3. え、なんて?
「ただいまー」
「おかえりー」
「え、どなたですか?」
「お父さん?ですよ。昨日から美少女になった鬼ヶ崎剣蔵58歳です。よろしくね♡」
「いやいや何言ってんの。全然分かんない。お父さんどこ?警察呼ぶよ?」
「待って待って!ちゃんと説明するからゴメンて」
一から説明しました。疑り深くて困りました。
寧々ちゃんの子どもの頃からギャルやってた頃までの恥ずかしエピソードを幾つか話したら信じてくれました。
元彼とのバカップルエピソードを話そうとしたところで強制終了させられました。最後は涙目になってました。
お父さんが変わってしまって悲しいのでしょう。
ゴメンね。今お父さんは幸せです。
鬼ヶ崎寧々(30歳)は大学卒業後、株式会社オニヤンマへのコネ入社を断って
ネット広告ベンチャーに入社し働くキャリアウーマンである。
容姿は十人並みだけどコミニュケーション能力が高いためモテなくもない、
だけどとうとう三十路に突入してしまって…という複雑な心境の今日この頃。
一応、社長令嬢として都内のマンションを買ってもらってるし相当額のお小遣いも貰ってるので生活は余裕ぶっこきである。
父親との仲は良く、母親が亡くなって塞ぎ込んでしまった父親を心配していたが、
当時は自分のプライベートも一波乱あったためキチンと慰めてあげられなかった後悔がある。
「で、戻せるの?その身体」
「たぶん無理。戻したくもないし」
「医者に、って無理だよね。そんなの聞いたことないし、公表して戻れないってなっても騒がれるだけだもんね」
「そうそう。仕事もおかしくなるでしょ。従業員に迷惑かけるのは嫌だな」
「ふふ、やっとお父さんらしいこと言った。
そういえば確かにその口もとのホクロはあったね。
なんかセクシーになってて遡って嫌なんだけど」
「ね。なんか意味合いまで変わっちゃうんだよねー
話し方とかも変えたいんだけどまだよく分かんない。もう俺とか言うのも変でしょ」
「そういうことか。頑張って変えてるわけだね。
なんか違和感あったから最初は信じられなかったんだ。
でもとりあえずはそんな感じでいいと思うよ。演じるのは違うと思うし。
なんか他に困ったことある?」
「ある!ブラがね、寧々ちゃんの借りようと思ったらキツくて…」
「え、なんて?」
今まで聞いたことのない平板な声の調子にハッとした。
気づくとそこには鬼がいた。
「あの、新しいブラが欲しいです…」
この世界に己の娘に自分の胸のサイズを測らせてブラを買ってきてもらった父親が爆誕したよ。
※※※※※
「で、自殺を偽装しようってことだけど保険金詐欺になんない?」
「保険はすべて解約済みだよ」
「え、いつ?」
「お母さんが亡くなってすぐだったかな。お母さんの保険金貰ってみて、これは要らないなって。
ほら、私ってすごいお金持ちじゃない。
死んでも絶対寧々ちゃん困らせないくらいあるし、なんなら10回くらい死んでもよゆーでしょ?」
「お、おう…美少女が話す内容じゃないね。
お父さんらしいけど、美少女だとムカつかないのがなんか納得いかない」
「いいでしょ、剣蔵は実質的に死んでるんだよ。
社会的にちゃんとしないと逆に混乱するんだよ。だってほら、VIPだからさ」
「う、うん、言ってることは正しいのは分かるよ…」
「じゃあ話を進めようか。遺書を昨日頑張って書きました。
寧々ちゃんはまだ触っちゃダメだよ。捜査されるはずだからね。
で、実行方法だけど…」