1. 事案…いえ、事件です(威圧)
鬼ヶ崎剣蔵(58歳)はひとり暮らしには広すぎる自宅マンションのリビングのソファで寛いでいた。
172cm 75kgでやや肥満気味中肉中背、頭頂部に不安を抱えるコワモテのオッサンは
裸足にグレーのスウェットの上下という場違いな姿で高級感あふれるフカフカのソファに沈み込んでいるのだ。
都心のタワーマンション最上階丸ごとが自宅である。
大企業である株式会社オニヤンマの創業社長である剣蔵の社会的ステータスからすれば常識の範囲内である。
3年前に最愛の妻を失い失意の底に沈み何もかも嫌になったが、
1年前に立ち直って以来、仕事に打ち込んで今日は年末の仕事納めであった。
ひとりで祝いたい気分でパーティー等の誘いをすべて断って早々に帰宅したのだ。
明日にはたった1人の肉親となってしまった娘の寧々(30歳)が帰ってくるのだが
それまでは久しぶりの何もない時間を過ごすことになる。
妻は癌が見つかって半年で逝ってしまったがそのひと月前までは元気だったので
その期間だけは彼女の望むように過ごした。
当時のかけがえのない時間を反芻したかったのだ。
2人でハイキングに出かけた先で撮った海をバックにしたツーショット写真の笑顔の妻を眺めて呟く。
「愛子…」
よほど楽しかったのか写真立てに収めたこれを見て微笑んでいる姿を何度も見かけたものだ。
それを思い出し、寂しくも満ち足りた気持ちに落ち着いた。
新しい葉巻を箱からとり出し、カッターでヘッドを丁寧に切り落とすと
シガーライターで静かに火をつけてゆっくりと口内で燻らせたところで…
「ガッ!…うぅぅ」
突然、呼吸が出来なくなり苦しくなったところで意識を失った。
※※※※※
気がつくと知らない天井…ではなかった。
そのままソファで座ったまま眠ってしまっていたようだ。
スマホで確認しても日付は変わらず2時間程しか進んでいなかったことにホッとしたが、
どうにも拭えない違和感がある。
違和感というか色々おかしいことに気づいてしまい居ても立っても居られなくなった。
慌てて立ちあがって衣服を脱ぎ散らかしながら唯一の和室に向かう。
亡き妻が和装のために作った部屋で着付けのための大きな姿見があるのだ。
部屋に着くころには全裸になっていた。
障子を開き電灯を点けると正面に姿見が…
「これは…」
とても自分から発せられたとは思えない鈴を転がすようなキレイな声と、なにより姿見に写し出された
緩くウェーブのかかった栗色の艶のあるロングヘア、
まつ毛の長い切長の黒目がちな大きな瞳、
通った鼻筋、小さな小鼻を従えた高すぎも低すぎもしない品のよい鼻、
ポテリとした薄紅色の唇から覗く小さな白い歯、
口もとのホクロは元から存在していたが髭剃りの邪魔くらいにしか思ってなかった。
今はそこはかとない色香が漂っているのが不思議である。
小さな顔、豊かで形のよい胸、ハッキリとした腰のくびれ、
キレ上がったお尻の形が素晴らしい、長くて形のよい脚…ってか脚なっが!
身長はそのまま172cmっぽいが体重は2/3以下といった感じで
全身が陶器のように薄く輝く白い肌の美少女に剣蔵は驚愕しつつ一目惚れ、と同時に昇天した。
惚れた女との完全合体である。
もう征服欲も支配欲も独占欲も常時100%満たされているのだ。
見た目15歳くらいの美少女にオッサンが欲情するなんて事案だと言われても自分自身だから問題ないよねーってなものである。
浮気?いやこの美少女は自分ですが何か?
姿見の前で桃色の思考を飛ばしていたら寒くなってきた。全裸だし。
この家を出る前まで寧々が使っていた部屋がそのままになっていたのを思い出したので下着を漁って着た。
なんか胸が苦しいし付け方の正解も分からないのでブラはしないで直にTシャツを着たが先端が擦れてゾワゾワする。
まだ未経験だがトイレも怖くなってきた。
ってか、この状態何?
さっき脱いだスウェットを着て徐々に落ち着いてきたところで今更ながらに問題の根本に気がついた新米美少女58歳。