File.2 息子に精密検査を・・・
我社ではだいたい秋頃社員の健康診断を実施している。
健康診断はいろいろ選べて、ちょっと大きな病院で詳しく診てもらう人もいれば、
会社に検診車が来て診てもらう人もいる。
会社に検診車が来て診てもらう場合も、実はコースが選べるのだ。
簡単に言えば、血液検査をするかしないか。
40歳以上の社員はお国で血液検査をするコース以上のコースでなければならないが、40歳未満の人はやりたくなければやらなければいい。
総務的に言えば、会社には従業員の健康を守る義務がある。けれど、従業員には健康診断を拒否する権利がある。・・・複雑だ。
私はどちらかと言うと病院で毎年検査をしている。心労も若干かかっているので、内臓に自信がない。
寒い廊下を検尿コップを持って並ぶと言うのも何か嫌だ。
などなど、健康診断はいろいろと思う所がある。
健康診断を終えて、数日経った頃、朝1本の電話が入った。
「私は〇〇の母親ですけどね・・・」
と年老いた声の女性は自分が何者なのか話始めた。
・・・〇〇さんと言えば、あ~職場のあの人かぁ~、普通母親が会社にかけてくるかぁ~!!!
いつも息子がお世話になっています・・・から始まって、
普段の息子の様子を話始めた。
しばらく聞いていたが、要件にたどり着きそうになかったので、
話に割り込んでみた。
「はぁ、こちらこそ、〇〇さんにはお世話になっております。それで、どのようなご用件でしょうか?」
母親が会社に電話って、具合でも余程悪いのかな・・・?
「・・・いえね、うちの〇〇はまったく私の話なんて、馬鹿にして聞いてくれなくて・・・」
「はい・・・」いったい何の話をしているんだろう?
「この前、健康診断があったでしょう?要検査っていうのがあったのよ。それでね、〇〇に何かあっても困るから医者に行って診てもらえって何度も言っているのに、聞いてくれないんですよ。で、会社の方から、検査に行くようにきつく言ってもらいたいと思って・・・」
〇〇さんは地味で、あまり目立たない・・・と言うより、人とあまりコミュニケーションを取ってくれない方の立派な大人の男だ。もしくは後期の中年と言ってもいい。
「あの~、ご心配されているというのはわかりますが、会社から強制して受診させる事は出来かねますが・・・」
「でも、会社から言われたら、あの子も少しは言う事を聞くと思うんで、お願いしますよ!」
お母さんは引いてくれない。と言うか、あの子って、小学生じゃないんだから・・・ね。
これ断ったら、電話切ってくれないのかなぁ~と思った私は、
「わかりました。お話だけはしてみますね。」
そして、私はその日〇〇さんの職場の休憩時間前に、職場近くのドアで出待ちをした。
ゾロゾロと職場の人がドアから出て来た。
一番後ろから〇〇さんが現れた。
「〇〇さん、休憩前にすみません。ちょっとお話いいですか?」
〇〇さんは「あっ」と言ってうなづいた。
廊下の端に連れて行き、人気が少なくなった頃・・・
「今日、〇〇さんのお母さんから電話が来ました。」
そこまで言っただけで、下を向いていた〇〇さんはじっと私の顔を見た。
「あの・・・健康診断の結果を随分きにされていて・・・精密検査をお願いできませんか?」
・・・雰囲気からすると、これ以上話するなよって言っている気がとてもする・・・
「まぁ、ご自分の体なので、どうぞお大事にお願いします。」
そう言って、私は退散した。一応お母様の要望には応えたのだ。私は頑張った!
そして、次の日
電話が鳴った。相手は〇〇さんのお母さんだ。
「昨日ねぇ、会社に電話して、息子に怒られちゃったのよぉ~」
・・・そりゃあそうだよね。・・・親子仲良くしてよね。