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うわばみ

左眼の鰐が最初に動いた。


ギィイイインンッッッ!!!!


振動音と共に八坂琴を神速で振るい、拡大する斬撃でヘビ子達を纏めて両断しに掛かった。

何気無く椅子に座るような挙動で、殺気は無かったが、妖気の高まりとその鋭さから察したヘビ子達はこれを回避した。

反応の遅いプラ子は白蔵主の背に掴まっているので必死になり、トラ子の肩に乗っている小さなグーは反動で軽く吹っ飛ばされそうになっていた。

何もできなかった周囲の妖し市の怪異達は魂ごと斬られ(・・・・・・)滅されていった。ハナ子は影に潜って回避した。

天眼の鰐は何も感じていない様子だったが、ヘビ子達が飛び上がって避けた先に八坂笛の、蠢きビュービューと鳴く影の球を放ち、分解するガスを撒き散らさせた。


「てぇーいっ! だっ」


そうはちぼんは閃光を放ち、ガスを消し飛ばし、影の球の表面を焼いてさらにガスを噴出させるのを防いだ。

ヘビ子達はこれを一斉に攻撃して、影の球を全て破壊した。


「左眼は私が殺るっ!」


ヨモツ子は毒と骨の大剣を造って八坂琴を持つ左眼の鰐に飛び掛かって、鍔迫り合いをしながら、周囲に残存する鰐人間達を衝突と毒の衝撃に打ち滅ぼしながら、その場から吹き飛ばしていった。


「・・生きの良い蝿っ! 贄として、良しっ!!!」


ボォオオオーーーッッ!!! ボォオオオーーーッッッ!!!!


