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手負蛇

『墓場の異界』は狂乱の熱気に包まれていた。無数の白装束を着た白骨達が骨の楽器を打ち、弾き、吹いて大騒ぎしていた。


「踊る阿呆に見る阿呆っ! 同じ阿呆なら踊らなきゃ損っ! 損っ!! えらいやっちゃっ、えらいやっちゃっ、ヨイヨイヨイヨイっっっ!!!!」


騒動を他所に、墓場の異界の上空では激しい戦いが繰り広げられていた。

葛の棺にメチャクチャに詰め込まれた人骨と鰐の骨の怪異憑き『溝出(みぞいだし)』と、毒気を纏った骨の鞭を操る百番手形1番『ヨモツ子』であった。

メ子が夏服の凡庸なセーラー服を着ているのに対し、ヨモツ子は冬服のブランド制服を着ていた。

セーラー服の下にあちこち包帯を巻いているヨモツ子。怪異『手負蛇(ておいへび)』と契約した怪異憑きであり、百番手形で唯一、ソロで活動する怪異憑きでもあった。


「死は解放ぉおおおーーーうううっっ!!!!」


骨まみれの葛の棺の中には契約者の痩せた男がいた。

溝出は『骨のナイフ』を猛烈な勢いで飛ばしてくる。ヨモツ子はそれを軽く避け、弾いたが、流れ弾は地上の墓場の異界と騒ぐ白骨達をズタズタにしてゆく。

しかし、骨達はお構い無しに騒ぎ続けた。身体が砕けたら砕けたまま騒ぐ骨達。


「ええいっ、上も下もっ! 五月蝿(うるさ)いヤツらだっ!!!」


ヨモツ子は周囲に満たした毒気の四方八方から骨の鞭を発生させ、溝出を串刺しにし、さらに毒気で溶かすように侵し滅ぼした。


「お前は殺し過ぎだ。蘇生したくば地獄で閻魔に談判しろっ!!」


言い放ち、ヨモツ子は崩れた死骸から溝出本体を取り出しに掛かった、その時、


ギィイイインンンンッッッ!!!!!


金属の振動音と共に神速の突きが、溝出憑きの死骸から憑き出され、咄嗟に張った骨と毒の盾を突破してヨモツ子の心臓を貫いた。


「なっっっ??!!!!」


「棺や墓や塚に潜んだことは幾度もあるが、今までで最低の潜み心地(・・・・)だったな」


崩れゆく溝出憑きの中から振動する古風な剣を持った背広を着た鰐人間が出てきた。


「『左眼(さがん)の鰐』っっ!!」


「百番手形、1番、ヨモツ子。中々死んでくれない君も、『八坂琴(やさかのこと)』で殺したんだから死んでくれるよな?」


「手負蛇は渡さんっっ!!!」


ギィイインンッッ!!!! 再び八坂琴が激しく振動し、鮮血と共にヨモツ子は砕け散った。


「永らく御苦労様」


赤くその身を染めて、左眼の鰐は嗤った。地上の骨達もケタケタと嗤った。



ヘビ子達を乗せた半透明UFO形態のそうはちぼんは、担当のヨモツ子からの連絡の途絶えた、溝出が暴れて滅ぼしたという刑務所まで急行していた。

内部から前方の映像は宙に表示される形で見えていた。


「ヨモツ子さん、ってどんな人なんですか? 僕達、まだ会ってなくて」


「美人なのか?」


「トラ子」


「幕末から手負蛇憑きやってんだろぉ? もう怪異そのモノじゃん」


「今の百番手形筆頭ッス」


「自分より歳上は珍しいですよ?」


「言ってもメ子も大正時代から居座ってるんだろ? メ子婆ちゃんだなっ。ニヒヒっ、お? ぎゅうっ」


メ子の眷属の小さな目玉2つに両頬を挟まれるカタメ子。


「っ! これは、ヨモツ子の妖気、か?」


白蔵主が気配を察した。その次の瞬間、田畑と工場や倉庫が散漫に混在したエリアにあった前方の雑木林から、半透明の巨大な骨のヘビが噴出し、そうはちぼんに対して大口を開けて飛び付いてきた。


