白蔵主
正気の者ならば呼吸も難しい程、強く焚かれた香の煙が立ち込める、幾何学的に敷かれた畳の間は異様に広く果ても見えなかった。
そこは薄暗く、妖しい火の灯された雪洞が無数に立ち並び、頭部の上部に狐の半面を着けた鰐人間達が粘り付く様な曲調の雅楽を演奏していた。
上段の間に、中世の公家とも神主ともつかない格好をした狐の獣人がいた。
下段の間には白無垢を着た美しい人間の女がいた。女は平伏して口上を述べた。
「幾久しく、『白蔵主』様に添い遂げます」
「顔を上げろ」
狐の獣人、白蔵主が促すと、女は至福の表情で顔を上げた。白蔵主の両目が妖しく光ると、女に掛けられた幻術が解けた。
「っ?! ひぃっ! 化け物っ!! うっ、ゴホゴホっ、お香?? 何ここ? えっ? 撮影っ? ちょっとっ、マネージャー呼んでっ!! 私を誰だと」
女は動き難い白無垢に足を取られつつ慌てて白蔵主から離れようとしたが、白蔵主の背後から噴出した妖しく燃える尾に巻き付かれ、声を立てる間も無く、骨のみを残して焼き尽くされた。
「・・・」
炎の消えた尾で焦げた頭蓋骨を拾い、ぞんざいに雪洞も少ない斜め後ろの方に放り投げる白蔵主。
カチャっ、と軽い音を立てて女の頭蓋骨は、他の女の頭蓋骨の山の上に落ちた。
「驕った芸能関係の女はもういい、残りは喰え。他の、もっとまともな女を寄越せっ! 次っ! 次だっ!! どこかにいるはずだっ、『真実の女』がっ!!!」
白蔵主は、白蔵主憑きの男は、半身を鰐人間化させ、怒りに任せ、吠えた。
とある森林地帯上空を一軒家程度の大きさの、アダムスキー型円盤飛行物体が飛んでいた。
夕暮れの中、半透明ながら淡く発光して、クルクルと回転もしながら飛んでいる。
その内部は不思議と回転しておらず、明るいが中央部分に付近に芝居のセットのような形状の『居間』『台所』『トイレと手洗い場』『風呂と洗面所』『コインランドリー』の5つの部屋が設置されていた。
四方に壁及び天井があるのはトイレと風呂の部屋だけで、あとは出入口ともう1面のみが壁で覆われるだけであった。
「というか『プラ子』、なんで『巫女コス』ッスかっ? 街で目立つッスよ? んがっ」
安そうな畳の敷かれた居間で横になって、杏の実の小片のシロップ漬けした物を棒状ビニールに容れられた駄菓子にギザ歯を出して獰猛にしゃぶり付きながら、何気なく問うヘビ子。いつもの体操服ジャージ姿であった。
「え~?」
プラ子、こと金火憑き・兄の弟、奏太であった少年はだいぶアレンジした巫女服を着ていた。
「僕、近接戦タイプじゃないし、意外と動き易いんだ。あんまり人目に出るつもりないし・・」
「よく似合ってる、プラ子。・・私が対価を溜めて、お前をっ! 女の子にしてやろうかっ? ハァ、ハァっ!!」
途中で豹変し、迫る学ラン姿のトラ子。
「ううっ、大丈夫っ! 自分で考えるからっ。ちょっと・・近いっ」
怯えるプラ子。
「落ち着けトラ子。お前、最近自分を解放し過ぎだぜ?」
見かねた左腕の水虎が迫るトラ子の顔面にプロレス技のアイアンクローを掛けて押し止めた。
「痛タタっ?!」
「『プラチナローズ奏子』、今回のターゲットの白蔵主はどうも美人の女ばっかり狙ってる。このメンバーだとお前が一番ヤバいかもしんないから気を付けろよ?」
ブレザー制服のカタメ子は座椅子に座ってカベフォンをイジりながら言った。
「自分も同感です。プラチナローズ奏子は気を付けて下さい」
セーラー服のメ子は眷属の目玉達を積み上げてバランスを取ることを試みながら言った。
