26. ライブのワクワク感をね
「この歌詞っていいんすかね?…」
「いいじゃんいいじゃん、絶対やるやつだしー」
「じゃま、とりあえず1回通してみるっすか」
「はいはい、ワーン、ツー、スリー、フォー」
♪♪♪
マイクチェックワンツー
マイクチェックワンツー
マイクチェックワンツー
マイクチェックワンツー
♪♪♪
届けー音ー
届けー声ー
届けー響きー
届けキミに!
♪♪♪
「手抜きと思ってましたけど、いいじゃないっすか!」
「いがいいがーい、面白ーい」
「Aメロ、サビってゆーか、ヴァースとコーラスってゆーんだけど
いちばんシンプルな2部構成にしてちゃんとリハで使えるように
1分前後で一通り各楽器の音を確かめられるようにしたかったんだ。
まあ実際のリハはこれだけでは終わらないもんだけど、
これでライブが始まるワクワクが感じられたらいいかなと思って」
「なるほど。だから短いドラムのフィルインとベース、ギターのオブリがそれぞれ単独でヴァースに入るんすね」
「そうそう。で、ホントは3人で歌うようになってて
それぞれのマイクと最後にハモリのチェックってまで考えて作ったんだよ」
「すごいすごーい、さすが無敵の最強生物!」
「ってか、マネさんがずっと変なのはいいんすか?」
スタジオの隅でシズカは鼻息を荒げつつ目をかっ開いたまま瞬きすらしない。
口から舌がベロンと垂れ下がってるロックTにカーキのフリンジ付きジャケット、
黒いレザースカートに赤のカラータイツ、
黒いドクターマーチンのブーツに青いラウンドシェイプのサングラスの
ロック系ファッションに身を包んだラムは刺激が強すぎたようだ。
それが似たようなファッションの金メッシュツインテと銀メッシュポニテを従えて
ギブソン・サンダーバードを器用に操り歌うサマに神との邂逅を幻視していた。
「私のことはお構いなく」
「なんかあれ、開眼ていうらしいよ?」
「開眼て物理なんすか…」
「ねーねー、マネさん、今のちゃんと撮れてた?」
スマホをスタンドに固定して演奏を録画していた。
集まって動画を再生してみる。
「おお、ちょっと変えたいとこあるっすけど結構仕上がってるっす!
ってか、フンスフンスってズッと聞こえてる異音はなんすかね?」
「あー、マネさん、録画してる時はちょっとスマホから離れててね」
その後、アレンジを少し修正して何度か演奏してキャンファ初のオリジナル曲「さあ始めるよ!」が完成した。
スタジオを借りてる時間がまだ残っていたので前回やったドライビング・サウスとスカットル・バッティンをやって録画してみた。
シズカはドライビング・サウスの囁き声に身悶えし、再演されたスカットル・バッティンに涙した。
「あー、なんかマネさん見てると鬼さんのファンの感じが分かるっすねー」
「うんうん、男性は当然として女性もヤバそうだねー」




