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8話 宵闇の逢瀬

 もう少し逃げればヘリオトロープにたどり着く。宵闇の支配する時間が後少しで終わる頃にとある男がヘリオトロープへと向かっていた。

 その男は領主によって殺されてしまった両親の仇を取る為にヘリオトロープに行かなければならなかった。

 両親が殺されたのはおよそ4日前の凄惨な夜だ。

 だが、彼のいた街ではどのような犯罪を犯そうが3日間逃げ切れば無罪放免になるルールが罷り通っている。例え人殺しをしてもそのルールは適応してしまう。

 だから彼の街は無法都市も良い所だった。

 その3日間ルールを利用して商売をする人間達も現れる程で内容は様々だ。3日間の間に犯人を捕まえ相応の復讐をさせる者達、逆に3日間の間逃げるのを手伝い逃亡を完遂させる業者がいる。

 彼にはその3日間ルールは邪魔だった。親を殺して3日間逃げ切った奴が無罪放免だなんて許せるものか。

 その理不尽な仕打ちに怒りを覚えた彼は、ヘリオトロープへと向かっていた。 

 この街なら俺の訴える理不尽をわかってくれる──そう信じて、荒野の世界を歩いた。

 暫く歩くとヘリオトロープの城塞が見えた。やっとだ、やっとたどり着いた。それまで彼を支えてきた糸が切れて門前で倒れ込む男性。そこに門番の兵士が彼に声をかけた。


「大丈夫か!? ……気絶している……すぐにトーマス執事に連絡を! 何やら別の街の住人らしい!」

「はい!」


 その時は執事トーマスは書類の整理をしていて、新人メイドのリュックもその手伝いをしていた。

 トーマスは昨夜、余りにも凄惨な現場を観てしまった彼女に声をかけた。


「リュック。ご気分はいかがですか? 昨夜は恐ろしい光景を観てしまって、気を失ってしまったから」

「正直……まだ恐怖で足が竦みそうです。……確かにあの処刑されてしまった人は私達を虐めていた。だけど、余りにも度が過ぎる復讐はかえってジャンヌ様の野望を邪魔するのではと……」

彼女ジャンヌはそれを全て承知の上であのような事をしたのです。そうしなければあなた達が死ぬ事になる。──理不尽ではありませんか」

「トーマスさん」

「ジャンヌ様はその理不尽に虐げられる人の味方ですよ……」

  

 そんな会話の最中に血相を変えた人物が慌ててトーマスが仕事をしている部屋に駆け込む兵士がきた。

 何か起きたらしいですね……。彼はそう悟る。


「トーマス樣! ただいま、他の街の住人がヘリオトロープの門の前で倒れてしまいました。思わず保護をしてしまいましたが、ジャンヌ様に報告をお願いできますか?」

「よろしいでしょう。すぐに報告をします。ちなみに男性ですか、女性ですか?」

「男性ですね。でも全身に傷がありますので……」

「何かあったのでしょうな。保護をした男性は何処にいますか?」

「とりあえず身体を休める病院にて治療を受けております」

「リュック殿」

「はい」

「これらの書類の確認を終えたらジャンヌ様に提出を。やらなければならない事が増えましたから私はジャンヌ様の所へ行ってくる」


 ジャンヌが住む所はけして華美な造りではないが、しっかりと領主の屋敷の貫禄は感じさせる造りになっている。

 部屋割りは指揮官クラスの人間やエルフは屋敷にて個室を与えられて、それぞれの自由時間を謳歌している。

 もしくはデスクワークをこなしているだろう。

 ジャンヌは戦いに出ない時は鎧を外して、そこでは露出が少ない長いスカートと長袖の服を着ている。その姿は気品に溢れており、領民も気品ある彼女に希望を持っているのだ。

 程なく彼女の部屋に入るトーマス。

 木製のデスクで書類の確認をしていた彼女にトーマスが報告を入れた。


「ヘリオトロープに逃げ込んできた男性が傷だらけで保護されている?」

「──はい。ジャンヌ樣」

「偶然で来た訳ではなさそうね、その男性」

「理由はあります、きっと」

「今は手厚く看病をしております。彼が話をできる状態になったら、話に耳を傾けるのもよろしいかと思います」

「そうね。気になるわ、私もね……」


 そうして手厚い看護を受けて約2日が経過すると、話せる状態にまで回復した男性が、領主の館にてヘリオトロープに来た理由を話す。


「俺が来た街は無法者の街、ラヴィアンレーヴという街です。そこでは独自の法律があるんです。例え、どのような罪を犯そうと3日間逃げ切った者は罪には問われないという法律です。ラヴィアンレーヴだけに通用する法律ですが……」

「あなたがここに来たのは罪を犯したから保護してほしいということ?」

「違います。俺は被害者だ……眼の前で父も母も領主に逆らったから、それだけで殺されたんだ! 奴はその間、三日三晩、姿もくらませやがって、無罪放免になった! それが俺には納得ができない!」

「──だから、いっそのこと、ヘリオトロープ軍にあの腐った街を襲って欲しいから来たんだ……」

「話の辻褄は確かに合うな、許せない心も判る。彼は間違った道理を言ってはいないよ」

「──そうですね、私めもそう考えます」

「メリットはあるかしら?」

「ジャンヌ、そこでメリットの話をするのか?」

「無法者の街という事は無法者しかいないって意味でもあるんじゃない? 我々の兵士達に身勝手な出陣はさせなくないのよ」

「混沌の盗掘団なら何か情報があります」

「彼らは何処にいるの?」

「恐らく集会酒場でしょう。専ら、そこで活動をしていると聞きます」

「リーダーのジョン・インディーズを呼んでくれないかしら? 直接、話を聞きたきわ」


 そして15分が経過すると、混沌の盗掘団のリーダー、ジョン・インディーズがくる。

 渋い大人の男の空気を纏う冒険家で、他所の街の情報も持っている。

 彼はこう無法者の街を説明する。


「攻め込む価値はあると思うぞ。あの街の領主の屋敷の地下にはそれまで圧政と見逃してやる免罪符として納金された金がごまんとある。難民キャンプの人達に天井のある仮住まいは作れる程の金だよ」

「あれだな、奉納金のようなものだな。金さえ支払えば逃げられるんだ。三日三晩、その間、何処かの領主と繋がる筋に頼めば無罪放免にはなれる道理だ」


 ジャンヌは少しため息をつくと、トーマスに命令する。


「スカーフェイスに探らせてちょうだい。その金の在り処とどの程度の戦力なのかを知りたいわ」

「了解致しました」


 とりあえずスカーフェイスの報告待ちになり、そのスカーフェイスがラヴィアンレーヴから帰ってきたのは4日後の事であった。


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