track.9 アルティメット・メロディアス
今は激しさをただただ追及する欲求が高まり、頭を車輪のように大回転。
ローリング・ヘッドバンギングをキメる。
勢い余って、私のつむじにくっつけたエクステが外れてしまい、宙を舞う。
エクステはスポットライトを浴びた後、落下してまた私のつむじにくっついた。
でもローリング・ヘドバン中の私の頭に止まることができず、再びエクステは宙を舞い、そして私のつむじへ戻る。
まるでけん玉のように、エクステはその挙動を繰り返した。
後ろでテンションが上がってきた、ドラムスのハゼロは場を更に熱くしようと、叩くスティックを脇に置いて立ち上がり、どこからともなく取り出したウォッカを口に含んで、持っているライターを着火、天井へ向けてウォッカを霧状に吹き出す。
着火したライター越しに吹き出たウォッカが引火すると、まるで神話のドラゴンの如く炎の息を放つ。
刹那、暗がりのライブハウスがオレンジ色に染まった。
ドラムスのハゼロの真ん前に立つ私は、その熱風を頭にもろに受けたけど、それは熱風のせいじゃなかった。
ハゼロの吹いた竜の息は、宙を舞うエクステに引火、燃える火の玉が私の頭に落ちたのだ。
私は思わず「熱つぅ!!?」と悶えながら首を跳ね上げた。
火の玉は打ち上げられた花火のように天井へ飛ぶ。
そしてスポットライトに引っ掛かってしまったのだ。
機材の何に引火したかわからないけど、スポットライトはショートして火花を散らす。
続いて、ライブハウスの防災装置が作動。
天井のスプリンクラーから、消火するシャワーが降り注いだ。
これに会場は阿鼻叫喚のパニックへ。
観客のみならず運営スタッフまでも逃げて行った。
この場に残ったのは、降り注ぐ雨のようなスプリンクラーを浴びながら、尚も狂ったように演奏を続けるリドレスの姿だけだった――――…………。
♪♪♪
その後、ライブハウスには消防車が駆けつけ、外は大惨事に。
SNSでは迷惑系バンドとしてトレンドに上がった。
チケット代の返金、更には会場を水浸しにして機材も水没させたことにより、損害賠償が出てしまい、私達のバンド、リドレスは売れない貧乏バンドから借金地獄バンドへと一気に転がり落ちた。
どうして? 何で?
一ヶ月前までは癒し系歌手を目指して、田舎から都会へ上京したばりの歌い手だったのに、なんでこんなことになっちゃったの?