「まずプラチナローズ奏子はまだ見習いだですから無理しないようにしてくださぁい」
「わたしがプラチナローズ奏子と組む。プラチナローズ奏子のことをは任せろ。プラチナロー」
「『字』をフルネームで呼ぶの止めてっ! 自分で付けてないっ、兄が勝手に付けてたんだからっ! 」
「似合ってるからいいじゃん。ニヒヒっ」
「自分もいいと思いますよぉ? ムフフっ」
「ヘビ子さんっ、なんとか言って下さいっ」
泣き付くプラ子。
「んがっ、2人ともしつこいッス。めっ、ッスよ? めっ!」
杏菓子の底の方を食べ切ろうと苦戦しながら叱るヘビ子。
「ニヒヒヒっ」
「ムフフ、ですっ」
と、飛行物体の内部全体の宙に、飛行物体の進行方向の映像が映しだされた。森林地帯の先に大きな山が見えてきていた。
「あの山だよっ!」
そうはちぼんの声が響いた。飛行物体はそうはちぼんの変化したモノだった。
「近くの集落も丸ごと持ってからてるから、なるべく助けてねっ」
「了解ッスっ!」
「全員ちゃぶ台に掴まってっ!!」
ヘビ子達と部屋、家具、その他、ヘビ子達が散らかした物等が光を纏われて守られる中、ヘビ子達はちゃぶ台にしっかり掴まった。
そうはちぼんは山を守っていた白蔵主の結界に突入し、突き破っていった。衝撃が内部に伝わる。
「わわわわっ?!」
慌てるヘビ子達。
気に入らない花嫁達を纏めて3人焼き払っていた白蔵主憑きは異変に気付いた。
「・・そうはちぼんはもう結界の外に逃げたようですね。あまり時間を掛けると増援を呼ばれますよ?」
近くの雪洞の影が集まってドレスを着た鰐人間の形になり、足元に転がったいた焼けたばかりの頭蓋骨を一つ、踏み割りながら、からかうように白蔵主に告げた。
「わかっている。まだ私は真実の女を見付けていないっ! 邪魔されてなるものかっ」
白蔵主憑きは闇の力を高めた。
ヘビ子達は3班に別れて山の頂上付近にある、白蔵主憑きの拠点になっている廃神社を目指していた。
もっとも整備された登山道をメ子とトラ子ペア。いまでも修験者が利用する険しい山道をヘビ子がソロで。
そして神社へ向かうには遠く、道でもなんでもない崖から回り込むルートをカタメ子とプラ子のペアが進んでいた。
3班の内、隠行札を使っているのは敢えてカタメ子プラ子ペアだけだった。2人とも3枚も背に貼っている。
他の班を陽動にする作戦ではあったが、距離的には最もヘビ子のルートが近く、進み易さと比較的開けていて範囲攻撃しやすいのはメ子とトラ子のルート。
ヘビ子達は三段構えの攻略で挑んでいた。
メ子トラ子ルートには登山道の上から雪崩のように狐面の鰐人間達が突進してきた。
「自分、焼きますから。位置的に、落ちてきた鰐を払ってもらえますか?」
「わかった。ゆくぞ水虎っ!」
「おうよっ!」
メ子は目玉の怪光線で狐面の鰐人間達を焼き、トラ子は水の鉤爪で落ちてきた鰐人間やその破片を打ち払いだした。
一方、ヘビ子は、
「あちゃ~・・ッス」
木立の間からゾロゾロと現れた、半分は狐、半分は鰐の面を被せられた武装した虚ろな様子の村人の大群に困惑していた。
「うーん、鰐の要素が入るとウワバミが食べちゃうッスね・・ということでっ!」
ヘビ子は前方の出した穴から『甘い、眠りのガス』を放って仮面の村人達を纏めて眠らさせた。
「あとでフォローするんで、寝といて下さいッスっ!」
ヘビ子は眠る村人達を飛び越えて先へ進もうとしたが、
ドドドドドドッッッ!!!!!!!
