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1話 地獄の底の希望

 その世界に導かれた者達は皆、こう後悔する──。


『生前の生にてもっと自らを大事にしてやれば良かった……』


 だが、その後悔をする事にもう遅いという烙印を押される世界がここにあった。

 そこは冥界【ハーデスの庭】と呼ばれている。

 ハーデスの庭ではあらゆる悪事が息をするように行われている。窃盗は勿論、略奪、殺人、麻薬に、賭博に、汚い金儲け。売春、買春、不倫は勿論、三角関係に、恋愛沙汰絡みの殺人も──。

 周りを観ても絶望しか感じないそこに、とある一つの希望の町がある──と夜通しで子供を連れた女性達が、漆黒の闇の世界を質素な服を纏い歩いている──。

 彼女らはいつどこで襲撃者に襲われるか判らないので『希望の町』を見つけるまで休む訳にはいかない。子供がいくら歩き疲れたと懇願してもだ。

 大体、その親子連れの団体は子供の数を入れても15人程の団体で、しかも警護する男はいないように見えた。こうなってはもう遅い。

 欲に目が眩んだ男達の凌辱の時間が始まってしまう……。彼らの下卑た笑い声と共に略奪に遭遇する親子連れの団体。

 

「お願いいたします! どうか、子供達は──きゃああ──っ!!」


 一人の母親は野盗にあっさりと斬り捨てられた実の子を殺害されて叫びを上げる。

 野盗の握るナイフには生々しく子供の血がこびりついていた……ポタポタと滴り落ちるそれは、次の獲物をその母親にする。

 他の野盗も、子供達が軒並み殺されていくのが光景としてあった。そして子供を失った女への凌辱と言う名の強姦が始まりそうになっている。


「誰か……誰か……助けて──っ!!」


 何時もなら助けを呼んだ所で誰もが無視をして通り過ぎるようなそんな世界。

 野盗達は愉快げに助けを呼んだ女性を馬鹿にする。 


「バーカ。助けを呼んでも、このハーデスの庭ではだーれも助けに来ねぇよ。残念だったな!」

「俺っちと、気持ちいい事をしようぜ〜」


 そんな時だった。

 下卑た男の頭に鋭利な矢が刺さり、漆黒の地面にどす赤い血が噴き出して、野盗が倒れる。

 次から次へ、その鋭利な矢は的確に頭を射抜き、野盗の骸が累々と転がる凄惨極まる現場と化してしまった。

 女性達は更に絶望する。

 今度はきっともっと凶暴な人達なんだ──。

 その時だった。


「大丈夫ですか?」


 優しく声を掛けてくれる女性の温かみのある声が聴こえた。

 目の前には、深き青色の騎士の服を纏う凛々しい女性騎士の姿と、野盗を殺戮する部下達の姿があった。

 彼女は連れに女性二人、男性二人を連れて、とある街へ戻る道すがら野盗の群れを退治しているという。 

 彼女らは涙を浮かべて、地獄にも良い人がいることに感動すら覚えた。


「あ、ありがとうございます」

「こんな真夜中での行動は危険よ? でも、その様子だとどうしても行かなければならない場所があるみたいね」

「私達──ヘリオトロープという街を目指しているんです」

「ヘリオトロープ? なら、もうすぐね。私達もヘリオトロープへ用事があったのよ。助けたついでに一緒に行ってあげるわ」

「ありがとうございます。……お名前は?」

「──ジャンヌ、よ」


 ジャンヌと名乗った女性を取り囲む女性二人は鮮やかな銀髪のエルフの女性と、ショッキングピンクの鎧姿が凛々しい若い女性騎士。

 男性の方は、一人は破壊工作や要人警護に適性がある工作員と夜に映える灰銀色の短髪の鋭い目つきの男性だった。

 ジャンヌは助けた親子連れに聞いた。

 こんな夜通しで何故、ヘリオトロープを目指していたのか?

 すると、前の街では散々な目にあったので昼夜を問わず歩いて向かっていた事を話した。

 夜が微かに明けかける頃にようやく到着した街は途中で助けられた女性と子供達が避難を考えていた〝あの場所"だったのだ。


「領主様のお帰りだ!」

「おかえりなさいませ、領主様」

「余りにも遅いから心配してしまいましたよ」


 助けられた親子連れは驚く。

 まさか、目の前にいる凛々しいこの若い女性は──。

 呆然とする彼女らにジャンヌは自己紹介をした。


「私がこの希望の町、ヘリオトロープの領主、ジャンヌよ」


 助けられた女性とその子供達は避難民として受け入れがされる頃に、朝日を模した何かが、世界に太陽が齎される事に勘違いする程に清々しい光がほんの数時間だけ、当たる。

 

 この物語は、悪役令嬢と烙印を押された女性、ジャンヌによる冥界の神殺しを目指して闘うヘリオトロープの住人の物語である──。

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