「っっ??!!!」


一同が驚愕する中、そうはちぼんは骨の蛇に呑み込まれた。暗黒の口の奥の先に、海上に見える1つの島が見え、そのまま全てが闇に覆い尽くされた。



湿度、暑さ、濃厚な土と植物の臭い。鳥達の鳴き声。微かな、火薬と、血の臭い・・


「ぶはぁっッス?! おおっ??」


ヘビ子は目覚めた。

起きてすぐに、自分が荷物を背負っていること、あまり材質の良くない身体にピッタリ張り付くような服や靴を身に付けていること、金属のヘルメットを被っていること、棒状のなんらかの機器を抱え、腰に細長い金属を帯びていることに気付いた。


「んっ? 土っ! いい土と泥を感じるっ、固めたいっ!!」


「あ~、この湿度。眼鏡曇ります・・」


「うわっ? なんだよっ、身体が(・・・)が湿るぜっ」


カタメ子、メ子、グーも起き、すぐに自分達の格好に気付いた。

兜、軍服、リュック、古めかしいライフル、軍刀、拳銃、手榴弾・・。周囲は密林であった。


「昔の兵隊さんッスね」


「グーのヤツも小さいの着てるっ」


「ジャストフィットっ!」


ヘビ子達は起き上がり、周囲の様子、装備、妖力が使えるか? を確かめた。


「何も力が使えないッス。素のパワーだけッスね。舌と歯は出せるッスけど」


ギザ歯を出し、舌もチロチロ出してみせるヘビ子。


「自分は見透す魔眼(まがん)だけですね」


「わたしはギター斧だけ」


「オラっちは、なんにも使えないみたいだぜ? おかしくね?」


アーミールックでそういうキャラクターのような姿のグーは不満気だった。


「『喋って動くヌイグルミ』という時点で力を1つ行使している(・・・・・・・・・・)とカウントされているんでしょう。これはルール強制型の異界ですね」


「え~」


「ヨモツ子さん、鰐に取り込まれちゃったッスか?」


半泣きになるヘビ子。


「泣くの?? あんたヘビ子、初めて見たよ・・」


「どのみち、ルール強制型は『ルールの把握』が肝心です。術を掛けた側もルールに逆らえないでしょうからねっ。まずは、他のメンバー」


メ子が言い終わらぬ内に、密林の奥から銃声が響き、辺りに着弾し始めた。ボロボロの軍装をした白骨達が撃ってきている。


「危ないッスっ?!」


「うおお? 撃ち返した方がいいのか? 斧か??」


「うはっ、やめろっ、綿が出るだろっ?」


「一旦、逃げましょう。『わからん殺し』は避けたいです! ヘビ子っ」


4人は一目散に逃げだした。メ子は目玉抜きでは他の3人程速く動けないのでヘビ子が抱えて運んでもらっていた。



追っ手を振り切り、高台の岩場の陰まで逃げてきた。


「手負蛇と溝出の合体能力と見るべきでしょう。戦中らしい南の島が元になっているのはヨモツ子が当時、出張っていたからだと思います」


荷物にあった水筒の水を確認しながら飲みつつ、車座になってミーティングをしていた。


「ぶっちゃけ、この弱体化ぶりだと骨達に纏めて勝てそうなのヘビ子だけじゃねーか? オラっちとメ子に至っちゃ手も足も出ねぇっ」


「食料は生米(なまごめ)と塩だけ。わたしとメ子は3日持てばいい方だね」


「トラ子達が心配ッス。特にプラ子・・」


「魔眼を使います」


メ子はきっぱりと言った。


「この状態だと、自分はおそらく数時間は使い物にならなくなるでしょうが、状況の把握を優先します!」


「おしっ、やったれ! メ子っ」


「メ子のフォローはわたしがする。ギター斧はヘビ子が使えよ」


「了解ッスっ!」


「ではっ!」


メ子はグルグル眼鏡を取り、オッドアイを妖しく光らせた。予見ではなく島全体を見透すメ子。


「・・っ!」


力を使い切り、メ子はふらり、と倒れかけた。ヘビ子とカタメ子は動こうとするが、グーが早かった。


「ちょーいっ?」


慌てて地面スレスレで受け止めるグー。


「・・小ぢんまりとした街程度の大きさの島です。骨の兵達は実体を持って動き回っています。近付かない限り索敵もできないようですね。島の南東の端に司令部らしい基地があります。鰐人間多数と、往年の米国の戦闘機や戦車もありました」


