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2話 闇の精霊シェイド

 ヘリオトロープの貧民街と呼ばれる場所の広場にて朝の炊き出しが行われている。

 命からがらに昨夜、ジャンヌに助けられた親子連れはその炊き出しの料理を食べている。

 じゃがいもと人参とキノコのコンソメスープだった。後は一切れのフランスパン。

 彼らはそれらを食べながら昨夜、助けてくれた命の恩人、ジャンヌに恩返しができないかを考えている。

 この街の兵士は無理かも知れない。でも、何か手伝える事があればそれで恩を返したい。娘のリュックもそう考えていたらしい。

 朝食中にその領主ジャンヌが広場に姿を現した。気品ある青色の服。長いスカートの内側の脚には黒いタイツを着ている。

 彼女は一人ひとりに話を聞いて回り、この街の直して欲しい所を気軽に教えて欲しいと穏やかな笑みを浮かべて話してくれた。

 何て距離の近い領主様だろうか──?

 他の領主は自分自身だけの利益しか目がない領主だった。特にこの親子連れのいた町【ダンディリオン】は最低の領主が我が物顔で君臨している。

 尊敬の眼差しで、眩しいものを見つめるように彼女を見ると不思議なものが微かに見えた。敢えて表現するなら精霊……それも真っ黒な色をしている。気のせいだろうとまたフランスパンにかじりついた。

 そうして領民への挨拶を終えると彼女に付き従うとある精霊が挑発的な声でジャンヌに話しかける。


「領民共と接している時のお前と敵を前にした時のお前のギャップには驚くぜ〜」

「昨夜の野盗との戦闘は実に愉しそうに人を殺して殺しまくったな! ジャンヌ」

「うるさいわね。か弱い子供連れの母娘に手を出す野盗が悪いのよ。まあ、野盗じゃなくても殺すけどね」

「そういう正義の味方面をしていないお前の精神は居心地がとても良い──。良かったじゃねーか、ジャンヌ。この世界では人間も化け物も殺したい放題だぜ」

「──嫌な世界ね。何でも許されるのは悪くないけどね、息を吸って吐くように殺しは、したくないわ」

「ふん。詭弁に聞こえるな。お前はただこの世界に復讐したいだけなんだろう?」

「──違うわ。私はただ、この冥界の仕組みが気に入らないから自らの手で作り替えたいだけよ」

「そりゃあ大層な目標だな。俺はそういう矛盾した心に惚れてお前に取り憑いているからなぁ」


 昨夜の野盗との闘いではジャンヌも人を無条件で殺せる事に歓喜していた一人だった。

 何故ならジャンヌも過去世にて迫害を受けた末に世に未練を遺して逝った後にこの冥界【ハーデスの庭】に導かれた者の一人だ。

 だから、この地獄では人に危害を加えようとする奴等は即刻で剣や槍で引き裂いて殺してきた。

 今更、そんな重罪を犯した女に与えられた世界はディストピアな絶望の世界。

 そこでは、殺しもしていい、盗みもしていい、何なら人を食い物にしてもいい。その為の代償となる生命を奪われる覚悟さえあるなら、何でもしてもいいのだ。

 そこが歪んだ正義で曲がり通っているが、地獄にはそもそもそんな正義などというカビの生えた考え方は受け入れられない。

 

【所詮、この世は弱肉強食。弱いものが死に、強いものが生きる】


 闇の精霊シェイドはそれを本質的に解っている稀有な存在だ。だから、ジャンヌと共にいる。彼女には薄っぺらな正義など持ち合わせていない。強さが必要なら殺しも厭わぬ人物だ。

 苛烈な性格だが、領民には信頼が厚い。

 彼女のヘリオトロープにいる時の表情はまさに地獄の【聖女】そのものだった。

 だからこそ、今はこの自らの街ヘリオトロープから一個でもいい。支配地域を広げたいのが目の前の任務であった。

 

 領主の部屋に戻るとジャンヌに面会したいという少女がきた。

 まだ12歳になったばかりかの女の子。彼女も当然、この世の者ではなく死んだ者だ。

 だが、地獄では生きている人間として見られる。ジャンヌはその女の子に面会をする。


「私に面会したいって、どうしたの?」

「ジャンヌ様。あの……私を雇ってください!」

「雇う?」

「私と母親を救って頂いた御礼に雇って頂きたいんです。メイドとしてもいいので」

「──この屋敷はそこそこ物騒な者達が出入りしている屋敷よ? 怖くない?」

「怖い……怖いです。でも! 皆さんの側でジャンヌ様のお役に立ちたいんです」


 そこに領主の屋敷の執事トーマスが進言してきた。

 

「ジャンヌ様。ここはやらせてあげたらいかがでしょうか? やる気に満ちていますし、前線ではなくて生活の手伝いをさせてみると宜しいのではないでしょうか?」


 暫く、考えた後にジャンヌは付け加えた。


「教育はトーマス、貴方がするのよ? いいわね?」

「はい。ジャンヌ様」

「作戦会議の時間よ、ジャンヌ。行きましょう、会議室へ」


 ショッキングピンクの鎧の見目麗しい女性騎士がジャンヌを呼んだ。

 ジャンヌは忙しく会議室へ消えていった。


「あの……私、採用されたのですか?」

「はい、そうですよ。それではまず、初めの一週間は私めの補佐として仕事をしましょう」

「お名前は?」

「私の名前は……リュックです」

「宜しくお願いしますよ、リュック」


 ジャンヌの身近な人物にリュックが加えられてジャンヌの物語はとある街への攻略戦に移行する。


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