15. 女子会を開催します
下校時間になるとS5のお嬢様たちのテンションが爆上がりしていた。
「ラムさんのおうちまで歩いていくのですか?」
「そう。だいたい10分くらいかな。歩ける?タクシー呼ぼうか?」
「それくらい大丈夫です!足腰は日舞で鍛えておりますもの」
「あ、そうだ。ケーキ買ってこう。同じ駅前に有名店があったはず」
「チーズケーキ好き」
「うんうん、好きなの選んでね。なんならホールで買ってもいいよー」
「シズカ、顔!」
ワイワイしながら寄り道してケーキを買ってマンションについたのが30分後。
「へー、ラムちゃんココにひとりで住んでるんだ。なんか広くない?」
「3LDKだからファミリー向きの作りだね」
4脚だけあったティーカップにコーヒーのドリップバッグを置き、電気湯沸かし器からお湯を注ぐ。
3人にママが来た時用のスティックシュガーと生クリームを付けて配る。
ラムはコーヒーはブラック派である。
4枚だけあったケーキ皿に店で各自選んだケーキを載せて、皿とセットのフォークとともに配る。
食器はこれ以外にはコンビニサラダ用のフォークと朝食用のマグカップにバターナイフとパン祭りの皿しかない。
「なんてゆーか、意外だよね。
あのなんでも出来るラムちゃんのまさかの生活力の無さが滲み出てる感じ」
「ま、人間向き不向きがあるってことで」
「そこ、諦めない!」
「まあいいじゃない。じゃあ事情をサクッと話しちゃおうかな。
私が鬼ヶ崎の養女ってのは知ってるよね?
実はそれ以前の記憶が無いのね。
気づいたら街を歩いてて出会った人に聞いたんだよ「私のこと知りませんか?」ってね。
それが今のママ。
で、病院に連れてってくれて困ったら連絡しなさいって言ってくれて他に知り合いもいないから定期的に電話で話すようになって。
そのあと病院から警察が身元を調査する間の一時保護ってことで保護施設に移ってさ。
そこの施設長がクズだったわけ」
そこでラムはおもむろにスマホを見せるようにして例の金的粉砕動画を再生した。
「「「うわーキモい!」」」
「この後、エントランスまでダッシュして110番したんで気づかなかったけれど奴は白目剥いて失神してたらしいよ」
「「「よかった!」」」
「この後、この施設長が逮捕されたりで割と大きな事件になったんだよ。
自分は証言してこの動画を提出したくらいだったけどね。
でもこれのおかげでママとの養子縁組がすぐに成立することになったんだ。
被害者が身元不明じゃ困るって警察だか検察だかが言ってくれたみたいで。
結果的には得したのかな?超キモかったけど。
デリケートな話ではあるんで学校では話さなかったけれどいつか皆んなに知ってもらおうと思ってたんだ…
えっと、なんで皆んな泣いてるのかな?」
「ラムさんは頑張ったんですね…」
「えーと、うん、ありがとう?」
「ラムちゃん、なんで疑問形なのよ。頑張ったんでしょーが」
「いやなんかそこまでじゃないというか。いろんな人のおかげで毎日楽しいし」
「尊い…課金したい」
「課金?お金はあるよ?」
「シズカはいいから!
分かったよ、ラムちゃんはそれでいいんだ。そのままいてくれるだけでいいと思う」
「うん分かった。ありがと。
さて、じゃ女子会しますか!皆んなは恋バナとかないの?
そういえばエリカちゃんとトモくんって許嫁だっけ?どんな感じなの?」
「許嫁といっても幼い頃に親同士が決めただけですし、私たちは特に男女の交際などしておりませんの」
「トモが不憫すぎる!」
「だがそれがイイ!」
「そうなんだ。なんか雰囲気が真逆っぽいから許嫁って聞いて意外だったんだけどそれなら納得だよ」
「いやあエリカちゃんはそれでよくてもトモはどうかな?
ちゃんと話し合った方がいいと思うよ?なーんてね、ハハハハ」
「色々あるんだねー」
「あ、ラムちゃん、他の部屋も見せてよ!」
「うん、いいよ」
リビングからすぐ隣の部屋のドアを開けた。
「はい、寝室でーす」
「って、ベッドしかないんかーい!デカいなー」
「クイーンサイズなんだー、ゴロゴロしても落ちないよ」
「ラムがベッドでゴロゴロ…」
「顔」
「だんだんシズカちゃんの扱いが雑になってる!」
廊下の浴場とトイレを越えた先に左右のドアがあって右の普通のドアを開けた。
「はい、衣装部屋でーす」
「スッカスカだね」
「平日は制服だし休日は今のところ実家に帰るだけなんだよね。
ひとりで街を歩くとナンパとスカウトが寄ってきて買い物どころじゃなくなるし」
「そっか、ラムちゃん目立つから」
「自覚はあるよ。自分好きだし。でも今のところ良いことってあんまり無いなー
あ、ミドリちゃんが声かけてくれたか。良いことあったや。やったー」
「なに可愛いこと言ってんだ。いいぞ、もっと言え!」
「ミドリちゃんのツッコミ、サイコーだよ♡」
「んー、なんか引っかかるけど嬉しいからいいや」




