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5話 囚われた領主

 ダンディリオンのスラム街に住む人々は不思議に思っている。

 てっきり自分達もあの地獄の業火に焼かれるものと思っていたが攻め込んだ奴等は一気に城壁へと取り付き、破壊してあのムカつく金持ち共の区画へと攻め込んでいった。

 その少し前からは赤い飛竜が空中から火炎を吐いて街を火の海に変えて、時折、人間が殺される悲鳴が聴こえてくる──。

 彼らは一体、どこの街の軍隊なんだ?

 すると赤い飛竜が彼らの頭上を優雅に飛んでいく所が見えた。その飛竜に跨る騎士の身に着けている紋章を観た一人がどこの軍隊かを思わず叫んだ。


「あの薔薇の紋章は──希望の街ヘリオトロープの紋章だ! つまりヘリオトロープ軍がここに攻め込んだんだ!」

「最近、目覚ましくその勢力を拡げる街か」

「こんな大した価値のない街を制圧してどうするのだろう……」


 彼らスラム街の者達はそそくさと家に入った。どうせ、他の街の奴等も自分達を食い物にするだけの力に支配された蛮族だ……。

 

 その頃、赤々とした光が闇夜を引き裂く戦場では、ヘリオトロープの兵士を金に物を言わせてどうにか懐柔しようと躍起になる金持ちを槍にて突き刺して血祭りにあげるドラゴンライダー達がいる。

 全く、どいつもこいつも金、金を出すからと枕詞を添えて自分自身だけ助かろうとしている。こんな奴らには槍を突き立て無力を思い知らせるに限るんだ。

 ドラゴンライダーの騎士達は血まみれになった槍を観てもっとこいつらを凌辱してやりたいという衝動に駆られる。

 とある街の一角では、金に任せて命乞いをした父親が眼の前で惨殺され、残る母親と子供達のみになった家族がいた。眼の前のドラゴンライダーに殺されたのだ。

 

「お願い……命、命だけは助けて……っ」

「お前らにな、命乞いする資格なんざねぇんだよ。スラム街の奴らを食い物しているようなクソはな!」

「そ、そんな。私達はそんな事、してない……!」

「はぁ!? この期に及んで嘘か。もういい、死ねよ……!」


 騎士の槍が母親の胸へ突き刺される。

 眼前で母親を惨殺された子供は泣くことも忘れてもはや目の焦点が何処にあるかも疑わしい。

 

「残ったのは子供か……すまねえが死んでもらうぜ」


 ダンディリオンの金持ちは全員皆殺しにしなきゃ俺の心が許せねえんだよ……。


 同じ時間、ダンディリオンの領主の屋敷では、杜撰な城壁にて簡単に屋敷への侵入を許した領主によるヘリオトロープの指揮官達への侮辱的な言葉が飛んでいる。


「よくも抜け抜けと儂の街へ攻め込んでくれたな! 愚か者共め!」

「こんな杜撰な城壁を作っていい気になってるあなたが馬鹿なのよ」

「あなたに恨みを持つ人間は実に多い事、多い事。余程、治世は良くなかったんでしょうね」

「何を──すべて、間抜けな領民のせいだ!」

「へえ。あなたが囚えられた事も間抜けな領民のせいって事? じゃあ、一度、間抜けな領民に殺されるがいいわ」

「ねぇ? ジャンヌ、殺し足りないんだけど。その辺の奴らを殺してきていい?」

「アタシもまだまだ嬲り足りたいねぇ」

「仕方ないわね。貧民街の人達にまで手を出しちゃだめよ。あくまでも街の金持ちだけになさいね」

「……ふん。下世話なヘリオトロープめ」


 領主が囚われている癖に毒を吐いた。

 すかさず、エリオットが冷徹な言葉で領主の傲慢をなじった。


「領主殿。あまり毒を吐くと後で痛い目を見る。あっさり殺されたいなら口を閉じている事だ。そうじゃないとアンタの解体ショーをジャンヌは開催して笑い者にするだろうよ」

「それ、いい考えね。参考になったわ。後でじっくりと嬲り殺してやるから覚悟なさいな」

「クソっ、あの女には情けと言うものは──」

「それ以上、情けという言葉を使うな。貴様の口から言われると胸糞悪い」


 言いながらナイフで領主の太腿を刺すエリオット。領主の叫び声が聴こえた。


「ふふ、余程、今の言葉はムカついたようね。あのエリオットが事に交わるってなかなか無いわ」

「私に事を及ばせないでくれ。貴様は後のメインディッシュなんだから」

「グハッ」


 領主は両方の腕を騎士達によって羽交い締めされている。猿ぐつわもできない事は無いがこの領主の人と成りを暴露するには口は自由にさせておいた方がいい。

 その言葉、一つ、一つが自らを地獄の死刑階段を一歩ずつ登らせる事だからだ。

 囚えた領主を見世物のようにして凱旋するヘリオトロープ軍は一時的にダンディリオンの貧民街の人々への食糧の振り分けもする。

 

 凱旋してきたヘリオトロープ軍を観たリュックはその目で観た。自分自身を、そして両親を苦しめた元凶が磔にされて見世物のように辱めを受けている。

 磔にされた領主はそれでも横暴な言葉を募る。どれもこれも貧民街の人々を馬鹿にする言葉だった。

 しかし、それが己の身を滅ぼす事にまだ気づいていない。

 これから世にも恐ろしき死のパーティーがされる事に気付いていないのであった。

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