天眼の鰐の影から液状の影の柱が何本も立ち上がり、奇怪な音を鳴らし、再び蠢く影の球をいくつも出現させた。


「カタメ子はそうはちぼんを守るッスっ! あとは自分の得意でやるッスっ!!」


「了解っ!!」


そうはちぼんが蠢く影の球を無力化させ、白蔵主に乗るプラ子と大目玉に乗るメ子が遠距離攻撃で球を破壊。

ヘビ子とグーを肩に乗せたトラ子が沼のようにして影に浸かる(・・・・・)巨体の天眼の鰐に突進した。


「天眼っ!!!」


天眼の鰐は鯨を一呑みにするような巨体で、加速して飛び掛かってきたヘビ子に喰らい付いた。


「ヘビ子っ?!」


「オイぃっ?!」


慌てるトラ子とグー。


「ビックリしたぁっ。アイツ、速いッス」


その背後に出現した穴から冷や汗をかいて出てくるヘビ子。


「無事かよっ」


「驚かせるなっ」


「ニョロ?」


「安心できねぇぞっ?!」


水虎が警告して即、影から噴出した長大な天眼の鰐の尾がヘビ子達を薙ぎ払いに掛かった。

避けるが、尾が大き過ぎる為に烈風を伴い、姿勢の維持が難しくなるヘビ子達。


「ぐっ」


「デカ過ぎるぞぉっ?」


「でもやるッスっ!」


ヘビ子は蛇体化し、直接攻撃では無く見えざるウワバミ達の口で天眼の鰐に攻撃を放ったが、強固な天眼の鰐の鱗を傷付けられない。


「ハハハッ! こそばゆいっ!! よせっ、よせっ」


天眼の鰐の鰐は嗤って長大な尾をメチャクチャに振り回し、大気を乱して、ヘビ子達を翻弄した。



生き残った妖し市の怪異達は完全に霊木の森から逃げ出し、ハナ子と花子軍、増援に来た何組かの他の百番手形達が残存の鰐人間の群れに対応していた。

残存鰐人間達は全て半ば融合し、一つの流動体のようになって襲い掛かる。

花子は縦笛を吹き、鳥の怪異、姑獲鳥(うぶめ)。海の怪異、磯女(いそおんな)。巨顔の怪異、大禿(おおかむろ)。山犬の怪異、狗賓(ぐひん)。を招いた。


「姑獲鳥っ、吹き飛ばしてっ! 磯女っ、押し流すっ! 大禿っ、どーんだよっ! 狗賓っ、変化っ!!」


ハナ子の命に従い、姑獲鳥は羽ばたいて竜巻を起こし、磯女は渦潮を放ち、大禿は強烈な頭突きを打ち、獣面の行者に変化した狗賓は太刀で斬り掛かった。

助っ人に、花子軍も押し返し、融合鰐人間群の勢いを押し留めた。



左眼の鰐とヨモツ子は睨み合いになっていた。毒と骨の大剣は砕けかけている。


「手負蛇、ヨモツ子っ! 殺しても死なないとはお前のことっ」


生憎(あいにく)既に私は死んでいる(・・・・・・・・・)。死人を殺したくばお前も死ねっ!!!」


ヨモツ子は一瞬で毒と骨の大剣を復元させ、左眼の鰐に斬り掛かった。


「怨みがましいヤツっ!」


斬り合いで押し負けると見ると、ヨモツ子は毒と骨の大剣をもう1本造り出し、二刀流で斬り掛かり、力を拮抗させた。

しかし、毒と骨の大剣では八坂琴は砕けず、逆に毒と骨の大剣は見る間に損傷していった。と、そこへ、


「姐さーーんっ!!」


小さくデフォルメされた溝出(みぞいだし)が飛んできた。


「溝出っ! 契約者はどうしたっ?!」


白虎廟(びゃっこびょう)の戦いでリタイアしちまいやしたっ! まだ生きてやすけど、姐さんと組んだ方が上がり目があるかと・・」


卑屈な顔の溝出。


「お前の『死』を私に貸せっ!!」


「おぉっ? へいっ、勿論でさぁっ!!!」


小さな溝出がら、無数の白骨が溢れ出し、ヨモツ子を包み込んだ。ヨモツ子の妖力が増し、大剣は復元し、より刀身を巨大化させた。


「死体同士っ、親しげにするものだなっ!」


左眼の鰐も八坂琴にさらに妖力を込めた。


「生ある者が怨めしいのだっ! 眩しくてなっ!! 求めて止まず私を動かしているっ! ただ主に従いっ、何千年も闇雲に殺戮を繰り返す命無き木偶人形のお前にはわかるまいっ!」


「・・木偶人形、だと?」


爆発的に妖力を高める左眼の鰐。持ち堪えるヨモツ子。


「神の成り損ないの妖怪どものっ、力を掠め盗っただけの人間がっ! 神の奴婢(ぬひ)(奴隷のこと)に過ぎぬ人間がっ!! 私を木偶人形とはっ、増長甚だしいっ!!!」


力任せにガード崩されるヨモツ子。左眼の鰐は勝ち誇った顔でとどめを刺しに掛かった。その瞬間、ヨモツ子は2本のヒビの入った大剣を1本のヒビの入った鋸刃(のこば)の刀に圧縮し構えた。


「っ?!」


動揺した左眼の鰐の持つ八坂琴を纏う『全ての死』を 集めて斬り付けるヨモツ子。激しい衝撃と共に、ヨモツ子は八坂琴を叩き折り、セーラー服も消し飛ばされながらも左眼の鰐を真っ二つにした。

