13. ポチッとな
近寄りがたいオーラを纏った鬼ヶ崎ラムだったが意外とフレンドリーなことが広まって一気に人気者となった。
それに伴って厄介なことも増えた。
「鬼ヶ崎さん、好きです。俺と付き合ってください!」
「ごめんなさい」
もう多すぎて捌ききれないくらいになってきてダブルブッキングも頻繁に発生するに至り、
ラムに対する告白対策をS5が講じた。
学校の掲示板に許可を得て以下を貼りだしたのだ。
---
1年3組の鬼ヶ崎ラムさんへの告白行為が頻発して学校生活に支障をきたしております。
告白者のあなたにとっては一世一代の大勝負かもしれませんが
受ける側の鬼ヶ崎さんはひとりだけで多くの似たような告白を捌かなければならない現状です。
あなたは大勢の中の1人にすぎないことを自覚してください。
塵も積もれば山となる。
かわいそうな鬼ヶ崎さんは今、山の中で遭難しかかっている状態です。
鬼ヶ崎さんを愛でる者のひとりとしてこの暴挙は許せません。いい加減にしろ
ということで少しでもクソみたいな告白を減らすために次の3点の制限を設けることとする。異論は認めない
・告白はおひとり様1回限りで再チャレンジ不可
・呼び出しの禁止(体育館裏で一生待ってなさい)
・罰ゲーム化禁止(ざけんじゃねーぞ!ラムちゃんは本気で困ってんだよ!)
---
「シズカ、これ逆に煽ってない?」
「逆恨みしやすいガチ勢を牽制するためにはこれくらい煽るべき」
「にしても私情がダダ漏れてんじゃん」
「えへ」
「いや萌えないから。もうロリの時代じゃないのよ。ごめんねー」
「…」
「なにそのロリじゃなくラムですね分かりますの顔は!」
※※※※※
「この上に載せちゃえばいいですか?あ、はい大丈夫です。お疲れさまでしたー」
鬼ヶ崎ラムは体育館の倉庫に授業で使用したマットを隣のクラスの男子と協力して運びこんでいた。
体育祭が近づき2クラス合同の男女別の授業であった。
同じ体育館で同じ時間であったため片付けはなんとなく協力するような流れとなっていた。
ラムはエリカとともに器具を運んで終わったつもりであったが、
たまたまひとりでマットを運ぼうとして力尽きた男子に呼び止められてもう一働きしたところだ。
「あれ?」
倉庫のドアを開けようとしたが開かなくなっていた。
男子も試してみる。
「開かないね。あの、鬼ヶ崎さん、こんな時になんだけど…」
「あ、大丈夫です。これで助けを呼びましょう」
ラムは首にかけた紐に付いた何かを胸の谷間から引っ張り出した。
「そ、それは何かな?」
ちょっとしたラッキースケベにクラッときた男子は次の言葉に凍りついた。
「防犯ブザーです。警備会社のオペレーターさんとお話しが出来るんですよ。
ポチッとな。あ、すみません。閉じ込められました。
場所は鵬皇学園高等部の体育館の倉庫です。
学校に連絡していただけますか?はい、このまま待ちます」
「そ、そんなノータイムで…」
もちろん一緒に閉じ込められた男子がなんとか告白出来る状況に持ち込もうと友人と共謀して起こした事件であった。
警備会社からの連絡で先生他の大人が大挙して来てドアを押さえていた友人はアッという間に拘束されて
なす術なく隣に突っ立っていた男子も言い訳する暇もなく一緒に連れていかれた。
鬼ヶ崎ラムは保健室に担任の山本先生と養護教諭と共に行き事情を聞かれてから寧々が引き取りに来るまでベッドで寝かせてもらった。
その後、事件を起こした2人は停学3日という処分を受け、さらに事件の経緯が校内に公開された。
事件の経緯の公開は鬼ヶ崎ラムが強く望んだことであった。
停学3日とは甘いように思えるが、一般入試など考えたこともない内部生が
この前科により大学への推薦が受けられなくなるというのは絶望するに足る罰である。
また事件の経緯の公開については個人名は伏せられても停学処分と併せて考えれば
誰がやらかしたのか丸わかりとなるので今後の学校生活は辛いものとなるだろう。
好きな子に告白するためにやっただけでそれは重すぎるというように男性は考えがちだが実際にやったことは身勝手な監禁なのだ。
女性からしたら当然の報いとしか思えない。
ラムは両方の考えが手にとるように理解出来るが、当然100%女性側に立つ。
知らない男に監禁されたいなんて思うマトモな女はいないと思うよ?




