりますー」
既に初ライブの日に面識があるので気安いものである。
「久しぶりー、あなたたち、ご飯にする?温泉にする?それともワ・タ・シ?」
「ギャー!鬼さん、それ女相手でもやっちゃダメっす!やり直しっす!」
「ヤバいヤバい、マネさんに殺されるー」
ゲラゲラ笑う娘と友人たちに目を細め、にこやかに迎え入れる鬼ヶ崎夫妻。
大きな別荘なので客間は複数あるがいちばん大きな部屋にラムも一緒に泊まることにした。
今夜はパジャマパーティーらしい。
夕食は直樹があらかじめ仕込んでいたBBQを庭でやる。
その前に2人を目当ての温泉に案内する。
時間に関係なく何度でも入れるので最初に案内して放置である。
今日は直樹だけは浴場付近に立ち入らないことを宣言しておく。
彼は可愛い娘の良き父親になりたいと張り切っているのだ。
元妻に断ち切られた子どもとの絆はここに繋がっていたことを確信したのだ。
子どものために何かやってやりたい、世話をやきたいというのが父親の愛の在り方なのだ。
これが年頃の娘にウザがられる所以である。どうか分かってあげてほしい
BBQ終わりにやりたいであろう花火まで用意している本気具合である。
そんなこんなでラムたちにはただの楽しい夏休みの1日である。
2周目のラムだけは直樹の心情を正確に理解していた。良い娘を得たものだ。よかったね
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「ではまず、各自マストなアーティストを上げることから始めよう」
これは非常に重要な会議である。
「うんうん、それをタイムスケジュールにマークしていくと」
「まずその作業をやって時間が被ってなければ確定っすね。
被ってたら…まあやってみますか。
最悪別行動というのも視野に入れれば血を見ることもないっしょ」
「出来れば別行動はとりたくないなあ。トラブルの予感しかしないし」
「ま、鬼さんはひとりになっちゃダメっすね。
アタシらはそこまでとは思えないっすけど、スマホが繋がりにくかったりはありそうっす」
「そーだねそーだね、迷子になって金さん銀さん鬼さんて放送されるのはちょっとー」
「それよ。今さら名前で言われてもピンとこなくなってるから」
結局パジャマパーティーは血で血を洗うドラフト会議で終始したのだった…




