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ダイダラボッチ・牛頭馬頭

ヘビ子達が雀のお宿で骨休めをしていると、突如、妖し市の街に半鐘が鳴り響き、地響きが伝わってきた。


「凄い妖気ッスっ?!」


「出るぞっ!」


ヨモツ子に促され、ヘビ子達は妖力で浴衣から戦闘用の学生服に変え、雀のお宿から飛び出していった。


「マジか・・」


飛び乗った霊木の森の樹の天辺で唖然とするカタメ子。御山の南にある『朱雀廟(すざくびょう)』の結界に山を跨ぐ程の大きさの土の塊のような巨人が体当たりを繰り返していた。

巨人の身体は崩壊しかけていたが、朱雀廟の結界にもヒビが入り始めていた。


「『ダイダラボッチ憑き』ですね。回収に失敗したとは聞いてましたが・・」


ポコポコと小さな目玉を多数出現させながら、グルグル眼鏡の向こうで表情を引き締めるメ子。

と、鈴の鳴る音と共に白被りが出現した。


「他の『廟』にも八巻の怪の勢力が迫っている。規模が大き過ぎだ。あまり活発に動いていない『他の八巻達』の手勢を借りたんだろう」


「八巻同士仲が悪いんじゃなかったっけぇっ?!」


トラ子の頭の上でぬいぐるみだが冷や汗をかくグー。


「兄弟姉妹だ。我々と比べれば(・・・・・・・)親しいよ」


「ブゥオオォーーーーッッッ!!!!」


吠えて体当たりを続け、身体を崩壊させながらも朱雀廟の結界を壊しつつあるダイダラボッチ憑き。

その足元の陰では無数の鰐人間達が蠢き、その背後の宙には牛の頭の魔人と馬の頭の魔人がニヤつきながら、結界の崩壊を待っていた。


「『牛頭憑(ごずつ)き』と『馬頭憑(めずつ)き』までいるかっ」


「怪異本体が百番手形からクビになった凶暴なヤツらだよ!」


白蔵主とそうはちぼんはダイダラボッチよりも牛頭と馬頭を警戒しているようだった。


「直に破られる! ダイダラボッチの(とど)めは私がつけるっ。牛頭馬頭はヘビ子達でっ。鰐どもは白被りで頼めるかっ?」


「廓童子を使う。妖し市の怪異達に魔円をはたいて雇わせよう。他の廟は『他の白被り達』に任せる」


「馬と牛はウチらに任せるッスっ!」


「いや牛頭馬頭はめちゃんこ強ぇぞっ?」


水虎が、トラ子の左腕から顔を出してドン引きしていると、


バリィイイインンンッッッ!!!!!


巨大な右腕を崩壊させながら、ダイダラボッチ憑きが朱雀廟の結界を突き破り、廟を踏み潰した。


「行くぞっ!!!」


有無を言わせず、ヨモツ子は毒と骨の大蛇を纏いつつダイダラボッチ憑きへと飛び込んでいった。


「ウチら3人とそうはちぼんが牛頭をブッ飛ばすッスっ!!!」


牛頭へと飛び込んでゆくヘビ子、カタメ子、メ子、そうはちぼん。


「僕らが馬の人か。あ、女の人なんだ・・」


馬頭はよく見ると、西瓜を2つ並べたような豊乳(ほうにゅう)だった。気まずい様子のプラ子。


「大きさだけでは評価できない。むしろ小ぶりな方が好き」


「トラ子」


水虎がトラ子がツッコミながら、プラ子達も馬頭へと飛び込んでいった。



ヨモツ子は右腕を失ったダイダラボッチ憑きと対峙していた。ダイダラボッチ憑きの胸部に無数の肉の鰐に囲まれるようにして数千人の僧服のような格好をした人間達が蠢き、その中心に派手な僧服のような格好をした男がいた。


