20. お奉行さまの総取り
シズカは用事があるとかでダッシュで帰ってった。
だったら別にいなくてもよかったんだけど。
鼻息荒くしてただけの開眼ロリっ娘の存在意義とは。
メシアが珍しく真面目な雰囲気醸して語りだした。
「ラムちゃんを利用しようとすると逆にガッツリ持ってかれるね。
僕に擦り寄って利用しようとする人はたくさんいたけどその逆は初めてだよ。
いやあ、いい経験させてもらった」
「うん?利用していいんだよ。友だちならお互いさまでしょ?
結果さえ良ければ誰も損なんかしないしね」
「その前向きな性格は自分への絶大な自信からきてるんだね。
超一流の人だけが持つものだ。眩しいよ」
メシアの腹黒はまだ青くてラムには懐かしく感じられた。
そんな感傷に浸っていると解散したバンドの内部生の代表が話しかけてきた。
まだお奉行さまムーヴは継続しないとダメみたい。
「あのー、鬼ヶ崎さん。ありがとうございました。
私たちの勘違いで大騒ぎになってしまってもうどうしたらいいか。
よければ教えてもらえませんか?」
「うん、まず自分の気持ちから見直すんだね。
塾行くので精一杯で自宅での練習時間がとれないとか、よく考えてみたらその言い分、おかしいことに気づくよね。
元々は自分が楽器をやりたくて始めたんだよね?
それが今はまるで誰かにやらされてるみたいに思ってるでしょ。
どっちがあなたのホントの気持ちなんだろう?
無理にでも時間作って練習して皆んなの前で堂々と弾けるようになりたいのか
もうメンドくさくなってて投げだしたいと思ってるのか。
こんなのはあなたの気持ち次第だから他人にはどっちでもいいんだよ。
そもそも巻き込んではダメだ。正直なところを考えてみよう。
もしまだバンドやりたいなら軽音の先輩に相談すればいいよ。
ベースとドラムがいないなら自分たちの楽器をコンバートするか
他のバンドから一時的にヘルプで入ってもらうみたいなことも一緒に考えてくれるでしょ。
自分から進んでやりたいことやっていこうよ。
私はこの学校にはそうするつもりで入ったんだよ。
他人任せじゃダメだよね」
「なんかすごい人ですね、鬼ヶ崎さんて。先生よりも先生です。
自分の頭で考えて決めてみます。バンドやるってそういうことでした」
褒められちゃった。
昔から急に振られてその場でそれっぽいことを言うのが得意だった。
なんか今日は懐かしい気分の日なのかも、とかノホホンと思いながら
ダラダラ帰り支度してたら外部生の代表まで来てしまった。
「ちーっす。鬼ヶ崎さん、あざーっす。
いやあ今まで溜まってたこと全部言ってくれてスカッとした!
こういうのの言語化って難しいんだけど正しく伝えられるのは凄いっすね。
聞いてたら自分まで「ああそういうことだったか」なんて、新発見ってゆーか、なんか感動しましたわ」
「結構バンドあるあるでしょ。
初心者ってこっちが思ってる以上に初心者だよね」
「そうそう。
バンド仲間として対等に接するように気をつけたのがシクった原因ってさっき分かった。
ってか、鬼ヶ崎さんってかなりの上級者じゃね?さっきも学園祭出るって話してたっしょ。
もしかしてバンド組んでたり?」
「まだ組んでないよ。学外で探そうと思ってるけど。
学園祭は出たいなあ。具体的に考えてなかったけど最悪弾き語りでもいいかなあ」
「え、ならアタシらとバンド組みません?
いちおスクール通ってますんで、そこそこやれる自信はあるっす」
「えー、なんかガッカリされそうで怖いけど、ちょっと合わせてみたいかも」
「イイっすね。鬼ヶ崎さん超美人だしギター持ってフロントに立つだけでカッコイイはずっす。
あ、そういえばロック系の私服で歩いてたとこ見ましたよ。鼻血出そうっした」
「あれ見てたんだ。ちょっとサングラスとかかけてオシャレタウンを歩いてみたかったんだよ。許せ」
「いや、ノリいいっすねー、じゃサクッとライム交換しましょ。あとで連絡するんで」




