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9話 無法者の街の事情

 無法者の街ラヴィアンレーヴから無事に帰還を果たしたスカーフェイスが領主の館に戻ってきたのは4日後のこと。  

 空いていた時間は彼の潜伏期間でもあった。敵情視察と敵軍の戦力を削る事を主任務にするスカーフェイスは、佇まいは大人の男そのもの。レムリアとの差異は、色気は同じようなものだが、無闇に体の関係までは踏み込まない、そこだった。 

 言葉遣いは理性的でジャンヌにも間違っていると考えるなら意見は通すし、忠告もする。

 国の利益と己の正義感を天秤にかけるとしたら恐らくは己の正義感を重きに置く、それもスカーフェイスの意志である。

 その彼が戻ってくる。

 彼が戻る間に両親を殺された人物にかなりの部分を掘り返して聞いた。

 ラヴィアンレーヴは確かに三日三晩逃げ切れば、どのような罪でも無罪放免になるのは事実としてある。その街のルールだった。唯一のルールとでも説明できる。  

 そしてヘリオトロープ軍はその間に兵士への出陣の準備はさせておいた。

 整いつつある場にスカーフェイスからの報告が彼自身から話された。


「スカーフェイス、まずは御苦労樣」

「凄い殺気の漂う街だったな。空気が張り詰め過ぎて心臓が締め付けられる気分だ」

「ラヴィアンレーヴはいつもそうなんだ。皆が皆、疑心暗鬼に囚われていて、妙な真似をしたらチクってやると疑っている」

「その青年の話は本当にあった。まあ、上手くできたシステムだな」

「どんな感じなんだい?」


 シャルルが興味を持って取っ掛かりの会話をした。

 スカーフェイスの説明は続く。


「指差組という制度がある。例えば、国に対する反抗的な態度を役人に話せば褒賞金、そういった奴を捕まえると褒賞金、要はラヴィアンレーヴに対する忠誠を誓えば褒賞金も出る。しかし、逆にしがらみになる。もし、誰かが国に対する背信をしたらその時点で捕えられ家族、恋人、知人に至るまで拷問と殺しが待つ。スパイ行為も背信になるし、悪口や文句もそれに入る」

「業者ができるのも納得だ。青年が言うには罪を犯した者を匿う筋の業者もいると聞いた」

「その業者とやらも恐らくは指差組の徒党には入っているだろうな……」

「肝心の金の流れも指差組が貢献してる」

「どんな風に?」


 ジャンヌがそこで質問した。

 ここからがジャンヌにとって肝心の要になる。


「指差組に流れる褒賞金は殆ど実はないも同然なんだ。全てが特権階級の奴らにいくように仕向けられている。豪華な車に銃火器、宝石、爆弾、果ては領主の欲望を満たす物にまで流れている」

「逆を言えば、特権階級の奴らを潰せば金の流れは変えられる?」

「いっそのことシステムを破壊するのも手だとも考えるには値するな」

「俺たち、ヘリオトロープの噂も指差組の奴らには知られている。ヘリオトロープの事を攻め込む算段はまとまっているかもな」

「私が言うのも妙だけど歪んでいるわねえ」

「タリアとかシャルルはその制度は許せないと思うよ、私は」 

「ジョアン、判っているじゃない」

 

 ダークエルフの弓使いシャルルは、その指差組に似たような奴らに撲殺されて、【ハーデスの庭】に堕ちてきた。自分自身をそのような目に合わせた奴らの同類は自分自身の敵だ……!

 

「報告は以上だ。この程度の情報しか得られなかった、すまない」

「大丈夫よ、いいデータを得られたから」

「だいぶ厄介な都市だね、ラヴィアンレーヴは」

「こちらに軍隊が来ている様子は?」

「見張りの報告では特段様子は変わらないと」

「無法者の街というよりも、指差組の街と表現すると間違いないけど、重要なのは金を奪取できるかね」

「後は銃火器やその他の物資も豊富にありそうだ」

「経済的にも特権階級の奴らにとっては金を掃いて捨てる程にあるからな。掃討すれば流れるんじゃないかな、他の国にも、うちの国にも」


 ではまずはメスを入れないとならない。

 歪んだ膿を吐き出す為のメスを。

 

「今回は指差組のシステムを逆に利用してみましょう。のシステムは要は背信に値する者を処分する仕組みよね。内部から混乱させて特権階級の奴らは必ず利益が担保できないなら動くわ」

「そして筋の業者に逃げる事を企む」

「業者に頼まなくても奴らは無益だと察知するのは異常に速い。金塊とかに変えてるかもな」

「それを襲撃する。これはでも餌を撒いているだけね」


 ラヴィアンレーヴから来た青年には話の筋が見えなかった。どういう事をするつもりなんだ?


「ヘリオトロープの仕業と奴らが騒いだら、後は堂々と戦力を投入して殲滅するだけよ」

「撒き餌作戦だな」

「こちらの仕業だろうと向こうが指を差したらそこでラヴィアンレーヴは必ず潰すわ」

「大義名分がこちらにある。攻め込まれたら守備をする道理はないでしょう?」


 その戦力が投入されると同時にラヴィアンレーヴの近くに布陣した別動隊が速やかに領主暗殺か捕らえる仕事をする──。

 領主が瓦解すればそこの歪んだ膿を吐き出す事がいくらかはできる──。

 間もなく作戦会議が開かれ、そして指差組を利用した作戦は決行された。

 そっと、毒を仕込み、じわじわと回る毒を知らないままに指差組は傀儡のように動く。

 

 本当に自分はヘリオトロープに逃げ込んで良かったのだろうか──?

 青年はラヴィアンレーヴよりも恐ろしい悪魔の治める国へきた事を心の隅で後悔した。

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