側面の地面に突然、影が集まり沼のようになり、底から無数の鋭い突起物がヘビ子に向かって撃たれた。
「ニョロっ?!」
右腕を大蛇化させて殴って弾きつつ、着地したが、弾いた突起物をいくつかが村人に当たってしまった。
即死してしまった者もいたが、掠っただけの者も身体が腐り果てるようにして死んでいった。突起を弾き、傷付いたヘビ子の右腕も傷口が毒された。
「おやまぁっ! 助けに来たのに何人も殺すなんてっ、百人手形も虚仮威しですねぇ」
影が集まり、ドレスを着た鰐人間になった。
「『右眼の鰐』ッスかっ!!」
蛇の右腕を収縮させて毒を噴きださせ、強引に傷を再生させるヘビ子。左腕と両足も爬虫類化させ、妖気を高める。
「ウワバミ憑きの子。貴女の優先順位は低いけど、ワタシが居合わせたので殺そうと思います。さよならっ!」
右眼の鰐と呼ばれた、ドレスの鰐人間は全身から毒の背鰭を出して、それをヘビ子に放出させた。
頂上付近の廃神社は真新しい立派な大社のようになっていた。
見張りの狐面の鰐人間達も多数いたが、崖等の難色を手早く踏破したカタメ子とプラ子はいち早くたどり着いていた。
大きな物音を立てるミスも無く、隠行札の効果を発揮させて社の内部に忍び込んでゆく2人。
「・・思ったより手薄だね」
「他の班のおかげだろうさ。あんた、なんかいい匂いしない?」
「最初の準備でもらった魔円の残りで香水買っちゃった」
「目立つでしょうにっ」
「てへっ☆」
「・・・」
2人はすぐ側にいるが、小さく囁いて会話する為に木霊の霊気で通信していた。
外観からするとデタラメに広く、複雑な社の中を妖気の気配だけを頼りに奥へ奥へと進んでゆくと暗がり中に鳥居が見えた。
鳥居の内側の空間は歪んでおり、その向こうに強い妖気を感じる。
「ゲームならここでオートセーブ入るね」
「? 僕、ゲームはあんまりしないから」
「それ『TV見ないアピール』とか『漫画、アニメ見ないアピール』とか『邦楽聴かないアピール』とかとおんなじだかんねっ?!」
「え~??」
と、周囲の闇から狐面の鰐人間達が染み出始めた。2人の背の札も焼き消える。
「カタメ子が大きい声出すから・・」
「うっ、こんなヤツら無視無視っ! 先行こっ」
「行くけど」
2人は鰐人間達に構わず、鳥居に飛び込んだ。が、
「ぶはっ?!」
カタメ子だけ弾かれた。尻餅をつくカタメ子。
「はぁっ? 何?『お呼びじゃない』ってこと??」
群がりだす鰐人間達。カタメ子は起き上がり様にギター斧で近くの狐面の鰐人間達を纏めて斬り払った。
「わたしっ! 人間だった頃、読者モデルだったんですけどぉーっ??!!!」
まだまだ鰐人間が迫る中、カタメ子の怒りの雄叫びが響き渡った。
濃密な香が立ち込める、数えきれない雪洞の置かれた空間にプラ子はいた。
足元には選ばれなかった女達の焦げた骨が散らばる。
上段の間には既に怪異の姿を晒した白蔵主憑きが、妖しく燃える尾を背に立ち、プラ子を見下ろしていた。
「美しい怪異憑きだな。字は?」
「・・プラ子」
「ふざけた名だ」
「貴方は?」
「字も何もかも、怪異どものくれてやった。今の私は、白蔵主だっ!!!」
尾が激しく燃え上がり、それ振るうと妖しいの炎の渦が起こり、女達の骨も、周囲の雪洞も焼き払ってゆくが、プラ子だけは燃えることがなかった。
「ふんっ、お前も炎の怪異か」
「大切な人から譲られた火なんだ。・・貴方はなぜ人を焼くの? 僕の火には命を燃やした想いが残っている。貴方の火は虚ろ。とても寂しい」
白蔵主は炎を消した尾を素早く伸ばし、プラ子の片頬と片耳を切り裂いた。
動じず、正面から白蔵主に見据えるプラ子。
「もう一度言うよ? 貴方の火は虚ろで、寂しいだけ」
プラ子は細い糸のような輝く炎を操って傷口を焼いて止血しながら、言った。
山の一角で妖気をはらんだ爆発が起こった。その中心に蛇体化したヘビ子がいた。
「八巻きの怪は殺すッスっ!!!」