「うん?」


訝しむモヨツ子。


「自然との調和っ!! 大地への回帰っっ!!! 我らの大願っ! 成就なりぃいいーーーっっっ!!!! 」


絶叫する派手な僧服の男。


「・・信徒を対価に差し出したな。愚か者がっっ!!!」


ヨモツ子は自身をダイダラボッチに匹敵する大きさの毒と骨の大蛇に変化させ、ダイダラボッチに襲い掛かった。



豊乳を振り乱して妖気を纏った金棒を振り回す馬頭憑き。


「300万400万じゃ利かねーぞっっ??!!!」


合わせて『針山(はりやま)』を噴出させる『砂鉄の乱気流』を操る馬頭。プラ子達は苦戦していた。


「アツシぃーっ! キヨマロぉーっ!! マイケルぅーっ!!!」


目を剥いて叫ぶ馬頭の口の中に次々と女達の顔が浮かび、最後に肉の鰐が顔を出して嗤った。


「多数と契約しているっ」


妖しい火球を炸裂させて砂鉄の乱気流を払いながら警戒する白蔵主。


「ホストかなんかに貢いだ女達、か?? 水虎、分離できそうか?」


「いや無理だぜっ。もう肉鰐の玩具になっちまってる!」


舌打ちして白蔵主が取り零して接近した砂鉄の乱気流から噴出した針山を水の爪で払うトラ子。


「ボトル開け開け開け開けろぉおおーーーっっっ!!!!」


胸当て鎧を申し訳程度に一応付けているが、豊乳を振り乱して金棒をめちゃくちゃに振り回す馬頭。雑だがプラ子の炎の矢も、グーの吹雪も軽々打ち消してゆく。


「攻撃も凄いけど、なんか、色々頭に入ってこないよっ!」


無駄に暴れる豊乳に怖じ気づくプラ子。


「近接もヤバそうだが、遠距離じゃどうしようもないぞぉっ?!」


トラ子の肩に掴まってツララを十数本投げ付けてみるが、全て金棒の『一振り』で消し飛ばされて仰け反るグー。


「あああああ・・・・なぜだよ? なぜよ? なぜ出禁なのよぉーーーっっ!!!!」


馬の獣人の身体の表面に鱗を出し、尾を鰐の尾に変えてさらに妖力を高める馬頭。


「グーっ!!」


トラ子は瞬間的に宙に発生させる氷の足場を駆けながら、左腕の水虎とグー合体させ、大きな氷の鉤爪に変化させた。



ヘビ子が牛頭が振り下ろした大斧の刃を殴り付け、ヘビ子と牛頭は互いに吹っ飛ばされた。


「痛ッスぅ~っっ?!」


拳を痛めて涙目で、ふーふー、息を吹き掛けるヘビ子。


「ヘビ子っ、斧殴るのやめなっ! 武器はわたしが引き受けるっ」


妖力で飛行するのがあまり得意でなく、そうはちぼんに乗っていたカタメ子。

大型化させたギター斧で牛頭と空中で斬り結ぶが、そうはちぼんの機動性で勝ってもパワーと耐久性では全く歯が立たなかった。拳を再生させたヘビ子もすぐに応援に入った。

だが、牛頭の力はただの怪力だけではなかった。


「勝手に『この世』に引っ張ってきていいモノではありませんねっ!」


牛頭は雫型に固められた(・・・・・・・・)餓鬼(がき)の群れを数百体使役していた。

大目玉に乗ったメ子は多数の目玉を操って怪光線を放ってコレを焼き払いに掛かったが、表面の餓鬼を滅ぼしても内から新たな餓鬼が涌いてくる為、中々1体の餓鬼の球を倒せず、対応に苦慮していた。


「喰わせぇ~~っ! 喰わせぇ~~っ!!」


「飲ませぇ~~っ! 飲ませぇ~~っ!!」


メ子に襲い掛かる餓鬼の球達。


「ヤバいですねぇっ! 白蔵主こっちに借りときゃよかったですっ」


目玉の怪光線を集中させてようやく1体倒し、顔を引きつらせてメ子はグルグル眼鏡をグイっと押し上げた。



地上の雄牛の麓近くの霊木の森では、体長8メートルはある巨人型鰐人間、頭に雄牛の角を生やして刀剣で武装した鰐人間、下半身が馬で槍で武装した鰐人間達の軍勢と、妖し市雑多な怪異達の軍勢が激突していた。

妖し市の怪異達の音頭を取るのは廓童子だった。


「ほれっ! 押せ押せぇっ!! 払った魔円の分は働いてもらうぜぇっ? 対価だからよぉっ?! 死んでも気にすんなっ、どうせ俺達ゃ化けモンはその内、コロっと生き返るっ!!!」


調子のいいことを言う廓童子。妖し市の軍勢は数の点では鰐人間に勝ったが、『兵』その物である鰐人間に対して、妖し市の怪異達は祭りに参加するような浮かれ具合で参戦し、また存外怪異の大半は戦闘に向いた存在でもなかった。


