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track.8 レゾナンス

 演奏にあてられたのは、お客さんだけじゃない。


 私がお客さんの立場なら、このインパクトに頭の中が真っ白となり、彼女達の虜になっていた。


 でも、私も舞台に立つ側。

 このメンバーに張り合わないといけない。

 バンドの演奏に割り込むようにキーボードの鍵盤を鳴らす。

 嵐のような演奏に呑まれた私は、頭を激しく揺らし髪を暴れる馬のように揺らしながら、キーボードを弾く。


 スラッシュメタルの歌手は、楽器に声が負けたら本末転倒。

 私は音の荒波を真っ二つに切り開くモーセだ!


 前奏がゆっくりと落ち着きを見せたスキに、私はスタンドマイクへ歌声を乗せる――――。


《世界を叩け! 世界を壊せ! 消し去れ全ての存在を!!

押し込めるな破壊衝動っ!!!


残酷な世界から生まれた心ない社会(カオス)

従属によって魂を抜かれたブリキの人間。

生産性と引き換えに機械化された人生。

気付けば夢を奪われた機械人形!

他人の夢を笑う機械共。

展望を遮り、希望を砕き、絶望を貪る。

求めよ、社会(カオス)を切り裂く救世主!》


 ベースのビッチがサビでコーラスを入れ、私と(こえ)共鳴(ハモる)


「「世界を叩け! 世界を壊せ! 消し去れ全ての存在を!!

押し込めるな破壊衝動っ!!!」」


《腐れた奴らを根絶やし(エラディケイト)!!

冷徹な社会を征服(コンクエスト)!!

巻き起こせ、絶唱の(メタル・)竜巻(トルネイド)!!


鋼鉄製の社会に風穴開けて夢をねじ込めぇぇええーっ!!!》


 一節を歌い終える頃には、観客は全身でリズムを刻み、表情は輝いていた。

 私達リドレスのメンバーとお客さんが、音を通して一体になった。


 ここからはメンバーのソロ。

 キル姐さんはステージ前方まで移動すると、ターンしてお客さんへ背中を見せた。

 演者として無礼な振るまいだけど、構うことなくキル姐さんは、大胆に明け広げたドレスの背中を見せる。

 小麦色の健康的な肌を見せつけ、客の目を誘惑するように惹き付けた。


 それが姐さんの狙い。

 キルは抱えたギターを持ち上げ、頭を下げて浅いお辞儀をすると、ギターをうなじに乗せ、手元を見ずに指先で五角を踊らせるペンタトニック・スケールを披露――――背弾き(ギター)でオーディエンスを湧かせる。


 背弾きなんて使い古されたパフォーマンスだけど、それをキル姐の色気と掛け合わせて、現代にも通用する技に生まれ変わらせた。


 次に、リードのビッチがキル姐さんと入れ替りで来る。


 キル姐さんの高音のギターから打って変わって、ビッチが奏でる低音で、観客をクールダウンさせた。

 これも次に盛り上げる為の小休止。

 まだまだ、私達のライブは熱くなれる。


 でも、ビッチが演奏するベース姿に、お客さんや運営スタッフだけじゃない、バンドメンバーである私達も驚愕。


 抱っこ紐で抱えられた赤ちゃんが、母親が弾くベースの弦に両手で触れ、上機嫌にギターを鳴らしていた。


 そう見えるだけだけど、まさに親子でのコラボレーション。

 この会場ハコにいる誰しもが奇跡を目撃した。


 いつの間にか観客はヒートアップ。

 刻むリズムもアップテンポに切り替わっていた。


 まだ、まだまだ私たちの音楽は狂える。


 あ~~~~もうっ、ノッてきた!!


 私は頭を八の字に振り回して"ヘッドバンギング"を始め、それに合わせてリドレスのメンバーも全員、首を激しく振りトランス状態へ。

 狂おしいほどのヘドバンで、私たちの髪の毛はもうぐしゃぐしゃ。


 ただ一人、赤ちゃんを胸の前で抱っこするビッチだけは、ゆさぶりっ子症候群による我が子への影響を気にしてか、ヘドバンはしなかった。

 単純に首を振ると、自分のアゴが赤ちゃんの後頭部に当たるからかもしれないけど。

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