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7話 命乞いと冷淡な事実

 ダンディリオンの領主は余りの痛みに耐えかねて、とうとう命乞いを始めた。

 頼む、殺さないで、助けてくれ。

 もう領民に対してあんな態度はしない。

 頼むから、助けてくれ。

 その言葉一つ一つにヘリオトロープの死刑執行人達は終始、冷淡な事実を並べるだけだ。


「もっと気持ちを込めて言ったらどうかしら? 自分だけ助かろうなんて思っているでしょう?」

「そ、そんな事ない……!」

「そんな事、あるのよ? 貴方の人生が語っているわ」


 ジャンヌは喉が乾いたのかコップの水を飲んで冷淡に答える。

 

「助かりたいなら民衆に乞うたらどうかしら?」

「た、助けてくれ!」

「何を言ってるんですか? 私達の事を助けてくれなかったのに都合良く助けて貰おうなんて吐き気がする!」

「せいぜい、命乞いして謝罪してくださいね。無駄だけど」

「ダンディリオンはジャンヌ様に治めて貰った方余程良いし」

「ね? 無駄でしょう? 冷淡な事実ね」


 晒し台にダンディリオンの領主が晒されて、それを嘲笑う。こんな時が来るとは思ってなかった領民は思い切り嘲笑う。

 そうだ。こいつにされた事を全部死に際に思い知らせてやる。世界は冷たく、そしてそれを軽く見てきた奴はこうなるんだ。

 死ね、死ね、死ね……!!

 呪詛のように渦巻く「死ね」の声が領主の心に直撃する。

 

「皆さん、お待ちかねのお涙ちょうだいタイムでも始めましょうか」


 そこにスカーフェイスから連れて来られた愛妻が登場した。

 世間では"色ボケヤリマンクソ女"と叩かれている。レストランの経営にしろ、酒場の経営にしろ、たったの3ヶ月で破綻させるセンスの欠片もない人物で、世間一般では金目当てで嫁になったからあんなクソ老人にも濡れるんだろうと言われている。

 一丁前に涙を流して夫を赦してあげてくださいと懇願する。

 周囲の空気は、それに対する憎悪で渦巻く。

 ふざけるな、お前も一緒に死ねよ!

 死ね、死ね、死ね、死ね──!

 呪詛のようなそれはこの妻にも向けられた。

 

「あら、皆さんは貴女にも死んで貰いたいようね。夫婦仲良く死ねるなんて羨ましい事……」

「そんな! 死にたくない……! でも夫は助けてください……! 何でもしますから」

「何でもする? じゃあ、男性達に体を売りなさい。金になるならね」

「そうだ! 売女のてめぇにはお似合いだろー!」

「クソ売女! てめぇの体なんか抱きたくもねーぞ!」

「さっさと死ねや! クソが!」

「そ、そんな……ひどい……」

「ひどい? てめぇが言う言葉か!? てめぇに似合うのは「私も死にます」だ」


 ジャンヌは怒りに狂う領民にせめてもの復讐の機会を与える。

 様々な凶器を用意してみた。

 バット、ナイフ、剣、鞭、あらゆる凶器が揃う。一撃ずつ好きな所を嬲っていいと言われて、すると皆はそれぞれ本当に一撃ずつ見舞ったのだ。

 バットで顔を殴られ、ナイフで華々しい髪の毛を坊主にされ……、剣にて浅く体を引き裂かれる。鞭で縛られ何人かの人間に凌辱され……まさにディストピアな仕打ちだった。

 眼前で繰り広げられるそれにダンディリオンの領主は気が狂いそうになる。

 血と罵詈雑言で支配されたショーは佳境だ。


「いい悲鳴」

「ざまあみろ、クソが」

「もっと血を流せ、もっと涙を流せ……!」

「足りないな。血を流せよ! もっとだ!」

「俺達の受けた苦しみはこれ以上だからな」


 一方で辟易としている人物達もいる。


「いくらなんでもやり過ぎだと思う」

「もう許してあげて」

「これくらいでチャラにされるの悔しくないの?」

「でも……あんな血が……」

「私は許さない。もっと苦しめた方がいいよ」


 でも、ヘリオトロープの死刑執行人達が怖い──。

 あの人達には人の心が……。

 この地獄では【人の心】など必要ない。

 必要なのは修羅の心、人を殺しても些かの良心も持たぬ非情な心だ。

 ジャンヌはそれを見事に体現している。

 血に塗れた愛妻から生き血を取ってグラスに汲んでやった。

 当然、毒薬もたんまりと盛ってある。

 

「愛する者の血のワインでもいただく?」

「そ、そんな、血を飲むなんて」

「飲んだ方がいいと思うわよ。眼前で強姦されるかもだし」

「嫌……嫌っ、レイプなんて……嫌っ!」

「じゃあレイプして貰おうかしら。誰かやりたい人はいるかしら!?」

「萎えるなあ、この相手は」

「俺は遠慮するよ」


 スカーフェイスとレムリア・エリオットはすかさず断りの言葉を発した。

 流石にこのショーもやり過ぎだろうとエリオットが進言してくる。


「そろそろトドメを刺した方がいいかもな」

「見世物にもならないなんて無能ねえ」


 ジャンヌは血まみれの領主の愛妻に向かって近寄ると非情な宣告をする。


「せめてもの手向けに死に方を選ばせてあげるわ。タリアにナイフで切り刻まれるか、シャルルの弓矢で射抜かれるか、ジョアンの剣でバッサリ斬られるかを」

「リクエストでも乞おうかしら?」

「タリア姐さんにやられろ」

「シャルルさんの罵声を聞きながら死にやがれ!」

「ジョアンさんならあっさり死なせてくれるよ」

「せめて、楽に死なせてください……ジョアンさん」

「私? 良いわよ」


 だが思う所のあるジョアンはやはり楽には殺さない。手元をワザと滑らせて、腕から斬り捨てた。真っ赤な血が夫の領主にかかる。

 叫びをあげる愛妻にジョアンは軽く謝罪する。


「手元が滑ったわ。ごめんなさいね」

「焦らしてくれるぜ、ジョアンさんも」

「次はきちんと斬ってあげるわ」


 ワザと外して首を中途半端に斬り裂く。バアッと血が噴き出して、既に辺りは血の匂いで噎せ返る程になる。

 そうしてようやく事切れる。

 そして、トドメの時がきた……。


「おまたせ。楽しんて頂けたかしら?」

「お前らには人の心は無いのか⁉」

「詭弁ね、あなたの言葉は。詭弁で塗り潰された領主様……お眠りになってね」


 そうしてジャンヌは背中を向けて歩き出すと、タリアのナイフとシャルルの弓矢でみじん切りにされる。

 せめてもの手向けに捧げられた真っ白な薔薇は彼らの血で紅く染まった。 

 骸と化した肉体は誰にも葬られる事もなく、何処からか死肉を好むカラスがきて、屍肉を貪られ、血に塗れた肉塊として何処かへ連れ去られたらしい……。

 こうして死のパーティーは閉幕を告げた。

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