毒と骨の鋸刃の刀も砕け散る。


「・・お前達も成り損ないだろうが」


「姐さんっ、服っ!」


骨で全裸のヨモツ子のあちこちを隠してやる溝出。


「おのれっっ」


左眼の鰐は毒に侵され崩れ去っていった。



天眼の鰐は影の球が無効化されることに辟易し、使役する八坂笛の影を『球』ではなく『浮遊する影の鰐』の形に切り替え、そうはちぼんを殺すことに専念させだした。


「ふああっ?! 食べられちゃうよぉっ!!」


「落ち着けっ、そうはちぼんっ! わたしが固めてポイっ! だっ」


カタメは両手で泥の弾を放って迫る影鰐達を固めて動きを封じ、それをプラ子が炎の矢で撃墜していった。

メ子は直接攻撃する影鰐ならプラ子とカタメ子で対処可能と見て、怪光線を撃たせていた小さな目玉数十個を集め、5つの巨大目玉に変化させた。


「『尾』が邪魔ですねっ!」


5つの巨大目玉から極太怪光線を天眼の鰐の尾に放って打ち据え、動きを封じるメ子。


「ヘビ子っ! トラ子っ! 今ですっ」


「任せろっ、グーっ!」


「冷やすぞぉっ!」


「ニョロ~っ!!」


尾の妨害が無くなり、一気に間合いを詰めたトラ子はグーの力で拡大させた氷の鉤爪で、食い付いてきた天眼の鰐の右半面を切り付けた。


パキィイインッッ!!!!


ダメージ自体はさほど通らなかったが、怯み右の視界を失う天眼の鰐。

その左半面側に出現した穴からヘビ子が飛び出し、フルパワーの蹴りで鋼鉄よりなお硬い天眼の鰐の左眼を叩き割った。


「ゴォアアァーーーッッッ!!!!」


暴れて影から無数の柱のごとき影の槍を噴出させる天眼の鰐、ヘビ子とカタメ子は慌てて距離を取った。


「ヘビ子使えっ!」


「ッスっ」


カタメ子が投げたギター斧を受け取るヘビ子。

これにトラ子は肩に止まっているグーをヘビ子に投げ渡した。


「どぉあぁっ?」


「グーも使えっ!」


「道具扱いすんなよぉっ」


「私と水虎で道を作るっ!」


「任せとけっ!」


ヘビ子はグーを肩車し、ギター斧を構えた。


「頼むッスっ」


トラ子は左腕の水虎と呼応し、妖力を溜めた。


「水虎っ!『ファイナル残虐トラ子スパイラルアクアロード』でゆくぞ?」


笑い掛けるトラ子。


「技名カッコイイな、オイっ!」


トラ子と水虎は筒状の逆巻く水の激流を荒ぶり、影の槍を噴出させ続ける天眼の鰐に放った。影の槍を払いつつ、天眼の鰐を釘付けにする。


「取るに足らぬ下等な(あやかし)どもっ! 八巻きの御方(おんかた)はこの国の影その物っ! なぜ回帰を拒むっ?」


ヘビ子は加速し、グーの冷気を込めたギター斧を構えた。

天眼の鰐は寸でのところでトラ子の逆巻く激流を妖気で弾き飛ばし、ヘビ子に喰らい付いた。


「っ!」


ドォオオッッッ!!!!!


鰐の口の中程から、氷の斬撃が突き抜け、そのまま腰と腹まで斬撃が伝わり、氷のギター斧を振るったヘビ子が、グーを担いだまま飛び出した。


「お前が踏んずけて忘れた虫、ウチは覚えてるッス」


「オラっち達はさ、それぞれ勝手にしたいんだぜぇ? 鰐公っ!」


ビキビキビキビキッッッッ!!!!!


影ごと凍り付く天眼の鰐。


「なんと狭量っ! なんと野放図なっ! 愚劣、極まりなし・・」


天眼の鰐と八坂笛の影は砕け散った。



ヘビ子達に、既に回復したらしくセーラー服を復元させたヨモツ子達が合流した。ヘビ子達も若水を被って回復し、ハナ子達の様子を見ると、融合鰐人間達をほぼ駆逐し終えた様子であった。


「・・片付いたッス、か??」


「他の廟は無事なようだ、早く朱雀廟の結界を」


ヨモツ子が廟の跡の方を振り返りながら話していると、


ドクンッッ!!! ドクンッッッ!!!!