「ぷぎゅっ?!」


巨人型鰐人間に踏み潰される、人を転ばせるだけ、の小動物のような怪異。


「あっひぃ~っ!!!」


騎馬型鰐人間に3体纏めて突き殺される提灯の怪異。


「ぶばばぁっ??」


人を呪い殺す性質だが、乱戦の中、誰を呪うか右往左往している内に牛角鰐の曲刀で真っ二つにされて殺される怪異。

善戦する物や数に任せて押し返すこともあったが、徐々に押されだす妖し市の怪異達。


「オイオイっ、揃いも揃って弱ぇな、オイっ! ぬぅ・・・ま、もらった魔円の分の働きはしたし、この廓童子様はこの辺りで」


廓童子は踵を返したが、後ろにおかっぱ頭に白いワイシャツ、赤い吊りスカートの無表情な女児が立っていた。


「人の子? いやっ、『花子さん』かっ」


「遅れちゃった。魔円まだある?」


「いや、まぁ・・」


廓童子は白被りから『取り分』としてもらった以上に相当額、懐に入れていた。


「んー、あるよっ! 御山のピンチだからなっ!! 特別に俺の取り分からいくらか払おう。額は」


「わかった。足りなかったら『お前をこれから100年トイレに流し続ける』から」


遮り、一方的に宣言し、廓童子をギョっとさせて、花子は片手をスッと上げた。

花子の影から100体以上の『様々な花子さん』が出現した。

より幼い花子。老婆の花子。中学生くらいの花子。グラマーな花子。筋骨隆々な花子。男の子の花子。双子の花子。霧のような花子。異形の怪物の花子・・・

さらにその花子達の影から『様々な学校の怪異達』も出現した。


「日本中から集めてみた」


「他の花子達を使えるのか?『花子の百番手形』は欠番になってたはずだが・・」


「妖し市で手形を拾ったんだ。あたしは零番、花子憑き、『ハナ子』。それまで何してたかは忘れた」


ハナ子は赤いケープを羽織り、ベレー帽を被ると、縦笛を指揮棒のようにして迫る鰐軍の方を指し示した。


「脅かしちゃえ、花子が来たぞ?」


花子軍と学校怪異軍は妖力を爆発的に増し、怯んでいた妖し市の怪異軍を押し退け、鰐の軍勢を蹴散らし始めた。



山の尾根の程に巨大化した毒と骨の蛇のヨモツ子はダイダラボッチ憑きの左腕に巻き付き、絞め、毒し、これを打ち砕いた。


「ブゥオオォーーーーッッッ!!!!」


ダイダラボッチ憑きは吠え、明けぬ夜空に立ち込めた暗雲から尾根を全て焼き払うかのような豪雷を呼び寄せ、巨大化したヨモツ子の全身を打った。


「ジャアアァッッ!!!!」


表面を焼き払われたヨモツ子も吠えて脱皮し、一回り小さな姿で落ち続ける雷の檻から逃れた。


「大地に還れっ!! それ以外に救済は無いっっ!!!」


ダイダラボッチ憑きの胸部の中心で喚く派手な僧服の男。雷がヨモツ子を追撃する。


「救われる筋合いはないがっ、何よりもっ!!!」


反転し、雷を避けながら攻勢に転じる巨大化した骨と毒の蛇のヨモツ子。

ダイダラボッチ憑きは大地を強く踏んで、自分の前方にマグマの火柱を多数噴き出させ、守りの構えを見せた。

ヨモツはそれを殆んど避けずに突進し、ダイダラボッチ憑きの頭部を喰い破り、突き抜け様に毒気でダイダラボッチ憑きの全身を侵し覆った。


「べぇええううっ??!!!」


周囲の信徒達は死に果て、肉の鰐達も全て崩れ始め、自身も半壊する派手な僧服の男。

通り過ぎたヨモツ子は一瞬で巻き固まり、砕けて、全裸のヨモツ子に戻った。


「不遇で、心弱い者達をダシにしたな」


ヨモツ子はダイダラボッチ憑きを覆う毒気から千の毒と骨の大蛇を生じさせ、ダイダラボッチ憑きを全て喰い尽くし、毒し崩し果てさせた。


「是非を閻魔を尋ねてこい」


身体を毒と骨の蛇で覆い、冬服セーラー服を復元させたヨモツ子だった。



馬頭相手に苦戦したプラ子達は若干わちゃわちゃしつつもやり方を切り替える運びになっていた。


「プラ子っ、お前は飛ぶのが遅過ぎるっ! 私に乗れっ!!」


白蔵主は妖しい火弾で牽制しつつ小さな姿から、妖しい炎を纏う大きな白い狐の姿に変化した。


「え? 跨ぐの? ちょっと・・」


「ちょっとも何も無いっ! 乗れぇいっ!!」