髪の無数の蛇で神速の連打を放つヘビ子。回避し、蹴りで打ち払う右眼の鰐。
「私怨ですね。迷惑ですっ!!」
右眼の鰐は宙に逆巻かせた闇から一振りの黒く放電する矛を取り出した。
「っ?!」
髪の蛇を引き戻すヘビ子。右眼の鰐は嗤って矛を一閃した。放たれる黒い豪雷。ヘビ子はガードしながらも直撃を喰らい、木々を焦がし薙ぎ倒しながら吹っ飛ばされていった。
「ワタシの『八坂鼓』、痺れるでしょう? フフフッ」
「・・っっ、全然、・・効いてない、ッスよ?」
全身黒焦げにされ、焦げて燃え始める砕かれた木々に埋もれながらヘビ子は強気に言い放った。
プラ子は初夏の気配の風の吹く、延々と続く藤棚の下を歩く白蔵主憑きの後に続いていた。真昼間であるようだった。
風に藤の蔓がギシギシとたゆんだ。
「・・勝ち続け、奪い続けた」
白蔵主憑きは不意に話しだした。
「母には憎まれたが、女に不自由したことはない。数えきれぬ程、女を貶めて、私は悠々と暮らした。この世に、女以上の富はないからな? ククッ」
白蔵主憑きは顔を歪める。
「なら、そんな姿になってまで女を求めなくてもいいのに」
「・・お前は『女』を侮っているな?」
振り返った白蔵主憑きは憎悪に凝り固まった、怪異そのモノの顔をしていた。
「何がそんなに怖いの?」
「・・・」
白蔵主憑きは前に向き直り、それと同時に辺りの景色は月光のしたの薄の原に変わった。
独りでに、薄の上に浮か小舟が近付いてきて、白蔵主憑きは、ふわり、とその上に乗り、舟をプラ子の側に寄せ、獣の手を差し伸べた。
「乗れ」
プラ子がその手を取ると、身体が浮き上がり、舟に乗せられた。
白蔵主憑きとプラ子は、秋風にサァサァと音を立てる、果てない薄の原を月光を受けながら小舟で進んだ。
「奪い尽くして、富んで、勝ち誇って、生涯を終えようという時、気付いた。全て奪われたと、女どもにっ!」
白蔵主憑きは総毛立って呻いた。
「私の資産にもっ! 人脈にもっ! 事業にもっ! 権力にもっ! この身体の血の一滴一滴にもっ!! 女どもが喰い付き、離さないっ!!! 嘲笑っていたのだっ、あの、女どもっ!!」
吠える白蔵主。
「・・・」
プラ子は近付ければ指も掌を切り裂く程、鋭く毛羽立つ白蔵主憑きの背に片手を置いた。プラ子の血が、白蔵主憑きの背を伝う。毛羽立ちが引いていった。
「悪人なら、もっと鈍感であるべきだよ」
「・・知った口を」
景色が変わった。小舟も消える。白蔵主憑きとプラ子は降り積もった粉雪の上に降り立った。
白蔵主憑きは尾でプラ子の片手を払って背から離し、払い様に手の傷を尾の火で焼いて流れる血を止めた。
「んっ」
焼かれた痛みに顔をしかめるプラ子。
白蔵主憑きは雪の向こうに見えた咲き誇る寒椿の回廊に進んでいった。プラ子も続いた。
白蔵主憑きとプラ子が粉雪を踏み締める音だけが響く。寒椿の回廊はどこまでも続いていた。
「悪行を悔いたことは無い。ただ、滅びた者達の、怒りの一つ一つが、こびり付き、私を阻んだ。地獄にゆくことすら躊躇わせた」
「・・僕は一度焼け死んで、やっぱり恐ろしくて、どこか暗い所で留まっていた」
プラ子は知らずに話し出していた。同情したのか? 同情を請うたのか? 後になってもわからない。
「敗れ去ったことを認めたくなかった。産まれない方がよっぽど良かった、って認めたくなかったんだ」
「・・理由無く、完膚無きまでに滅びる者はいない。その者自身に理由は無くとも、一つの因果が燃え盛って、焼き尽くすのだ。大敗とはそんな物だ。逃れる術は、無い」
また景色が変わった。
花咲く果てない梅の園にいた。
「ブルルッ」
いななき共に、プラ子は下から持ち上げられて馬の鞍に乗せられた。手綱は白蔵主憑きが取る。馬は花降る中、歩み出した。
「地獄とはどんな所か・・母もそこにいるのだろうな。あの、愚かな、女」
白蔵主憑きは花舞う遠くを見て呟いた。プラ子は眠気の様な物を覚え、白蔵主憑きの背に頬を寄せた。硬く、斎場のような匂いのする背だった。