2つの闇の鼓動。


「?!」


左眼の鰐が滅びた辺りと天眼の鰐が滅びた辺りから黒い煙りのような妖気の塊が涌き上がり、合わさり、ダイダラボッチを越える大きさの蛇のような形状を取った。


「デカ過ぎるだろっ?!」


唖然とするカタメ子。


「マズいですね。既に結界の中です」


巨大目玉を近くに集めるメ子。

煙の超巨大蛇の表面に無数の鼻と目玉と口と耳と手が浮き出した。


「あ、僕、こういうの無理」


総毛立つプラ子。


「・・微妙に卑猥だな」


「トラ子」


トラ子へのツッコミを欠かさない水虎。と、


「ベェエエエエッッッーーー!!!!!」


奇怪な咆哮を上げる煙の超巨大蛇。地上のハナ子達が遠距離攻撃を試みだしたが、梨の(つぶて)であった。


「私が」


ヨモツ子が永い年月の後の復活を前提に自爆を申し出ようとしたが、ヘビ子が片手を差し伸べて制した。


「ウチ、貯めてた『魔円の対価』を使うッス」


ヘビ子の発言にカタメ子とメ子が動揺した。


「ヘビ子っ!」


「『亀』を復活させるんじゃないですか?」


「また、ちょっと時間が掛かっちゃうかもしれないッスけど」


蛇体化のままのヘビ子は振り返って微笑んだ。


「オバケは死なないから、大丈夫ッス」


ヘビ子は自分の周りに大量の魔円を出現させて渦巻かせ、光に代えて消していった。

全て魔円が消えた時、光に包まれたヘビ子は蛇体化が解け、蛇の装飾の輝く神将(しんしょう)の鎧を身に付けていた。


「ちょっと火力が出るから皆、近付かないで欲しいッス。じゃ」


「ヘビ子っ! わたしはたぶんお前程長生きできないけどっ、手伝うからなっ!」


「自分はまぁ似たようなもんなんで、また、よろしくです」


「頼んだっ」


「バーンっ! ってやってやれっ」


「頑張ってっ!」


「戦力の余裕はある。無理はするな」


「鎧ピカピカだねっ!」


「俺なんかは苦手な光ですねぇ」


「戻ったら、最近妖し市で見付けたいい店を紹介する」


「トラ子」


ヘビ子は皆に見送られ、上昇していった。ハナ子達も察して攻撃を止める。


「ベェエエッ、ベェエエエエッッ!」


左眼と天眼であった煙の超巨大蛇は、発生したものの自身の存在に混乱して、要領を得ず、明けぬ月夜の空を埋め付くして、蠢いていた。


「悪縁、善縁、円にして・・来いっ!『円食(まるはみ)』っ!!」


ヘビ子は光の縁の穴から一振りの神剣、円食を抜きだした。より洗練され真新しく打ち直された姿にはなっていたが、かつてヘビ子が契約したウワバミの巣窟にあった剣その物。


「っ?! 円食ぃいーーっっ!!! くっ、くく草薙のぉおおーーーっ!! 一振りっ! お前が得ていたかぁああーーーっっ!!!!」


神剣に反応して自我を取り戻した煙の巨大蛇は猛然とヘビ子に襲い掛かった。


「空が堕ちてくるようッスね」


ヘビ子は淡々と言って、円食を一閃した。


ズッッッッ!!!!!!


夜空を断って、斬り分けられる煙の超巨大蛇。


「ごぉおおっっっ?????」


斬られた傷口が、煙の超巨大蛇を喰い始めた。凄まじい勢いで自分の傷に喰われ消えてゆく煙の超巨大蛇。


「無駄なことっ! 回帰するのだっ!! 今のこの時間もっ! 主の『咀嚼(そしゃく)』の中途に過ぎないっ!! ハハハッ、ハハハハハッッッ、ぼぉっっ? うぅぅっっ!!!」