受け止められたまま、冷や汗をかいた青い顔で話すメ子。四苦八苦して地面にそっとメ子を置くグー。


「よっと、日米チャンポン軍かよ」


「怪異憑き本体は司令部でしょう。トラ子達も逃げ回っているようです。やはり力を制限されてますね」


「ん~、まず合流?」


「それもありますが、気になる場所が6ヵ所ありました」


「ッス?」


「勝機になると思うのですが。お水下さい」


メ子はグーから、グー用の小さな水筒を渡されると、閉じた瞼に水を掛けて冷やしだして「飲まないのかよっ、貴重っ!」とツッコミを受けた。



一方トラ子達は密林の中、発砲する骨の兵達に追われていた。

トラ子がプラ子の荷物も合わせて運び、プラ子はぐったりしたそうはちぼんを抱えて走っていた。

水虎は霧を作って後方の骨の兵達の眼を眩まし、白蔵主は前衛の兵達に小さな火花を放って威嚇していた。

トラ子の左腕になっている水虎以外は全員、旧日本軍の扮装しており、霊体の白蔵主まで軍服風の服を着せられ、そうはちぼんも頭部? に無理矢理に兜を被せられていた。


「ラチが開かねぇっ!」


「まずは骨どもをまかなくてはいかんぞっ?」


「そうはちぼんっ! 確かだろうなっ?」


「『妖気レーダー』でバッチリっ。鰐に穢されてない手負蛇の妖気を幾つか感じたよ! ヨモツ子は抜け目が無いっ。きっと、取り込まれる前に自分の一部を切り離してたんだっ!」


「あ、僕、もう走れないかも?」


「バテるの早過ぎんぜっ? プラ子っ。白蔵主、尻を押してやれ!」


「え?」


「ああ、まぁ」


「んっ、だーめぇ~~~っ!!!」


プラ子の悲鳴が密林に響いた。



ヘビ子達は密林な中にできた獣道のような所を駆けていた。メ子はカタメ子が背負い、カタメ子とメ子のリュックと中身は纏めてヘビ子のリュックに詰め込まれていた。

ヘビ子はライフルは膨らんだリュックに括り付け、ギター斧のみを抱えて駆けていたが、『何か』を口に含んでガムのように噛んでいた。


「? ヘビ子、何か食べてるのか?」


空腹になっていたカタメ子。


「蛭ッス。さっき手の甲に噛み付いてきたんで、食べたッス。自分の血の味がして、旨いッス!」


「・・悪食の力は有効なんだ」


ドン引くカタメ子。


「おっ、メ子っ! 見えて来たぞぉっ? あの小屋だろっ?」


獣道の先に朽ち掛けた小屋が見えてきた。小屋の周囲は多少は伐採整備された跡もある。


「そうです。1つ目の手負蛇の欠片です!」


「罠じゃないだろうな?」


「強制型でなければあり得ますが、強制型なら無いと思います。『阻止失敗』のリスクは、この異界の主も負ってるはずです」


ヘビ子達はなるべく骨の兵達を避けつつ、目的地も悟られないように大回りをしてここまで来ていた。

朽ち掛けた小屋に着いた。中は、ガラクタばかりであったが、うっすら果物や穀類のような匂いや、その腐敗臭が残っていた。


「っ!」


ガラクタの山の上に、瞬きと共に半ば白骨化した蛇の形をした光が現れた。朧な蛇は閃光を放つ、ヘビ子達に1つの思念を伝えた。



・・食料保存庫で管理担当の兵の火野が作業をしていると、保存庫の影が寄り集まるようにして骨の蛇達の柱が立ち上がり、そこから外套付きの軍服を着たヨモツ子が現れた。


「こんな所に糧食を隠していたか」


「ヨモツ『大尉』、人の食べ物(・・・・・)なんて興味無いでしょう」


「メリケンの『天使憑き』どもは喰い飽きた。それに、どうやら貴様以外の兵から私は嫌われたようだ。退屈だ。何か、話せ、火野」


ヨモツ子は億劫そうに整然と吊るされた青いバナナに触れた。


「もっと食料を回せ、と散々言われますけど、管理しないと、バナナが青いまま食べて腹を下したり、芋も後先考えずに食べ尽くしてしまったり。押し出しの強い人達や、最初から規律を守らない人達が野放図にするんですよ」


