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12. フグを捌くには免許がいるそうですよ

鬼ヶ崎ラムは柿沼碧(かきぬまみどり)との出会いで「学校の友だち」という存在を改めて()みしめていた。

歳をとるごとに利害関係なしの友だちというのが遠くなる。

損得で友人になってるということではなく、経済的な関係性が多少なりともないと単純に縁遠くなってしまうのだ。

お互いに仕事優先で連絡も(ろく)にとれないうちに関係性が薄れていくというわけだ。

学校の友だちは経済的な関係性が最初から存在しない特異な状況から始まるものだ。

当然のように考えていたことが、歳をとってから実際には得難いことであったと気づくことは実に多い。


まだ何もなくても学校に行くのが楽しみな時期だけど2日目にして既に知り合いがいるともなれば早起きしちゃうのも当然だよね。


「柿沼さん、おはよ」


「あ、おはよー!

鬼ヶ崎さん、待ってたよ。私の友だちを紹介するね。

クラス委員になった池尻くんと小早川さんは知ってるよね。

この偽ヤンキーが本多で、こっちの小っちゃいのが月夜野さんね」


「皆さん、おはようございます。鬼ヶ崎ラムです。よろしくお願いしますね」


「おーいミドリ、雑すぎんだろが!

本多忠誠(ほんだただとも)っす。トモって呼ばれてまーす。よろしくー」


「ミドリ酷い。月夜野静香(つきよのしずか)です」


池尻救世(いけじりめしあ)です。メシアって呼んでね。よろしく」


小早川瑛里華(こばやかわえりか)です。よろしくお願いいたします」


「改めまして柿沼碧だよ。ミドリって呼んでー

あ、ラムちゃんって呼んでいい?いいよね?ありがとー

みんな幼稚舎から一緒の内部生なんで困ったことがあったらなんでも相談してね。

あ、でもメシアには注意だよ。コイツこう見えて女癖悪いんだ」


「ミドリくーん、いきなりそれはないだろー泣いちゃうぞー」


「いいんだよ。友だちに手は出させないんだからね。

あ、一応フォローしとくと下半身以外はいい奴なんで、そこだけ気をつければ大丈夫」


「ふふ、なんかフグみたいだね。ミドリちゃんが(さば)いてくれたら大丈夫そう」


「フグて!やべ、腹痛えー、メシアを初対面でフグって言った人、初めて見たわ。ラムちゃん最高かよ!」


早朝の教室でS5と謎の美少女の絡みを様子見してたその他のクラスメイトも思わず吹き出してしまった。

この何気ないやりとりも瞬く間(またたくま)に学年中に広まるだろう。

ミドリは友だち同士の対面が上手くいったことに満足しながら

シズカが鼻を膨らませてヤバい顔をしてラムを見つめていることに気がついた。

(絶対、この子の好みだと思ったのよね)


「ミドリさん、やっぱり普通っていいですね。

考えてみたら私たちってお互い以外に普通の友だちっていませんでした。

ラムさんを連れてきてくれてありがとうございます」


「ミドリ酷いよ。夢の高校ハーレムライフが…」


「メシアは信者のお姉さんたちで我慢しときなさい。

女は怖いのよ。今までは運がよかっただけだと知りなさい」


※※※※※


授業が始まると鬼ヶ崎ラムの集中力の高さが際立(きわだ)つことになった。

授業中に後の席からミドリが話しかけても上の空(うわのそら)なのである。


「なーんでラムちゃんはそんなに勉強してるの?」


「えー?なんか面白いから?」


「え、どこが面白いって?全っ然、意味がわかんないんだけど!頭良くていいね」


「そりゃ悪いよりは良いほうがいいでしょ。

でも何かを面白いと思うかどうかはあんま関係ないよね。

逆に考えてみ?

勉強が面白いと思うとこからが開始ね。

勉強が面白い→楽しいから思わず勉強しちゃう→いつのまにか成績上がってた→なんか頭良いって言われる。

ね?」


「ね?じゃ、ねーよ!

それ、可愛いんだよ!ムカつくーキーッ!」


「ラムさんは部活に入らないのですか?」


「うーん、幾つか見学はしたんだけど部活やるまではいいかなーって」


バンドはやりたかったのだが剣蔵の高校時代に軽音楽部でやってた経験があるのでバンドをやるなら学外でと決めていたのだ。

ジム通いはマンションの近くに場所を移して続けていて

スカッシュも寧々と月に1、2回はやっているのでスポーツもいいかと思ったのだが

体育会系の部活となるとガッツリ時間をとられるので入らないことにした。


「エリカちゃんは部活入ったの?」


「いえ、私はお稽古(けいこ)ごとが忙しくて部活の時間が割けませんの」


「へえー、大変だね。でも色んなことが出来るのっていいよねー」


「あ…た、確かに色々出来るようになりました。

ラムさんはいつでも前向きですね。得がたい美質です。

いつまでもそのままのラムさんでいてくださいね」


「えへへ、エリカちゃん、ありがとー」


小さい頃から当然のように色々と習わされていて負担にしか感じていなかったことを

良いことと捉えられて少なからず衝撃を受けたエリカだった。


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