「大きな声出さないでっ」


軽く揉めたが、プラ子は白蔵主の背に乗り、機動性を上げた。


「水虎っ! もっとビャーーっっ!! って氷出せよぉっ?! オラっちが冷やしてやってんだろぉっ?!!」


「ビャーーってなんだっ?! 冷てぇからなんか具合悪くなってきたしっ、トラ子もアホみたいに飛び掛かるだけだしっ」


「アホみたいとはなんだぁーっ?!!!」


近接戦を挑んでいるのに小競り合いを始めて隙を作り、馬頭に金棒で殴り飛ばされるトラ子。


「ぐはっ」


咄嗟に水虎とグーが氷で鎧を作って致命傷は免れた。

一先ず、グーと水虎が氷片の烈風を起こして馬頭を牽制する。


「よしっ、今のでピンと来た。『オラっち達、コイツと相性クソ悪い』プラ子達とチェンジだぁっ!」


「プラ子??」


「近接はキツいだろ?」


「コイツは色々雑だっ! 中距離戦(・・・・)ならいけるっ。砂鉄の渦はオラっち達が引き受けようっ。プラ子ぉーっ!!! チェンジだぁっ!!」


「無理っ!!」


豊乳を振り乱して暴れる馬頭に震え上がるプラ子。


「いや、この機動性ならやれるっ。ゆくぞプラ子よっ!」


「いーーやぁーーーっっっ!!!!」


白蔵主は構わず空を駆け、トラ子達と交代して馬頭の眼前に躍り出た。


「好き好き好き好き好きっっ!!! 好きが止まらないぃっ!!!! 貴方だけっ! 貴方だけっ!! 貴方だけぇっ!!!」


喚き散らす馬頭。


「好かれた人達どうなったんだろ・・」


回避は白蔵主に任せ、中距離を保って拡散する炎の矢を射ちながら、ゾッとして呟くプラ子。


「あの金棒だろう」


ボソりと言う白蔵主。良く見ると、馬頭が振り回す金棒には何十人もの踠き苦しむ独特の髪型のイケメン達の顔が浮き出ていた。


「やっと、私達のモノになった。私の『棒』。ぶへへへっっっ!!!!」


頬を赤らめて呻く金棒をベロベロ舐めてみせる馬頭。


「ぎゃーーーっっ!!! トラ子やっぱり代わってぇーーっ?!!!!」


泣いて矢を射つプラ子。


「・・大丈夫かな?」


「言ってる場合じゃねぇぞっ?!」


「一気にいくぞぉおおーーっっ?!!!」


トラ子は渦巻き、近付けば針山を噴出する砂鉄の渦の大きな流れには逆らわず、器用に避け、妖気の流れを読んだ。


「馬頭はこの妖術を使いこなせてないぞぉ? ほぼ自動攻撃に任せてるっ。自動なら流れがあるっ! 全体と繋がる妖気を流れを読むんだぁっ!!」


「上手く凍らせても、これは壊せるモノなのか??」


「規模があって形が複雑なだけで、これは『武器』だっ! 妖力で維持されてるっ。倒すんじゃなくて、壊すっっ!!!」


「うーん・・いけるか水虎?」


「正直よくわかんねぇが、これの全体を水でジャバジャバにできるか? つったら余裕だぜ! 濡らせるなら凍るだろっ?!」


「ま、そうだな。・・やってやるかっ!」


トラ子は左手の氷の鉤爪を拡大させ、渦巻く砂鉄の中の、『全体と繋がる一点』を噴出した針山ごと叩き斬った。


ガガガガガガガッッッッ!!!!!


斬られた一点から猛烈な勢いで凍結化が拡がり、全て凍り付いて、宙に幾何学的な氷の洞窟のオブジェを造りだし、程無く砕け散って霊木の森に降り注いでいった。


「よっしゃーーーっっ!!!!」


「久し振り決まったな、『残虐トラ子・ファイナルウィンター猫パンチ』っ!」


「技名付けるのやめろ」


砂鉄の渦は撃退された。 一方、


「燃えるっ! 愛が燃えるぅーっっ!!!」


馬頭は身体を炎上させていた。

プラ子の攻撃は非常にチマチマした物であったが、中距離から射つ拡散する炎の矢は多少は馬頭本体に命中し、それを繰り返す内に、馬頭の全身を焼き払うまでになったいた。


「戦いにのめり込まず、チキンな対応に終始する。お前のスタイルが覿面に効いているな!」


「・・褒められた気がしないけど?」


「攻撃を金棒に集中させろっ、そろそろ飛ばせる(・・・・)ぞっ?」


白蔵主に促され、プラ子は炎の矢を馬頭の金棒に集中させた。


カツゥーーーンッッ!!!!