「維新の頃を思い出す。勢い付いた馬鹿は始末に負えない。そもそも官軍に勝たせ過ぎた」


「昨日のことのようにおっしゃいますねっ、大尉。どうぞ」


火野は端の戸板を取り除いた奥にあったマンゴーを1つ、ヨモツ子に投げ渡した。


「いい物を隠しているじゃないか」


「これは私の報酬です。私は真っ当な大学を出ているので資本主義者なのですよ?」


そう言って火野は自分の分のマンゴーを齧り、ヨモツ子も笑って齧った。



幻視から意識を戻したヘビ子達は失った妖力をいくらか取り戻していた。


「おっ、身体を蛇化できるッス!」


「ヨモツ子さんの記憶か」


「信じ難いことですが、ヨモツ子が『デレて』ましたねっ」


「なんか、腹が減る記憶だったな」


こうして、ヘビ子達は次々とヨモツ子の記憶と自分達の妖力を開放していった。



・・2番目の記憶は、島の南東部近くの平原側の密林で、薬品臭く充血した目を見開き尋常な様子ではない隊長が、満身創痍で50名にも満たなくなった兵達を前に檄を飛ばしていた。火野のその中にいた。と、


「っっ、しかしっ! 隊長っ」


大汗をかき、日本本土では力士をしていたが、今は痩せ細り、骨格ばかり目立つ長身の兵が、これも尋常な気色ではなく『意見』を言い出した。


「我々だけで突貫してもいか程の効果がっ? ここは一旦本島に転進しっ、我々も本島勇兵と一体となって、敵国兵どもにっ」


隊長は力士であった兵の胸を拳銃で撃ち抜いた。声も無く絶命する力士であった男。


「理屈を言ったな? 敵前逃亡は断ずるより他無しっ! もはや突貫あるのみっ!! 総員っ、付け(つるぎ)っ!!!」


兵達は号令にライフルに銃剣を装着した。

それからわずか30分後、火野達の隊は近くの平原すら越られず、密林に釘付けにされ、兵員もバラバラになっていた。

混乱のどさくさ紛れに、あれだけの檄を吐いた隊長は薬も切れたのか「諸君らの武功を本島に報せねばならないっ!!」と言い残し、取り巻き数名と遁走していた。

脇腹を負傷した火野は1人、荒い粋で木の陰に隠れていた。その木の陰がざわめき、骨の蛇達共にヨモツ子が現れた。


「火野、もう十分だろう? 森の奥にお前だけ逃してやろう。芋もバナナも水もある。女達はとうの昔に島を離れたが」


ヨモツ子は骨の蛇達と共に火野にしなだれ掛かった。


「私が、お前を慰めてやろうか? 私はこの島が気に入ったぞ? 島民どもを惑わし、私を崇拝させてやろう」


火野はロケットペンダントをヨモツ子に差し出した。


「大尉、これを妻に。よく闘ったと」


