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3話 初陣、ヘリオトロープ

 新人メイドのリュックを連れて執事トーマスが初陣をするべく領主ジャンヌが出撃準備に追われる部屋へやってくる。

 リュックの目に写るのは粛々と出撃準備に追われるヘリオトロープの軍団の面々だった。主力戦力とされるメンバーは女性騎士ジョアン、冷血なる弓使いシャルル、世にも恐ろしき殺人鬼タリア、男性では冷徹な技術者レムリア・エリオットと工作員スカーフェイスがヘリオトロープの街の主力戦力とされている。

 彼らはそれぞれ軍団を率いる長でもあり、その他にもヘリオトロープの為に身を捧げる事を決意した兵士達がいる。

 女性陣はやや好戦的な性分の戦士が多く、男性陣はむしろ冷徹な人物が多い。

 ちなみに民衆からはジョアンはかなりの好感を持たれており、シャルルやタリアはむしろジャンヌにその能力を買われた人物達である。彼女らは生前も凄惨な人生を送っているので民衆からも強さこそは認められど、その精神は恐怖の対象にされる事もある。

 彼女達はしかし、民衆の評判には常に疑いの視線を持っているので、そのような水物の評判には一切の興味はない。それよりも戦場にていかに相手を屠る事かに全力を尽くす。彼女らには戦場に漂う生き血の匂いこそ好ましい匂い。それは地獄にて争いを宿命付けられた者達の証かも知れない。

 

「トーマスさん、この方達は?」

「我が国ヘリオトロープが誇る精鋭の軍団長達でございますよ。彼らは領主ジャンヌ様の理念に共感して頂いたヘリオトロープの希望。彼らとジャンヌ様が旗印となり、兵達の士気を上げ、そして他の領主が納める国をこれから制圧していくのです」

「ジャンヌ様は一体、この地獄をどうされるおつもりなのでしょうか?」

「ジャンヌ様が目指すものは一つ。この地獄を治める神を殺す事。それがこの大地にて皆が安心して生きてゆく為には必要なのです」

「……転生した先が地獄というのも嫌な話ですよね」


 リュックは顔を俯いて暗い表情を浮かべる。彼女も生前では生きる為に盗みを働いたり、体を売ったりしたので、その罪を問われてここにいるのかと考えた。

 導かれた世界は生前よりも酷い環境だった。平然と殺しも強姦も窃盗もされるディストピア。その世界には信じられるものなどないように見えた。しかし、そこであのジャンヌという女性が希望をくれた。

 そしてヘリオトロープという『希望の街』へ移民する事もできた。

 そのヘリオトロープは今、これからとある街を攻めるべく出撃準備に追われている。

 それにしても。

 ヘリオトロープの希望と呼ばれるこの人達すら地獄に堕ちたという話はリュックは納得がいかない。

 特にジャンヌやジョアンはまさに騎士の鑑のように見えるし、そんな人達が何か生前で大罪を犯したのであろうか? とてもそんな事をするようにはリュックには見えなかった。

 執事トーマスも、その物腰の柔らかい態度からはとても地獄にて暮らすような人柄には見えない。姿も温厚な紳士そのもので、言葉遣いも丁寧だ。

 一体、この人達は生前ではどのような人生を辿り、そして地獄にてジャンヌに出逢ったのだろう?

 そんな風な想いを巡らせていたら、そのジャンヌが出撃前の兵士達への鼓舞の為に、その姿を現した。深い青の騎士の衣装を着ている。腰には細身の剣が下げられており、髪は美しい金色の長い髪の毛。凛々しい青色の瞳は活気に満ちている。

 彼女は背筋を伸ばし、整然と並ぶ兵士達を前に出撃の前の音頭を取る。


「これから我々はこの地獄の覇権を取る為の橋掛かりとなる拠点の確保に乗り出す。まずは初めに隣国、ダンディリオンへと攻め込む。ダンディリオンの戦力は我々と同等程度の相手だが、初陣の相手として申し分ない戦力だ。希望の街ヘリオトロープに集いし勇敢なる兵士達よ! 私に続き、勝ち鬨を挙げよ! そして神を殺す為の第一歩を共に踏み出そうではないか!」


 兵士達はそこでジャンヌに対して、そしてヘリオトロープの繁栄の為に拳を振り上げ、そして合い言葉のフレーズを唱えた。


『我らが希望の街、ヘリオトロープに希望と平和と栄光あれ!』


 新人メイドのリュックは兵士達の背後にて執事トーマスと共にその風景を静観している。

 兵士達は剣士なら剣士隊、弓兵なら弓兵隊と別れて並んでいる。騎馬隊も見受けられる。少数ながら竜に乗るドラゴンライダーも見受けられた。

 適度な緊張感が張り詰める出撃前の音頭で鼓舞をされた兵士達は、それぞれの軍団長の話に耳を傾け、そして希望の街ヘリオトロープの闘いが始まろうとしている。

 

「──では、我々も我々の役目を全うする事にしましょう。行きますよ、リュック」

「は、はい」


 執事トーマスは出撃前のチェックをするジャンヌに近づく。


「ジャンヌ様」

「トーマス。街の警備はお願いね。一応、スカーフェイスにももしもの時の為に待機させるけど、初陣だし何が起きるか判らないからね」

「──はい、御安心してダンディリオンへと攻め込んでください」

「──ジャンヌ様」

「一度、ゆっくりと話したいわね。でもこの初陣の日は今日と決めていたから。しっかりとトーマスの言う事を聞くのよ? 彼は私も信頼している執事だから」

「ご無事をお祈りしております」

「……ありがとう、リュック」

「ジャンヌ様。全軍、進軍準備、完了です」

「全軍、ダンディリオンへと進軍を開始せよ!」


 真夜中のダンディリオン攻略戦が開始された。

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