真っ赤に灼熱化して馬頭の手を焼いていた呻く金棒は、炎の矢を受けて溶けて飛び散り、火の粉を散らして消えた。


「なっ?! 何やってんだよぉーーーっっ??!!!!」


血涙して炎上する身体でプラ子に突進する馬頭。


「いーっっ??!!!」


ビビるプラ子だったが、白蔵主は冷静に回避した。


「落ち着けっ! こうなると、距離は取ってられんが、もはや相手は死に体っ!! 得意の『縄』を使えっ!」


「うん、やってはみるけどっ」


プラ子は炎の弓を炎の縄に変化させた。


「私達の棒を返せぇえーーーっ!!!!」


素手で襲い掛かる馬頭を白蔵主が躱し、避けた刹那にプラ子が炎の縄を多重に燃える馬頭に掛けた。


「あっ???」


「次があったら、いい人見付けてね」


プラ子は縄を引き締め、最大火力で炸裂させ、馬頭を輪切りにして焼き払い、吹き飛ばした。

炎の中から慌ててデフォルメされた小さな馬頭本体が飛び出して逃れようとしたが、これは白蔵主が燃える刀を念力で投げ付けて串刺しにし、霊木の森へと墜とした。


「本体の処分は後だ」


「ホストクラブってどんな感じかな?」


「・・興味を持たんでよし」


「プラ子っ!」


プラ子と白蔵主はトラ子達と合流した。



メ子は引き続き餓鬼の球に苦戦していた。


「予見してもあんま意味無いですし・・」


溜め息を吐くメ子。


「ゾワゾワするんで、自分、この技だけは使いたくなかったです」


メ子は怪光線を撃つ為に操っていた目玉達をより小さなゴルフボールくらいの極小の目玉に分裂させ、餓鬼の球達の口に放り込み、食べさせた(・・・・・)


「っ?!」


「旨っ??」


「目ぇ?? むぐぅっっ?」


戸惑いの顔を見せたのもほんの一時で、餓鬼の球達の身体にすぐに異変が現れた。全身から大小様々な目玉が数限りなく浮き上がりだした。


「目ぇーーっ?!!」


「喰えぬぅっっ?!!!」


目玉達は妖力を帯び、周囲に怪光線と同質の力の衝撃波を放ち、全ての餓鬼の球を消し飛ばして全滅させた。


「飢え過ぎてわからなかったのでしょうが『目玉の怪異を食べるとロクなことにならない』セオリーです。覚えておいて下さい」


極小目玉を合体させてサッカーボールくらいの目玉にして周囲に招き寄せながら、メ子はグルグル眼鏡をクイっと上げてみせた。

ヘビ子達も牛頭を追い詰めつつあった。


「ハイよっ!」


そうはちぼんに乗って加速してカタメ子がギター斧で牛頭の斧を払い、


「ニョロっ!!」


懐に飛び込んだヘビ子が爬虫類化させた右手で強烈なボディーブローを打ち込む。


「ごふぅっっ」


悶絶する牛頭の胸部から突然痩せ衰えた人々が露出した。


「強い身体ぁっっ!!!」


「生きたいっ! 生きたいぃっ!!」


人々は叫びながら肉の鰐に侵食されて身体の中に引き戻されていった。

牛頭の全身が鱗に覆われ、尻尾も鰐の尾に切り替わった。牛頭の妖力が漲る。


「ブッフォオオーーッッッ!!!!」


叫ぶ牛頭。


「病人達と契約させたのっ?!」


「酷いねっ」


「なんにも叶えられてないッスっ!」


「ブッフォッッッ!!!!」


牛頭は猛然と突進し、斧を横薙ぎに振るった。ヘビ子達は避けたが、大気が妖気の刃で広範囲に斬り裂かれる。


「カタメ子、アレ、受けられないよっ?」


「ん~っっ、ヘビ子っ!」


カタメ子はギター斧をヘビ子に投げ渡した。


「こっちは固めるよっ!」


カタメ子は牛頭の妖気の刃を避けながら、両腕から泥を連射した。

牛頭は泥を簡単に斬り払ったが、破片が身体に付き、付いた側から固まってゆく。


「フゴォっ??」


徐々に動きを封じられると、頭上からギター斧を手に、高速回転するヘビ子が落下してきた。


「フゴっ!」


牛頭は固められながらも、迎撃の構えを見せたが、ヘビ子はある程度接近すると、発生させた穴に飛び込み、その直後に牛頭の右側面に発生させた穴から飛び出して袈裟懸けに牛頭の胸部を両断した。


