10. 高1でも政治はあります
柿沼碧は新しく友だちとなった鬼ヶ崎ラムが屈託なくバイバイと手をふって帰っていくのを優しい気持ちで見送った。
入学式から非常に目立った15歳らしからぬ色気を纏う美人。
ひとくちに美人と言っても自分や友人とはレベルの桁が違う。
中学部までは自分たちがトップカーストにあって
特に意識しなくても周囲が持てはやしてくれる状況に自然と自惚れていたようだ。
(それがあんな…)
初めて知った嫉妬心。
声をかけた時には少しでも不利な情報を抜いてやれという気持ちが確かにあった。
(見下してくると勝手に思ってた)
普通だった。気安く、話してて楽しい子だった。毒気を抜かれるとはこのことだ。
逆に養子と聞かされて焦った。
授業が終わったら友人たちを紹介しようと言ったら、この後は養母(ママと呼んでるらしい)と食事で
今日楽しかったことを報告するのだとか。
通学のためにひとり暮らしを始めたので毎日会えないからと申し訳なさそうに言われた。可愛いかよ!
「ミドリ、鬼ヶ崎さんってどんな感じの人?」
池尻救世が早速、食い付いてきた。
いかにもクラス委員として把握しておきたいみたいな顔をしているが獲物を見定める時の目をしている。
幼稚舎からの付き合いの仲間は皆んなコイツの王子様顔の下の女癖の悪さを知ってる。
でも悪い奴ではない。面倒見の良さや気配りの出来るところは王子様と言ってやってもいい。
「んー、ひと言で言うなら普通の人かな」
「なんだそりゃ、拍子抜けだな」
高校デビューよろしく昨日の入学式から制服を着崩して金髪ツンツン鼻ピにしてきた
ちょいワルを演出する本多忠誠はこともなげに言うが
いつもながらコイツだけが分かってない。
アブナイ男を目指しているらしいが素直過ぎる性格が究極に向いてない。
この、許嫁一筋の初恋拗らせ野郎が。爆発しろ!
「トモさん、それは違います。あのヴィジュアルで「普通」は無いです。
しかもミドリさんにそう言わせるって相当ですね」
小早川瑛里華は大人っぽいニュアンスボブのクッキリハッキリ美人顔で
常に敬語で話すので人との間に壁を作っている印象であるが意図的なものではない。
お堅い印象を自然と与えてしまうだけの優しい良い子である。
さらに許嫁命のトモが見合う男になろうと必死で迷走していることに気づいてない。
羊の皮を被った狼のメシアと共にクラス委員に指名されたのをトモに不安そうに見られていたのも気づいてない。
「あの自己紹介も普通に見えて普通じゃなかった」
月夜野静香は黒髪ストレートロング前髪パッツンで低身長の正統派日本人形系ロリである。
いつもお嬢のエリカに引っ付いていて取り巻きのように思われているが、
実際はトモとエリカの天然系バカップルを愛でているだけの欲望に忠実な女である。
クラス委員指名の件ではトモの不安顔を見ながら鼻を膨らませてヤバい顔をしていた。
柿沼は大物映画監督の娘、池尻は巨大宗教教祖の息子、本多は大病院経営者の息子、
小早川は大物政治家の娘、月夜野はリゾートホテル王の娘と家柄も良い彼らは生粋の内部生である。
中学部では彼ら5人はスプレンディド・ファイブ、通称S5と呼ばれ、トップカーストとして常に学年の中心にいた。
「今日は本当に用事があるみたいで急いで帰っちゃったけど、
明日皆んなを紹介するって話しといたから楽しみにしてなさいよ」
開けっ広げなようで腹に一物あるミドリが初対面から好印象の人物も珍しいと他のS5のメンバー全員が思った。