煙の超巨大蛇は己の傷口に喰い尽くされ、消滅した。

ヘビ子は光の縁の穴に円食を戻し、神将の鎧も解いて元のジャージ体操着に戻った。

一つ溜め息を吐いて、こちらまで喜んで昇ってくる仲間達を見下ろして表情を緩める。


「門松、ヤブサ、皆。ウチは果報者で、甘ったれッスね・・オ~イっ!」


呼び掛けて、ヘビ子も仲間達の元へと向かった。



・・戦い済んで、朱雀廟の補修を見守っていたヨモツ子とハナ子の元に、鈴の音と共に白被りが現れた。


「遅いよ。ちょっとは悪いオバケ退治も手伝だったら?」


「私は『現状を回復させる怪異』だよ」


言いつつ小鬼達を大量に出して作業を手伝わせだした。


「今回は藪から棒で、参った。他の白被りがドサクサに『2体』も、倒されてしまった。」


「痛み分け、と言いたいのか?」


「いや、勝ち勝ちだが・・相手の無策ぶりが気になる。ヨモツ子は当面、御山の護りに専念してくれ」


「構わないが、ヘビ子が神剣を持っていることがバレてしまった。大丈夫なのか?」


「他の組より人数を多くしてある。百番手形の欠員を埋めないことにはこれ以上は難しい」


「あたしはどうしたらいい? 他の八巻きの怪を探ろうか?」


「いや、ハナ子は結界の中を調べて回ってほしい。どうも嫌な予感がする」


「わかったよ。あと、契約者のいない百番手形の怪異、もっと貸して。凄く強かった」


「うーん・・考慮はする」


「わぁっ、絶対ダメなヤツだぁっ!」


ハナ子が文句を言い出しつつ、朱雀廟の補修は進んでいった。



それからさらに数時間後、雀のお宿に戻ったヘビ子達が打ち上げを始める中、一人買い出しをしていたカタメ子は食べ物ばかりの大荷物を抱えて、妖し市の路地裏を小走りに宿に向かっていた。


「くぅ~っ! クジで負けるなんてっ。ったく、元読モのわたしがパシりとは・・ん?」


カタメ子は、急に目眩を感じ、立ち止まり、薄汚れた壁寄り掛かった。


「アレ? なんだろ? 疲れかな?? 今回、わたしはそうでもなかった気がしたんだけど? 若水まだあったっけ・・あっ」


ブツンッ!


カタメ子の意識は途絶え、フラフラと棒立ちになった。

周囲の暗がりには低級な小怪異や、酔っ払いの怪異、意思の判然としない彷徨う怪異がチラホラいたが、カタメ子の影の中に『底無しに暗い三つ目』が現れると、瞬時に全て砕け散って塵と化し、三つ目の影に吸い込まれて消えていった。