ヨモツ子の目が蛇のそれに変わり、身体の一部は白骨化し始めた。


「私を愚弄しているな」


殺気立つヨモツ子。


「貴女は本国に帰って下さい。貴女はここで忘れられてゆく方ではないはずです」


「・・愚か者が」


ヨモツ子はペンダントを奪い取り、森の闇の中に消えた。


「ふうっ」


大きく息を吐き、笑って、木の陰から飛び出すと、火野は最後の突貫を行った。



・・3番目、ヘビ子達が目指す最後のヨモツ子の欠片の記憶は真夜中の島の南東の浜だった。

上空に主天使憑きの女の兵に率いられた大天使憑きの兵数十人が後光を降り注がせながら舞っていた。

ヨモツ子が浜にただ1人いた。


「お前達の国の人の兵達は滅びたぞ? 神の威光は偉大なりっ!!」


嘲笑する主天使憑き兵。


「・・ああ、1人残らずな。お陰で、『怨み』が溜まった」


「何?」


突然に、圧倒的な妖気と毒気を周囲に撒き散らすヨモツ子。近くの岩陰に控えていたロザリオを首から提げ、銀の弾丸を込めたライフルを持つ生身の狙撃兵達は一瞬で跡形も無く壊滅させた。


「・・怨めしや」


ヨモツ子が呟くと共に、毒と骨の大蛇達が溢れ出し、大天使憑き達を引き裂き溶かし果てさせて殺し尽くした。


「コイツっっ、・・DAEMONッッ!!!」


半ば白骨の蛇体化をしたヨモツ子は主天使憑き兵に襲い掛かった。

明け方、ヨモツ子は浜を見下ろす岬の上にいた。右手と両足と頭の半分は無く、半透明になり、数匹の細い骨の蛇達に辛うじて身体を支えられていた。

ロケットペンダントを開いて見ているヨモツ子。

その背後に老いた様子の椰子の木の怪異が歩み寄ってきた。


「無駄な悪足掻きだ。何もならん」


浜では防護服を着た兵士達が除染らしき活動をしていたが、近くの毒の影響を受けていない岸にはボートや小型船に乗り付けた兵士達が次々と島に乗り込んでいた。国旗を振る者達もいる。沖には艦隊の姿もあった。


「お前の島民達も、最初に着た宣教師を煮て焼いて喰っただろう?」


ペンダントを閉じ、応えるヨモツ子。


「それは、物の弾みだっ」


「ククッ、上手い言い方だ。・・だが、我ら、見ものであったろう?」


「何をっ?!」


怒りの表情を見せる椰子の怪異。


「古きに習い、琵琶の弾き方でも教えてやろうか? 語り草にするといい」


「お前は結局っ、血の臭いを嗅ぎ付けて這ってきた悪い蛇だっ! 早く島を出ていけっ。島民の中にはお前達に懐いた者達すらいる。何より罪が深いっ! お前達もヤツらも、皆、出てゆけっ!!」