「ッスっ!!!」


「フゴォ・・・」


斧も砕け、白骨化し、滅びてゆく牛頭憑き。その身体から飛び出して小さな牛頭本体はカタメ子が放った泥に固められて落下していった。


「段々契約のさせ方が酷くなってるッスね・・」


「長く使う気なんてないんだよ」


「うお~い」


メ子が大目玉に乗ってゆるゆると飛んできた。


「他の皆も勝ったみたいだよ? 下はどうだろ・・」


そうはちぼんの言葉に釣られ、ヘビ子達は月明かりの下の霊木の森を見下ろした。



森では花子の軍勢の勢いに乗って、妖し市の怪異達が鰐人間軍を退けつつあったが、


ドクンっ! ドクンっっ!!


2つの鼓動が鰐人間軍の中に響き渡った。


「っ! 皆、影に入ってっ!!」


異変を察したハナ子が命じ、花子軍は素早く影に潜ったが、他の妖し市の怪異達は遅れた。まず、


ズバァアアッッッ!!!!!


猛烈な斬撃が2割近い妖し市の怪異達を斬り滅ぼし、続けて、


ゴボボボボォッッッ!!!!!


地から生じた黒く脈撃つ数百の球体が、黒いガスを放って3割近くを分解させて滅ぼした。


「だから時期尚早と言っただろう?『他の八巻様方』にまで借りを作って」


「結界を一つ潰しっ、戦力を分散させたっ! なんの問題も無いっ!!!!」


森の闇から、背広を着て微かに振動する両刃の剣を持つ鰐人間と、周囲の木々を薙ぎ倒しつつ巨体と長い尾を振り回し次々立ち登ってボォーボォーと奇怪な音を上げる闇の筒を従えた鰐そのモノの姿をした怪異が現れた。


「左眼の鰐と天眼の鰐っ! こりゃここまでだなっ」


廓童子は風のように遁走して消えてしまった。


「マズそうだ・・宿題やってない夏休みの最後の週くらいマズそうっ!」


ハナ子は縦笛を構え、周囲に花子を呼び出し、構えた。


「お、花子さんか。アレは使えるぞ? 本体だけ抉り出そうか」


「百番手形はもういいっ! 面倒だっ!! 全て叩き潰すっ!!!」


左眼の鰐と天眼の鰐は怯えて引き下がる妖し市の怪異達を無視してハナ子に迫った。と、その時、


ドォオオオンンンッッッ!!!!!


6つの影が霊木の森に荒々しく着地した。


「左眼の鰐っ、この間の怨み、晴らさでおくべきかっ!」


ヨモツ子。


「上から撃った方が良かったと思うけど・・」


「短気なヤツが多い、已む無し」


プラ子と白蔵主。


「ボス鰐かぁっ?! お前らのせいでオラっちの『正式なフルネーム』と、美月にゴミ捨て場で拾ってもらった時のほっこりエピソードっ、綺麗に忘れるハメになっちまったんだぞぉ?! コンニャローっっ!!!」


「生き返った身だ。今となってはお前達に私怨は無い。ただ、放ってもおけないな」


「先代の水虎憑きの借りっ! 返させてもらうぜっ!!」


グー、トラ子、水虎。


「幹部に会うのは初めてですね。メ子です。こんばんは」


「固めてやんよっ!!!」


「変なヤツらと契約させたことっ、許さないよっ?!!」


メ子、カタメ子、そうはちぼん。


「・・そんなこともあった、とか、記憶にも無い、くらいだと思うッスけど、ウチは覚えてるッスっ! 天眼の鰐っ!! お前だけはウチが倒すッスっ!!!」


ヘビ子。


「面倒なヤツらばかり集まったな。憂鬱だよ」


「いやっ! いい(にえ)だっ!! 我らが八巻様に捧げようぞっ!!!!」


百番手形と鰐。2つの陰なる生命の勢力が、互いに妖気を高め、反発させ、霊木の森の木々と周囲の怪異達を(おのの)かせた。

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