右眼(うがん)よ」


三つ目が呼び掛けると、建物の影からドレスを着た鰐人間、右眼の鰐、が現れた。


「ここに」


跪く右眼の鰐。


「細切れにした、我の分体どもを多く御山の麓まで忍ばせた。あとはお前が采配せよ。我は天眼と左眼を殺され、酷く眠い」


三つ目の左目と額の目が少々『充血』して『疲れ目』のようであった。


「御意」


「それから、この身体と、根絶やしにしたヌリカベどもはそろそろ持たぬ。新しい器を用意せよ」


「既に候補を幾人も」


「ならば良し。目覚めし時、見定めようぞ・・」


三つ目、八巻きの怪は『(まぶた)』を閉じ、気配を消し、右眼の鰐もまた、薄汚れた妖し市の建物の影に沈んで消えていった。


・・・

・・・・・。


「っ!」


カタメ子は意識を取り戻した。


「えっと、なんだっけ?? そうそうっ! くぅ~っ! クジで負けるなんてっ。ったく、元読モのわたしがパシりとはっ、テレビ出たことあんだからねっ。端役だけどさ!」


カタメ子はプリプリ怒って仲間達の待つ、雀のお宿へ急いだ。



後日、とある街の高校のグランドが異界に呑まれていた。グランドの端々を無数の巨大な車輪が駆け周り、サッカー部員達を脅かしていた。


「なんだよコレっ?!」


2年部員、『タヌマ』が喚いた。途端、タヌマの身体が浮き上がり、そのまま力任せにグランドに背中から叩き落とされ、さらに見えざる力で思い切り地面に押し付けられた。


「ごぉっ?! がぁっっはっ?!!!」


震え上がる他の部員達。すると、ゴォオウッ!! 部員達の目の前で炎が燃え上がり、その炎の中から一際大きな木製の車輪が出現した。


「タ~ヌ~~マ~~~っっっ!!!!」


車輪の側面に憤怒の表情の高校生くらいの少年の顔が浮き上がった。驚愕する部員達。


「っ?! トザキっ??」


地面に押さえ付けられたままタヌマも目を剥いた。


「よくも俺と俺の彼女を轢き殺しやがったなぁああっ?!!! 部活のレギュラー落ちさせられたくらいで殺しやがったなぁああっ?!!!」


ザワめく他の部員達。


「違うっ! ちょっと脅かしてやるつもりだったんだっ。お前の彼女、先に俺が目を付けてたしっ。全部持っていきやがって、って! 本当に脅かすつもりだったんだよっ!! 信じてくれっ。でもあの日、雨降ってたしっ、ちょうどあそこに水溜まりがあって、スリップしちまってっ! 事故なんだっ」


「・・・」


トザキ、こと『片輪車(かたわぐるま)憑き』はほんの一時、沈黙した後、前触れ無く転がりだして(・・・・・・)、タヌマの両足を轢き潰して焼き千切った。


「ぎゃあああぁーーーーっっ?!!!!」


絶叫して昏倒するタヌマ。腰を抜かす他の部員達。


「轢き逃げだろうがっ。バックれやがってっ!」


片輪車憑きは他の部員達の方へも向き直った。


「お前達も緩さねぇっ! 俺がエースだった頃は媚び売ってきやがったのに、死んだ途端悪口言いまくりやがってぇええっ!!! お前達だけサッカーしやがってぇっ、学校通いやがってぇえっ、卒業して将来があるなんてぇええっ!! 許さねぇっっ!!!!」


片輪車憑きの影から、下半身が一輪車になった鰐人間達が多数涌きだしてきた。


「鰐に喰わせて半殺しにしてから焼き轢き殺してやるっ!! タヌマは最後だっ。やれっ! 鰐どもっ」


絶望する部員達。襲い掛かる鰐人間達。その時、


ドドドドドドッッッッ!!!!!


怪光線がっ、炎の矢がっ、氷片の乱舞がっ、振り抜かれたギター斧がっ、爬虫類の鉤爪がっ!

鰐人間達を壊滅させ、周囲の車輪を全て破壊し、続けて飛来した円盤が、タヌマを含む部員達全員に奇妙な光を放って円盤の中に吸い込んで回収した。

円盤は徐々に縮小しながら、グランドの夜間照明の上に飛び去った。そこには5人の人影と、2つの小さな影があった。


「なんだぁっ?!! お前らぁっ!!!」


錯乱し、激昂する片輪車憑き。


「『なんだお前ら』と聞かれたら・・百番手形18番っ、ヌリカベ憑き、カタメ子だっ!」


「同じく100番。百目鬼憑き、メ子です」


「同じく77番、金火憑き、プラ子っ! 略称、だけど・・」


「白蔵主だ。お前に対し、特に無い」


「同じく31番、水虎憑き、トラ子だ。今回、女気が全く無いのはガッカリだ」


「トラ子。・・お? 水虎だぜ。今、左腕やってるっ!」


「24番っ! 雪女郎憑き、グーだぁっ!! カッチコチにしてやろうかぁっ??」


「ボクも? オホンっ! そうはちぼんだよっ。最近ブルーベリー食べてるっ!」


「マジ? ウチも。美味いッスよね」


「ねー」


「ヘビ子、早くっ! 人数多いんだからっ、『最後まで聞く必要無い』ってバレるだろっ!」


「ごめーん、カタメ子。じゃあ、ウチ」


「うるせぇええーーーーっっっ!!!!」


片輪車憑き、トザキは燃える車輪で照明に猛烈な体当たりをカチ込み、爆発を引き起こした。

爆炎の中、飛び退くヘビ子達。


「短気ッスねっ! ウチはウワバミ憑き、72番っ。ヘビ子ッスっ!!」


ヘビ子は燃える車輪を蹴り割って弾き、空中で臨戦態勢を取った。


ヘビ子達の討伐記は、まだまだ続くのであった。

読んでくれてありがとうございました!

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