「混じり合い、憎み合うのは避け難い。悪徳が付いて回る。だが、止まっていられない。愚劣にも、彼らは」


ヨモツ子は自らの陰に消えた。



ヘビ子達は、全ての力を取り戻した。同じく力取り戻したトラ子達と怪異達のスマートフォンで連絡を取り合い、島の南東部密林で合流した。

取り敢えず、飯盒で米を炊いて食べてみつつ、決起集会となった。


「よ~し、こっから反転攻勢ッス!」


「ヨモツ子さん全てみました・・僕らで、開放しますっ!」


「オラっち、気まずいぜ」


「ボクも・・」


「興奮したっ!」


「トラ子」


「それよりもだっ! 鰐どもが丸ごと残っている上に、溝出までいるっ。総力戦のなるぞっ?!」


「ヨモツ子は『生き物』としては雑だから、派手に仕止めても若水ブッ掛ければ大丈夫です。手加減無用でっ!」


「物量戦なら任せなっ!」


ヘビ子達は司令部のある基地に強襲を掛けた。

まず、そうはちぼんが上空からフルパワーで閃光を放って、軍服をきた鰐人間達と、それらが乗り込む発進前の戦闘機と戦車隊を牽制。

警報が鳴り響く中、メ子が放った目玉達で怪光線を連発し、発進前の戦闘機の7割型を破壊。発進離陸した戦闘機は、グーの吹雪で絡め取ってパイロット鰐を凍死させ撃墜。

戦車隊はプラ子と白蔵主の炎で纏めて撃破し、鰐の歩兵はカタメ子の浄土神兵で迎え伐ち、設置砲類は引き続きギター斧を借りていたヘビ子が次々と破壊していった。

基地の外の鰐人間達を粗方、片付けると、密林から無数の骨の兵達が増援に現れだした。


「雑兵はボクらで十分っ!」


「任せておけっ!」


骨の兵達は、そうはちぼんと白蔵主に任せ、ヘビ子達は基地内に突入した。



太平洋戦争期の武装をした鰐人間達と、複数体の骨の組合わさった蜘蛛のような骨の魔獣達を退けながら、気配を頼りに進んでゆき、司令室にたどり着いた。

骨の溢れる葛の棺からハミ出した旧陸軍の軍服を着た骨の鰐人間、溝出と、米軍の旧軍服を着たヨモツ子がいた。


「敵前逃亡しなかったようだな。クックッ」


「自由、平和、全滅ぅっ!! ゲヒヒヒッッ!!!!」


「手筈通りッス!」


ヘビ子、カタメ子、メ子はヨモツ子。トラ子、プラ子、グーは溝出に突進した。


「手合わせお願いするッス!」


「笑止っ! ヘビ子っ、未熟者っ!!」


基地の壁を次々と突き破って、燃える格納庫までヨモツ子を押し出すヘビ子。

際限無く影から出現する毒と骨の蛇達は返してもらったギター斧を大型化させたカタメ子と、大目玉に乗って自分の周りに密集した小さな目玉で怪光線を連射するメ子が打ち払って支援した。

互い蛇体化するヘビ子とヨモツ子。

神速で殴打し合った後、見えざるウワバミの牙をけし掛けるヘビ子。骨の蛇の鞭で全て弾くヨモツ子。

即座にヨモツ子に出した穴から飛び出して必殺の蹴りを放つヘビ子。左腕が砕けるに任せてそれを受け、右手の貫手でヘビ子の胴を貫き同時に毒を打ち込むヨモツ子。


「げぅっ!」


吐血し、前身を毒に侵されるヘビ子。


「せぇいっ!!」


腕を失くしたヨモツ子の左側から大型化ギター斧を振り下ろし、避けさせることでヘビ子から離させるカタメ子。逃れた先に、グルグル眼鏡を取ったメ子が予知射撃で怪光線を連発する。

行動を読まれても撃ち気を見切って回避するヨモツ子。カタメ子に若水を振り掛けられてある程度回復するヘビ子。


「カタメ子っ! メ子っ!」


「了解っ!!」


意図を察して、声を揃えるカタメ子とメ子。

メ子は単独で、再び放たれだした毒と骨の蛇を予知射撃で迎撃。カタメ子は大型化ギター斧をヘビ子に渡し、さらに自身を泥に変えてヘビ子の身体に纏わり付き、そのまま固まって鎧と化した。