知らずにプラ子の頬に涙が溢れた。
「待っている人なんてどこにもいないんだと思う。僕達はただ彷徨って、探し合うだけ。貴方の残酷は決して許されないけど、貴方も、きっとはぐれただけ」
白蔵主憑きは応えなかった。
景色は、変わった。馬は消え、プラ子はパシャりと、踝程度の浅い水の張った湿地の上に降りた。ひんやりとした水。小雨が降り頻り、辺り一面に不規則に赤と青の藤の花が咲き乱れていた。
白蔵主は離れた場所で背を向け、小雨に打たれていた。
「白・・」
プラ子が呼び掛けようとすると、白蔵主の尾に火が灯り、果てない湿地の中空に鋭くヒビが入り、空間が叩き割られて、大型化したギター斧を振り下ろしたカタメ子が飛び込んできた。
「だっしゃーっ!!!!」
派手に水飛沫を上げて着地するカタメ子。
「白蔵主憑きっ! 捉えたよっ?!」
大型化ギター斧を鰐の方の顔で振り向いた白蔵主に差し向けるカタメ子。
「カタメ子っ! 待ってっ」
プラ子は間に入ろうとしたが、白蔵主が虚空から発生させた刀を腹部に撃ち込まれ、弾き飛ばされて、背後に湿地から起立した平たい大岩に激突し、飛び散った血が呪いの陣を描き、大岩に磔にされるプラ子。
「うっ・・ごふっ」
プラ子は吐血して身体の自由を奪われた。
「プラ子っ?! こぉのっ、狐鰐野郎っ!! わたしんとこのお店のNo.1にブッ刺して拘束した挙げ句っ、わたしの読モ歴をパージしやがってぇえっ!! 月に2~3通はファンレターもらってたんだぞっ?! 絶っっ許っっっだぁああーーっっっ!!!!」
カタメ子は足元に泥の渦を起こし、そこから人に近い形の泥の柱を出現させた。
白蔵主憑きは自分の周囲の宙に多数の刀を出現させた。
「固めるっ!!」
泥の柱は『埴輪』の形に固められた。
「やっちゃいなっ!『浄土神兵』っ!!」
浄土神兵と呼ばれた埴輪軍は白蔵主憑きに突進を始めた。
「痴れ者がっ」
白蔵主憑きは刀の1本1本を炎の分身に握らせて、浄土神兵を迎え撃たせた。
「もらったっ!」
カタメ子は白蔵主憑き本体に飛び掛かる。二刀流の構えで巨大化ギター斧を受け流す白蔵主憑き。
眷属達が争う中、両者激しい斬り合いとなった。
「白蔵主、カタメ子・・」
磔にされたプラ子は腹から出血しながら、泣き続けるばかりだった。
「ニョロっ!」
焦げた身体から『脱皮』して飛び出したヘビ子は、真新しい、無傷の身体で右眼の鰐に躍り掛かった。
八坂鼓の黒雷は『撃ち気』を見切っての回避、あるいは髪の蛇の剛力で周囲の木々をへし折り引き抜き、これを投げ付けて防いでいた。
「相変わらず、デタラメですねっ、ウワバミはっ! ならばっ」
右眼の鰐は八坂鼓の雷で自らを激しく感電させた。
「っ?!」
帯電した右眼の鰐は神速で機動しだし、ヘビ子に襲い掛かった。
ガガガガガッッッ!!!!
凄まじい連打と感電で、一方的に消耗させられてゆくヘビ子。
「二度と脱皮できないようっ、芯まで通電してあげましょうっ!!」
「やれるもんならやってみるッス!!」
見えざるウワバミの大口を自身の近くの全方位に放つヘビ子。右眼の鰐は、ニッと嗤って身体をあちこち喰われるのに構わず、ヘビ子の真後ろから神速で突進し、八坂鼓を突き込んだ。
が、ヘビ子の背面に穴が出現し、八坂鼓の切っ先は素通りし、代わりに穴から金火憑き・兄から奪った炎が噴出して右眼の鰐を焼いた。
「っ!」
右眼の鰐は即座に宙を蹴って飛び退こうとしたが、ヘビ子の髪の蛇に全身と八坂鼓を絡め取られた。
「捕まえたッスっ!!」
振り返ったヘビ子は、右眼の鰐を燃やしていた金火の炎と八坂鼓の放電に巻き込まれることに怯まず、両拳に力を込め、猛烈な拳打のラッシュを放つヘビ子。
「おのれっ、おぶばぁっ?!」
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴッッッ!!!!
