16. バンドってえのはなあ
最後の部屋のドアはごっつい感じでノブではなく取手になっているのを押し下げて開く。
「はい、ココは防音室だよー、ギター弾いたりしてまーす」
「おー!スタジオじゃん!なんかいっぱい機材あるね」
「まあ、ラムさんも楽器を?私もお琴をお稽古しておりますの。いつか合奏してみたいです」
「捗る」
「おいそこ、拝むな!ラムちゃん、なんか弾いてみてよ」
「出た!ギターを持ってると必ず言われる「なんか弾いてみて」。
えーっと、アコギがいいかな?それともエレキ?」
「エレキ一択」
「お、おう。エレキね。ちょっと待ってね、準備するから」
スタンドに立てかけてあったフェンダー・ストラトキャスターを手にとり
シールドケーブルの1本を接続しストラップを付けて身体に回す。
シールドケーブルのもう一方を小型の練習用フルチューブアンプに繋ぎツマミを少し弄ってPower on !
アン直(エフェクターを間にかまさずギターをアンプに直結した構成)である。
軽くチューニングした後、ボリュームを上げていき…ジャーン!!!
「「「カ、カッコイイ」」」
背が高くスタイル抜群だからもう立ち姿からサマになってる。
ストラップが片乳の上にめり込んで非常にけしからん。
「エレキはあんまり1本で弾くもんじゃないけど、エレキらしいインストがあるからそれを1曲やります。
SRVのスカットル・バッティン」
ティウンティティティティウティティテゥルルズッチャチャッチャチャッチャ〜♪
指板をそれぞれが別の生き物のように滑らかに動く白い指、
タイミングよく力強く振られる引き締まった腕、
自然とリズムをとって動くらしい魅惑の腰つき、
フレーズのニュアンスに流されるように煽ってくるアブナイ表情…
「私たちは今何を目撃しているのでしょうか…スター、これはスターの誕生ですね」
「しゅ、しゅごい…フォーーー!!!クワッ、開眼した!」
「シズカ、気持ちは分かるけど開眼て…怖ッ!目かっ開き過ぎて糸目がクリクリになってんじゃん!」
〜ズッチャチャッチャチャッチャッ!
「はい、おしまい」
パチパチパチパチ
「ラムちゃん凄いじゃん!ヤバいよヤバいって、デビューはいつ?ねえデビューするんだよね!?」
「いやミドリちゃん、圧、圧下げて普通に話そうよ。ってシズカちゃん?え、これシズカちゃんなの!?」
「ええまあ、シズカさんに間違いありません。先程開眼なされたそうです」
「開眼て、え、物理なの?マジで?」
糸目がかっ開いて呪いの日本人形状態のシズカの手を引いてリビングに戻った。
「いや、ラムちゃんが何でも出来るのは知ってるけどこれは違うよ。
ギターのことは分からないけどさ、プロでも通用するでしょ。
こんなガツンとくるようなの聴いたの初めてだよ」
「ありがとう。人に聴いてもらったのは初めてだからよく分からないけど
あれはただお手本通り弾いただけのコピーだからプロとかなんとか以前の話だよ。
まずはバンド組むのが目標かな」
「ラムさんはただのコピーと仰ったけれどそれ以上のことも出来ますでしょう?」
「うん、一応、自分で曲作るとかはやってるよ」
「バンドって軽音入ったら組めるんじゃないの?」
「学校の部活ではやりたくないかな。
バンドってさ、メンバー全員がある程度同じレベルで頑張らないとダメなんだよね。
低いところで満足してる人がひとりでもいるとバンド全体がそこで止まっちゃうんだよ。
「これは難しいから弾けません」とか言われたらもうそれ、やれないでしょ?
バンド以外で関わりがなければ切っちゃえばいいんだけどさ、
部活でそれやったら正論であっても非難されるのは切った方になっちゃう」
「言われてみればだね。
だからロックバンドが「方向性の違い」とか意味の分からない理由で解散したりするんだねー」
「そうそう。色々言いたいことは溜まってんだけど、すべて飲みこんだ形で「方向性の違い」っていう落としどころ。
ほんとは「オマエいつもギリギリまで練習してこねーな。ヘタクソなんだから頑張ってる感くらい出せよ!」みたいな
熱意の濃淡とか人に対する許容度の違いで破綻するんだよ」
「それ、ラムちゃんが学校でやっちゃダメなやつだ」
「そういうこと」
その後はいまだにトランス状態のシズカを除いて学校の話で盛り上がってから
各自、お迎え依頼の電話(シズカはミドリが代行)を家にして駅前ロータリーで解散した。