「ニョロッ!」


「見苦しい戦い方だっ!」


ヨモツ子は骨の鞭を圧縮させて骨よ大剣を造り、神速でヘビ子の大型化ギター斧と打ち合いだした。

受け切れず、互いに斬り付け合うが、ヘビ子のダメージはカタメ子の鎧が引き受けた。


「カタメ子っ、頑張るッス!」


「あんたがねっ!」


ヨモツ子の両足を砕いたところで、カタメ子は鎧形態を維持できなくなり吹っ飛ばされた。


「うわぁーっ?!」


さらにヨモツ子は毒と骨の蛇を操り、消耗して予知精度の落ちたメを毒と骨の蛇の球体の中に封じ込めた。


「頃合いだ、ヘビ子」


「・・ッス!」


両者妖気を高め、神速で交錯する、かち合い、砕ける互いの武器。ヨモツ子の貫手。ヘビ子の蹴り。貫手はヘビ子の左腕を吹き飛ばし、蹴りはヨモツ子の頭部を吹き飛ばした。

メ子の毒と骨の球体牢獄が解除される。目玉で自分の周囲を完全に覆って身を守っていたメ子は力尽きて床に落ちた。

そこへ壊れた壁をさらに突き破り、背負ったグーの力を借りたトラ子が『氷の水虎の爪』で溝出を切り裂きながら飛び込んできた。


「砕けろっ!」


「おっらーっ!!」


溝出はすぐに集約して復活しようとしたが、その中心の『骨の心臓』を炎の矢が射貫き、


「死ぃいいいーーーーっっっ!!!!」


絶叫し、爆炎に焼き尽くされて滅び去った。その骨の破片が逆巻いて、デフォルメされた小さな溝出本体が現れた。


「アチチっ! もっと優しく殺って下せぇよっ?!」


「すいません、大丈夫ですか?」


炎の弓を持ったプラ子が、瓦礫に足を取られながら格納庫にきた。


「そっちも片付いたね」


カタメ子はダウンしたメ子と、蛇体化が解けたヘビ子に2本の若水を振り掛けながら言った。ニョキっと生えてくるヘビ子の左腕。

鈴の音と共に白被りも現れた。


「ヨモツ子が仕込んでおいてくれてよかった。纏めて百番手形を失うところだった」


白被りに反応するようにヨモツ子の死体の胸部から肉の蛇が吹きだし、これをトラ子が片そうとすると、首無しヨモツ子が右手で掴み、握り潰して仕止めた。


「うっ、自力かっ」


「半端無いッス」


首無しのまま浮き上がり、白被りに手で合図して催促するヨモツ子。白被りは呆れつつ、伸ばした袖で若水を首無しヨモツ子に振り掛ける白被り。

途端、影から生じた毒と骨の蛇がヨモツ子の全身を覆い、それが解けると、冬服ブランド制服に包帯巻きの格好をした無傷のヨモツ子が立っていた。


「・・いい」


トラ子が顔を赤らめ、


「ヨモツ子さ~んッスっ!!」


ヘビ子が泣いて駆け寄ると、


ズゥウウウンンンッッッ!!!!!


猛烈の妖気が迸り、呆けていたトラ子とのこのこ抱き付こうとしたヘビ子をブッ飛ばした。


「ぉおおっっ?!」


「ニョロ~っっ?!」


床を踏み割り、天井を毒と骨の蛇達で突き破って溶かすヨモツ子。


「許さんっっ!!! 左眼の鰐めっ! 咄嗟過ぎて、分体の記憶のチョイスをバグッたっっっ!!!! 屈辱っっ!! う~~~っっっ、怨めしやぁあああーーーーっっっ!!!!」


ヨモツ子の怒りは早々収まる物ではなく、ヘビ子達を果てしなくドン引きさせた。

尚、そうはちぼんと白蔵主は問題無く無事であった。



・・後日、5月の末、火野聡子(さとこ)は小学生の息子と娘を連れて母方の曾祖母と曾祖父の墓参りに来ていた。

戦死したらしい曽祖父の明確な命日はわからないので一緒に参ることになっていた。通常は盆に纏めて済ましてしまうが、昨年母方の祖母が亡くなり、今年は母も足を挫いてしまい、厄祓いではないが、たまたま仕事の休みが取れたので来ていた。

夫はこの墓地が「蛇をよく見掛ける」と苦手にしていて、わざわざ休みまで取って付き合ってくれなかったが、しょうがない。

ただ1人で来るのも侘しい気がしたので、子供達も学校を『法事』と嘘を吐いて休ませてしまった。迷信深いワケでもないので、自分の行動が不思議だった。

子供達は当然、別に墓参り等好きではないので、ハッピーセットが欲しいだとか、ポテトが食べたい等と言うので、途中マックに寄ったのだが、ふと気付くと娘が食べ掛けの中身の入ったマックの袋を車から持ってきてしまったので、墓場にマックのポップの匂いが振り撒かれて少々妙な具合になってしまっていた。

2度手間になるかから墓の前にゆく前にバケツに水を汲んで、聡子が息子に持つのを手伝ってもらって歩いていると、墓に場違いなブランドセーラー服を着た、しかしあちこち包帯を巻いた、奇妙な女子高校生と擦れ違った。


「変わった子・・」


「誰?」


「綺麗ねー」


女子高校生は去ってしまった。

聡子はなんだか落ち着かなくなり、母方の家の墓の前にゆくと、既に花と線香とマンゴー、そして古びているがよく手入れされたロケットペンダントが置かれていた。

子供達が不思議がるのを宥め、ペンダントを開ける聡子。

若き日の曾祖父と曾祖母が写っていた。

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