ヘビ子に原型を留めない程に、殴り潰されてゆく右眼の鰐
。
「ッスっっっ!!!!」
最後に地面に向かって右眼の鰐を蹴り落とすヘビ子。木々を吹き飛ばし、山肌を削って叩き付けられた右眼の鰐。
八坂鼓を持つ肉塊の状態で即座に捻れてそそり立った。
「調子に乗り過ぎですよっ?! 成り損ないの分際でっ」
「はぁはぁ、フルボッコされてイキっても説得力無いッス」
消耗で蛇体化が解け掛けているヘビ子。そこへ、
「ヘビ子ーっ!」
「無事ですかっ?」
「いやっ、山、破壊し過ぎだろコレ??」
大目玉に乗って、メ子とトラ子が飛来してこようとしていた。
「チッ、段取りが悪かったようです。覚えめしたよ? ウワバミの子っ!」
肉塊の右眼の鰐は、その影から多数の蝙蝠な翼を持つ鰐人間達を噴出させて、ヘビ子に突進させながら、影の中に沈んで消えていった。
「もう一歩、なんッスけど・・」
ヘビ子は口惜しそうに呟きながら、解けかけた蛇体化の姿で蝙蝠鰐人間達に応戦し、程無くメ子とトラ子も助太刀に入った。
浄土神兵と白蔵主憑きの炎の分身達が相討ちで全滅する中、カタメ子と白蔵主憑き本体の戦いにも決着がつこうとしていた。
「わたしはっ! 朝ドラと月9にエキストラ出演したこともあーーーるぅっ!!!!」
カタメ子の魂の叫びを込めた? 大型化ギター斧の一撃が双刀を叩き割り、白蔵主憑きを深々と袈裟懸けに斬り裂いた。
「かはっ」
流血し、小雨降る藤の湿地に倒れる白蔵主憑き。
「ああっ」
涙が止まらないプラ子だったが、呪いの陣が解け、腹を貫いた刀も消えて大岩の下に落ち、水を被りながらも細い炎の糸で腹の傷口を焼き、止血をした。
「んっくっ」
苦痛に顔を歪めるプラ子は、よろめきながら起き上がり、白蔵主憑きとカタメ子の元へと歩きだした。
「マックのCMに至ってはっ!『わあっ、わたしもナゲットっ!』と台詞まであったっ。放送では音声消されてたけどっ。・・そんな、わたしの完全勝利っ、だな。白蔵主憑きっ!!」
「・・くだらん、勝手に、しろ・・・」
白蔵主憑きの身体は白く結晶化し始めていた。
「白蔵主憑きっ」
側までなんとかきたプラ子は白蔵主憑きの頭の近くに膝を突いた。
「? 泣いてんの??」
イマイチ流れが読めないカタメ子。
「燃やしてくれ、お前が、地獄に送れ」
プラ子は白蔵主憑きの頭を両手で挟んで額に口付けした。仰天するカタメ子。
「ちょっ?!」
「地獄に逝くまでの御守りです」
微笑むプラ子。
「酷い、ヤツだ・・」
薄く嗤って、白蔵主憑きは砕け散って消え、そこから煙とも炎ともつかないモノが立ち上がり、デフォルメされた小さな狐の怪異、白蔵主本体が出現した。
「湿っぽくて敵わんっ」
小雨は止み、藤の異界は消え、大社の幻も消え、古び、打ち捨てられた夕闇の廃神社跡の草地に一同は居た。
「何をっ、どうしてたんだよっ??」
まだ衝撃が抜けていないカタメ子。
「秘密です」
プラ子は宙に出した穏やかは炎から取り出した、3等品・若水を頭から被って傷を癒しながら涙が止まらないまま、笑顔を見せた。
「オ~イっ!」
蝙蝠鰐人間を退けたらしいヘビ子達が合流。ヘビ子はジャージの再生が間に合わず、下着の上下に裸足という格好で元気良く走ってくる。鈴の音と共に白被りも現れた。
「適材適所。この組を送り込んで正解だったようだね、白蔵主」
「ふんっ、真実の女、か。・・幻だな」
白蔵主本体は、プラチナローズ奏子を見ながらそう呟くのだった。